月桂樹。

古代ギリシャでは、その葉で王冠を作り、勝利と栄光のシンボルとされた月桂樹は、常緑樹でありとても丈夫な木だ。
ずっと昔から僕の家には、高さ170センチくらいでスタンダード仕立ての月桂樹の木が二本あって、小さなベランダの両脇を固めている。(パリのブティックによくあるまっすぐ一本に伸びた木の上に、まん丸に刈られた緑の葉が茂っている樹形をスタンダード仕立てという)
昨年の夏の暑さと度重なる旅行のせいで、植物への水やりが少し疎かになり、珍しく月桂樹の葉が葉焼けしてしまい、一時は枯れてしまうかもしれないと思うほど、常緑の葉が枯れてぶざまな姿でいた。
ベランダで水やりをするたびにその痛ましい姿を横目に見ながら、かわいそうな思いをさせてしまったなあ…と思っていたのだった。
それが、ゴールデンウイークが終わる頃、不意に新しい芽が見え始めた。やがて芽はいたるところから萌芽して、瞬く間に明るい緑色が木全体を覆い尽くした。
死んだかのように思えた植物が、色鮮やかに蘇る姿を見ていることは、僕にとってたとえようのない喜びだった。
間も無くしたらまた元の美しい球形を取り戻し、ベランダに美しい秩序を演出してくれるだろう。

纐纈

ウニと魚と翡翠豆

アワビと海老のしんじよう

琵琶湖の稚鮎

『纐纈』と書いて、『コウケツ』。大将の名前のようだ。
北新地にある店は、カウンター6席、掘り炬燵4席の小さな店。30代であろう大将ともうひとり若い男性ふたりで料理を切り盛りしている。
急に大阪に来て、「この店は美味しそうだなあ…急に予約しても無理だろうなあ…」と思いながら電話をすると、丁度いい具合に一席だけ空いていた。
結論から言うと、とても美味しい店だった。ワインの品揃えも泡から赤まで素晴らしい。日本酒も珍しいものが飲める。
料理は、基本的にはお任せ1万円だけど、遅い時間は適当に頼むことが出来るようだ。
先付けにウニと魚、翡翠豆にパプリカで、気合が入っているのがわかる。和食というより、創作和食だろうか。
桜海老と青のりは香ばしく、お造りは和歌山のマグロ、長崎のイカ、広島のカレイとどれも素晴らしい。
アワビと海老のしんじようは、干しこで出汁を加えてあり独創性あふれる一品。
琵琶湖の稚鮎は新鮮で、驚くことにスッポンの黄ニラ炒めにスッポンスープが出てきた。
松坂牛のもとになったという熊野牛に、のどぐろの煮物、〆は5種類から選ぶことが出来て、蕎麦も透き通っていた。
またすぐにでも再訪したいと思う、素晴らしい店。
★纐纈(こうけつ)http://tabelog.com/osaka/A2701/A270101/27082391/

まずは、ゲイの友だちをつくりなさい

僕の妹でもあるGの書いた本が出版された。
この本を新幹線の中で一気に読んで一番驚いたことは、書かれているほとんどの話を、僕はすでにGから聞いて知っていたことだ。まあ、それだけ多くの時間、一緒にいたのだろう…(彼の幼少期や学生時代の話の中には、ほんの少し知らない話題があった)
LGBT初級講座というサブタイトル通り、また頭脳明晰なGらしく、多様なセクシュアリティの解説から始まり、二丁目やレインボーフラッグの意味、LGBT関係の用語解説もとてもわかりやすく書かれている。
この本の醍醐味は、Gの実体験をもとに描かれるあるひとりのゲイのカミングアウトストーリーだろう。
『自分へのカミングアウト』から、最大の難関である『家族へのカミングアウト』、そして、『社会へのカミングアウト』と続いていく構成はわかりやすく見事だ。
また、Gの家族を通して語られる人生の本質を捉えた言葉の数々は、読む人の胸にいつまでも残るかもしれない。
LGBT当事者が読んでも、またその周りにいるアライが読んでも共感でき、読み終わった後に、何か明るくポジティブな気持ちになる素晴らしい内容だと思う。
LGBTのことを全く知らないストレートの人たちが読んだら、LGBTって意外と生きていくだけで大変な人たちなんだなあと思えるだろう。
それにしても読み終えて尚、『まずは、ゲイの友だちをつくりなさい』の『え?なんで?』の部分は不明のままだが(笑)、このタイトルが気になって手に取るストレートの人たちがたくさんいるであろうことを願う。
★まずは、ゲイの友だちをつくりなさい
松中 権
講談社➕α新書

感情のコントロール。

いくつになっても難しいことは、自分の感情をコントロールすることではないだろうか?
僕たちの心は、日々毎瞬毎瞬、目の前で起こる出来事や、読むニュース、誰かからのメール、人から言われた言葉や態度なんかに細かく反応している。
心は、それぞれの出来事に対して、上がったり下がったり、膨らんだり萎んだりしながら、時には傷つくことさえもある。
たとえば仕事場で、自分の仕事に否定的なことを言われたり、評価が低かった場合、自尊心が傷つけられたように感じることはないだろうか。
自分は『能力がない人間』なのではないだろうか…『価値の低い人間』なのではないだろうか…などと、落ち込むことはないだろうか。
評価されている回りの優秀な人と比べて、『自分の存在そのものが劣っている』ように感じたりすることはないだろうか。
たとえ、どんなに『自分など価値のない人間だ』などという感情に支配されたとしても、どこかで理性的、客観的な視点があることを信じることが出来たら、その感情に支配された状態から抜け出すことが出来るものだ。
僕の場合は、周りの世界に目を向けるようにしている。
空や海や山、自然の中に身を置くこと。木や花や鳥のさえずりや風の音や雨の匂いに集中すること。
都会の中にいても、自然のものに意識を持っていくことによって、いつの間にか気がつくと、『なんだ、大したことないや』と思えることが出来るようだ。
そして、今までの人生で、自分を愛し育ててくれた親を思ったり、大好きな友人たちを思ったり、どんなに弱い時でも味方でいてくれる恋人のことを思ってみる。
すると、いつの間にか、自分が必要以上に傷つくことはないし、何かを否定されたからといって、それは、『自分の全てを否定することではないのだ』ということに気づく。
あなたは、『たったひとりのかけがえのない存在』であり、『他者に愛されている存在』なのだ。

irodori 1周年パーティー。

irodoriがオープンして、1年がたった。
様々なセクシュアリティのスタッフが働き、年齢、国籍、セクシュアリティの多様なお客さんが訪れてくれる。
『新宿ロマン座』というユニットが来てアコーディオンを演奏してくれて、ブルボンヌが司会をしてくれた。おかげさまで、180人あまりの人が来場、15時から真夜中まで笑い声が絶えなかった。
irodoriの1年間を振り返って今思うことは、LGBT全体の比率からすると、Gの比率が少ないことだろうか。
ランチも、ガッツリ系のお肉を中心にしたメニューがもう少し増えたらいいなあと思っている。それと、イケメンスタッフだろうか・・・。
2年目のirodoriも、どうぞよろしくお願いいたします。
今週末まで、『OUT IN JAPAN』の展示をやっております!
★irodorihttp://irodori-newcanvas.com

トロミ。

八寸

甘鯛

お造り

トロントで暮らしているトロミは52歳。日本よりカナダでの生活が長いので、もはやカナダ人のようだ。久しぶりに東京に来るというので、いつもの新宿御苑の『いまゐ』で和食を。
母親の痴呆が酷く、父親が介護をしながら北海道で暮らしているため、時々こうして日本に戻り、両親にも会いに行くようだ。
15年くらい前に、トロミを追って日本人の恋人がカナダに渡ったものの、その後ふたりは別れて友達になっていた。
トロミは、昔と違って、年を重ね、恋愛には少し諦めモードになっているようにも見える。
『いまゐ』の食事は気に入ったようで、こうやって少しずつ季節の食材が食べられることを喜んでいた。
トロミ「もう年だから、お金はいくら出してもいいから美味しいものを食べたいんだよね…
保険とかって、今になって思うとバカみたい。人間、死んじゃったらおしまいなのに、なんで死んだ時の保障なんて考えてお金かけるのか、意味がわかんないよ」
「これからはお金を、きちんと使っていくことにしたんだ。持っていても仕方ないもん。」
52歳ともなると、人生の後半戦を考えるようになるのだろう。
僕を見ながら、
「仕事もあるし、年下の恋人もいるし、人生うまくいってる感じでいいなあ…」と言う。(側から見ているよりも、結構大変な人生なのだけど…)
「自分もまだまだ諦めないで、恋人を探すよ」
大阪に向かったトロミから、メールが入った。
★いまゐhttp://tabelog.com/tokyo/A1304/A130402/13130365/

アウティング。

夜中に仲通りを歩いていたら、僕のジムのカフェで働いていた若い子に会った。
彼「あのー、知ってると思うんですけど、うちのジムのカフェスタッフもジムのインストラクターも、みんなただしさんがゲイだって知ってますよ」
僕「え?ええ?えええ?な…なんで?!」
彼「前のカフェスタッフのゲイの子が、みんなに話してたんです。僕ではないですからね…」
僕「あ、あの子か…」
今更、ゲイだとジムでバレたところで、僕には特に困る要因もないのだけど、ずっとずっと自分はバレていないと思って(というか、ジムでセクシュアリティなんて関係ないし)過ごして来たのに、丸わかりだったなんて
_| ̄|○
僕たちは時々、こんな風に知らぬうちに、周りから勝手にアウティングされることがある。
今まで、誰も気づいていないと思っていた受付の女の子なんかも、みんな当然のように知っていたのかと思うと、なんとも少し照れくさいような気がするけど、まあ、これでジムではセクシュアリティを隠さなくてもいいのかと思うと、ちょっと気がラクでもある。
僕の会員ページには、GAYと注意書きでも入っているに違いない。もしくは、取り扱い注意だろうか…。

マダム・アルディ。

マダム・アルディ

クレマチス

オールドローズの愛好家の間で、最も好きなバラの一つに選ばれる『マダム・アルディ』。
マルメゾン宮殿の庭師であるアルディが、奥さんに捧げだという純白のバラは、『完璧なバラ』と言われている。
花の中心にグリーンアイと呼ばれる花芯が見えるクオーターロゼット咲きは、気品があり明るく美しい緑の葉にとてもよく映える。(注意して見ると、バラの葉も種類によって様々な色や光沢感がある)
蕾の蕚は、複雑なレリーフのように美しく、花だけでなく木全体で気品と優雅さを現している。
香りは、よくレモンに例えられるけど、もっと弱く少し甘みを含んでいる。
毎年このバラに出会うと、たとえ1年に1回しか咲かないとしても、オールドローズを育てていてよかったと思う。
何百年も変わらずに、美しい姿と芳しい香りを残すオールドローズ。いつか、自分の庭でたわわに育てるのが、昔からの夢なのです。

和食こんどう

お造り

和牛と筍の花山椒煮

鯛の白子の雑炊

東京で、和食で、美味しくて、手頃な値段の店を探すのはとても難しい。高い値段を払えばあるのだが、英語で言うところのリーズナブルな店は意外と少ない。
『こんどう』の大将は、とても美味しそうな顔をしていた。
大将そのものを食べるのではなく、大将がいかにも美味しいものを作りそうな顔をしていたということ。
四谷三丁目の杉大門通りに面した店は、大将が一人でお料理を作り、バイトの子がサービスをしている。コースは、7000円と9000円それにサービス料金が含まれる。後半のご飯が変わってくるけど、7000円で十分だろう。
勝浦で獲れた鰹と山芋の先付けも、豆のすり流しと海老のしんじょうも、素材の味がしっかりしていて美味しい。
日本酒も銘柄を絞っていいものが置いてある。『黒龍』をいただき友人にもすすめた。
お造りはどれも新鮮だし、和牛と筍の花山椒煮は甘くなく美味しい。季節のてんぷらをいただき、〆は鯛の白子のコクのある雑炊だった。
GOGOBOYでもある友人の食生活を聞いたら、
「ささみとブロッコリーとエノキを蒸して、コンソメと牛乳で食べると言うのが常食なんです。もう、同じもの食べすぎて何も感じないくらいです」
「今日は、何も我慢することなく美味しいものをいただきました!僕にとって、凄い贅沢な食事でした」
友人の喜ぶ顔を見ながら、本当にいいお店だなあとしみじみと感じた。
★和食 こんどうhttp://tabelog.com/tokyo/A1309/A130903/13150477/

Mのあしあと。2

宮島で撮影が夕方終わり、明日は八日市で仕事なので京都に泊まることにした。
8時に京都に着き、ホテルにチェックインした後に行きつけの『河久』へ。到着すると若旦那がいつものように相手をしてくれた。
若旦那「あのー、今日ただしさんがいらっしゃるとは考えていなかったのですけど、実はMさんのことをさっきふと思い出していたんです…」(Mさんとは、僕が10年間つきあった後、昨年亡くなった昔の僕の恋人だ)
僕「そうなの?どんなこと?」
若旦那「前にMさん、カウンターに一人で座られて、お隣に白人のお二人の女性観光客が座られたんです。お二人は、大原に行きたいけど、どうやって行ったらいいのかわからないので行き方をMさんに尋ねて、Mさん、一生懸命英語で伝えていたんです」
僕「大原って、遠いし観光客にはちょっと行きづらいところだよね…それで?」
若旦那「そしたらその後、Mさんが、俺が連れて行ってやる!と言って、結局その外国人二人をタクシーに乗せて、大原まで連れて行って案内されたんです…Mさん、ほんとにやさしい人でした…」
僕は、若旦那を見ていたのだけど、ふいに涙が溢れ出た。Mは、こんな話に事欠かないくらい、お節介でお人好しだったのだ。
人は、亡くなった後にも、いたるところにその人が生きていた証を遺す。
誰よりもやさしかったMを愛して、僕は本当に幸せだったと思う。
Mはどこか遠くから、僕に彼のやさしさを思い出させ、僕を温め、勇気づけてくれている。