舞台『海辺のカフカ』

舞台『海辺のカフカ』は、驚くほど幻想的で素晴らしい出来だった。
ミュージカルやオペラは、海外に行った時によく観ているのだけど、今まで、日本で生ものの舞台を観ることはそんなになかった。芝居は逃げ場がないから、合わなかった時に苦痛の時間を味わうことになる。
蜷川幸雄 演出による『海辺のカフカ』は、卓越した脚本、独創的な美術、繊細な音楽、計算され尽くした照明、強靭な俳優陣によって見事に一体となり、幻想的な作品に仕上がっていた。
僕は村上春樹の『海辺のカフカ』を読んでいないのだけど、不思議な世界へ誘われ、彷徨い、想像をし、考えさせられ、わからなくなり、翻弄された。
この芝居をどんな芝居だったのか、一言で説明することは出来ない。
それこそ、舞台を観る醍醐味ではないだろうか。
★海辺のカフカhttp://www.tbs.co.jp/event/butai-kafka2014/

her 世界でひとつの彼女

今年観た映画の中でも、最も心震えた映画の一つが、『her 世界でひとつの彼女』。
圧倒的な脚本の面白さに、胸が締め付けられて涙が頬をつたった。(余談だが、「世界にひとつの彼女」という副題が、なぜ入っているのかまったくわからない。「世界にひとつのプレイブック」の名残だろうか・・・?)
この映画のことは、ここにあまり触れようとは思わない。できれば、あらすじなど読まずに観るのをおすすめする。
人が、誰かを好きになったり、恋愛するということはなんて素敵なことだろうか・・・。きっと、神様が僕たちに人生の喜びや愉しみを存分に味わい尽くせるように、人間のプログラムに組み込んだのだろう。
それでいて、その人との関係性を続けてゆくことの、なんて難しいことだろうか・・・。甘美な恋愛の先には、今まで体験したことのないような試練がふたりを待ち構えているのだ。
温かくて傷つきやすい主人公を、ホアキン・フェニックスが見事に演じている。
親しみがあり、明るくて、時々震えるように繊細で、複雑で、セクシーな女性は、スカーレット・ヨハンソン。
この作品には、映画や舞台や小説にしかなしえないものがある。
★her 世界でひとつの彼女http://her.asmik-ace.co.jp

すし、太郎。

オコゼ

シャコ

穴子

福岡は、素晴らしい寿司屋が幾つもひしめき合っているのだけど、また新たに素晴らしいお店を見つけた。
この店は、間も無くミシュランの星を取るに違いない…。
銀杏のカウンターの一枚板は熊本のものらしい。仄暗い店内は、外国人にとってもきっと居心地がいいだろう。
『太郎』の大将は、若干まだ34歳。高校を出て日本料理屋に入ったけど、魚がずっと食べられなかったという。
その後、スペインの寿司屋さんを紹介されてスペインへ渡り、図角を現し、今は呉服町で奥さんとお店を持つに至った。
スペインでの経験からなのか、お通しもカシューナッツの豆腐が出たり、モッツァレラの味噌漬けが出たり、日本の食材にとらわれないところが斬新で変わっている。
煮アワビは柔らかく、オコゼのお造りは、部位ごとに食感の違いが楽しめるし、素晴らしいマグロが出て来た。
旬のコハダに、唐津の雲丹は申し分なく、鯵も新鮮で美味しい。車海老もしっかりと濃い味がして、最後の穴子もとろっとろの出来だ。
特筆すべきは、お任せのコースで1万円という驚きのコスパだろう。美味しい日本酒を飲みながら、奥さんの心地いいサービスと、大将の誠実な人柄に、必ず幸せな気持ちになって帰ることが出来ると思う。
★すし、太郎。http://s.tabelog.com/fukuoka/A4001/A400106/40035401/

酒陶 築地。

アラとフグの昆布締め

魚の出汁の葛餅揚げ

鴨の炭火焼

3ヶ月ぶりに福岡へ飛んだ。大分で病院の仕事を終えたKも電車に飛び乗り、21:45にお気に入りの店『酒陶 築地』で待ち合わせた。
この、誰にも教えずに自分だけの隠れ家にしておきたい店『酒陶 築地』は、薬院と平尾の間の、表からは決してわからない路地にある。
このお店を一言で言い表すのは難しいけど、上質な日本酒を飲みながら、ゆっくりと美味しい小料理をつまみ、時が経つのを忘れて話が出来る店。という感じだろうか。22:00頃でも入れる気楽さも魅力だ。
雲丹の味噌漬けをつまみ、アラとフグの昆布締めをいただく。
名物の魚の出汁の葛餅揚げは、絶対に頼みたい一品。
野菜の天ぷらは軽く、海老とジャガイモの煮物も他では味わえないものだ。
鴨の炭火焼は、程よい火の炙り具合だし、しめの麦とろごはんは、食べた人が必ず美味しいと言う…。
ちょっと見た目は派手だけど、謙虚な大将と、笑顔のかわいい奥さんのサービスが心地よい。
そして、店内が程よく暗く、聞いたことのないスペインの曲がかかっていたりするから、時間を忘れて長居してしまう。
帰り際に、「また来ますね!」と言って、しみじみといい店だなあと振り返った。
行く時は、前日までにコースを予約した方がよい。素晴らしいコスパです。
★酒陶 築地http://s.tabelog.com/fukuoka/A4001/A400104/40019154/
今年の1月に初めて訪れた時の日記http://jingumae.petit.cc/banana/2131829

ヨーロッパカエデ。

イギリスの園芸会で賞を獲得

ベランダで鬱蒼と茂っているヨーロッパカエデ(よくあるフラミンゴではない。名前を忘れてしまった)を、間引きも兼ねて剪定をして花器にいけてみた。
大理石のように緑に白の斑が入り、枝や茎は赤く、花のない時期でも花を凌ぐ存在感がある。
神様が気まぐれで作ったような色彩は、つい見入ってしまう美しさに溢れている。

伊吹。

香港から友人のJohnとSamのカップルが東京に遊びに来たので、西新宿の『伊吹』ですき焼きをいただいた。
この店は、昭和25年に新宿で創業したというすき焼き屋の老舗。昔は東口にあったのだけど、西口に移転して規模を縮小してコスパもよくなったようだ。
外国人の友人たちは、和食の中でも特に『すき焼き』が好きだ。リッチな友人ならば、いつもは赤坂の『よしはし』に連れて行くのだけど、『よしはし』は、飲みも入れると一人2万円はかかってしまうのだけど、この『伊吹』は、すき焼きがなんと3400円!!!昨夜は一人、4200円という驚きの安さだった。
『すき焼き』で一番重要なことは、『肉の質』と『わりした』の味だろう。伊吹の肉は、日によって仕入れ先が違うのだけど、昨夜食べた肉は栃木産で、柔らかく素晴らしかった。また、わりしたは、今半よりも軽く、甘すぎずべたつかない。なんというか、接待向きのこってりとしたすき焼きではなくて、家庭的で飽きのこないすっきりとしたわりしたなのだ。
Johnたちは特に働いていないくらいお金持ちなのだけど、すき焼きをこんなに安く、しかも美味しく食べられたことに感動していた。
★伊吹http://tabelog.com/tokyo/A1304/A130401/13136926/

龍の子。

牛肉とナッツ炒め

麻婆豆腐

お粥

原宿の竹下通りを出た右側すぐのところに、『龍の子』はある。
僕が高校生の時にすでにお店はあったから、どれくらい長いのかと思ったら、四川料理を日本に伝えた陳健民さんに師事をして、このお店のオープンは1977年だそうだ。久しぶりにのぞいた『龍の子』は、ゴルフ帰りの大将もご機嫌で、友人たちと楽しそうにワインを飲んでいた。
もともと、中華料理を好きではない僕にとって、四川料理だけが唯一心誘われる料理なのだけど、北京に行っても、上海に行っても、四川料理の専門店を探しては、食べ歩いたりしているくらい好きだ。
日本ではなぜか、本場の辛い四川料理はあまり根付かなかったようで、今でも麻婆豆腐というと甘いものが90%くらいではないだろうか?
一度、母をこの店に連れて来た時に、思いがけず美味しかったらしく、またここに食べに来たいと何度か言っていた。そして今回、台湾人の娘のKeを連れて行ったのだけど、Keもこの店に魅せられたようで、「今まで日本に来て食べた中華料理の中で、ここのお料理が一番美味しいです」と言っていた。
僕も久しぶりにしっかりと山椒のきいた複雑な味の麻婆豆腐を食べることが出来てとても満足だった。
一緒に食事をしていた大将の友達3人が、帰る時にお金を払おうとした時に、大将は「今日はいらないから!」とレジの女の人に言って、払う払わないのやり取りがあったけど、結局大将の太っ腹に負けて、お客さんは喜んで帰って行った。
その後、大将は僕たちに、自分たちのロゼのシャンパンをごちそうしてくれて、うれしそうに笑っていた。
きっと大将は、お金儲けとかあんまり出来ない人なんだろうけど、僕はそんな大将のような人がとても好きだ。
★龍の子http://tabelog.com/tokyo/A1306/A130601/13001219/

台湾スイーツ。

隈研吾の建築したSunnyHills

春水堂

マンゴーチャチャにて

このところ、台湾のスイーツが青山から原宿に続々と出店している。そんな話しを台湾人の娘Keと話していたら、[お母さん、一緒に食べに行きましょうか・・・!」となり、行ってみた。
★SunnyHIllshttp://www.sunnyhills.co.jp/news.php
隈研吾の建築で有名で、南青山の一等地に建った一軒家。パイナップルケーキなどが試食をしながら買うことが出来る。
★春水堂http://www.chunshuitang.jp/
台湾では食事も出来るらしいけど、日本では『タピオカアイスミルクティー』で有名なお店。Keはちなきを食べながら、「懐かしい」と目を細めていた。キャットストリートの隣の道に面していて、平日のためか客も少なく、のんびりと過ごすことが出来る。店内のインテリアも凝っていて、台湾らしい清々しさに満ちている。
★マンゴーチャチャ http://mangochacha.jp/
竹下通りを出て明治通を越えてまっすぐ。マンゴーデザートの専門店は、土日は1時間半待ちだそうだ。最高級のマンゴーを使ったデザートを食べることが出来る。日本ではマンゴーがとても高いので、このお店でも3人分の巨大なマンゴーデザートは3000円くらいしていて驚いた。
台湾に行って町を歩いていると、そこかしこにデザート屋さんがある。僕は甘いものが好きではないので食べないのだけど、若者はとても美味しそうに食べているのを見て、熱い台湾には欠かせないものなのだろうなあと思っていた。青山原宿のおしゃれエリアで、台湾スイーツは今後、受け入れられてゆくだろうか・・・。

poulet basquaise(鶏肉のバスク風煮込み)

この料理は前にもここに上げたし、夏の間によく作るのだけど、元々のフレンチのレシピを、僕のような怠惰なゲイでも簡単に作れるように、ザックリと簡略化してみました。^^;
★鶏肉のバスク風煮込み
(材料2人分)
鶏の骨つきもも肉2本(一本を二つに切ってもらう)
パプリカ2個
ピーマン1個
プチトマト12個
玉ねぎ1個
ニンニク1かけ
白ワイン100ml(シェリー酒でもよい)
赤唐辛子2つ
ローリエ1枚(無くてもよい)
パセリの微塵切り少々
オリーブオイル
塩・胡椒
(作り方)
1.鶏肉は、塩小さじ1強をふって1時間以上おく。出来れば半日。
2.厚手の鍋を温めて、オリーブオイルを大さじ2入れて、包丁の腹で潰したニンニクを入れて香りを出す。香りが出たらニンニクは一旦取り出す。(決して焦がしてはいけない)
3.鶏肉を皮目から入れて、こんがりと焼けるまで放っておく。皮が焼けたらひっくり返して、全体に焼き目をつける。鶏肉を取り出す。
4.鶏肉から出た余分な脂をキッチンペーパーで取り、オリーブオイルを大さじ1足して、5ミリのくし切りにした玉ねぎと、パプリカとピーマンに塩をひとつまみ入れて炒める。蓋をして蒸らしながら煮る感じで。
5.全体にしんなりしたら、鶏肉を戻し入れて、白ワインを振り入れ、プチトマトを入れて中火にする。あればローリエと赤唐辛子を加える。
6.沸騰したら蓋をして、弱火にして40分間煮込む。(途中、覗いて、水分がなくなっていたら、白ワインか水を足す)
7.器によそい、あれば微塵切りのパセリを散らす。胡椒を振る。
★食べたらきっと、美味しくてびっくりすると思う。
パプリカとピーマンのオトナな味わいと、鶏肉の骨から出た出汁、そして白ワインが重なり旨味を作ってくれるから。
どこの地方でも、長く親しまれている伝統料理は、美味しくなる理由を持っているのだろう。

くちなし

マンションの前の通りを歩くと、甘い香りがした。ふと見ると、歩道の脇に、くちなしが開きはじめていた。
ちょうど5年前のくちなしが咲く頃、この家に引っ越して来たのだった。
あの頃は10年間つきあった人と別れて一人になったばかりで、皮が剥がれて骨だけになったようで、もう誰かとつきあうことなどないだろうと思っていた。
月日はゆっくりと流れて、周りの友人たちもいろいろと変わり、僕にも恋人が出来て、生活もずいぶん変わったようだ。
香りは、時々昔の思い出とともにある。
くちなしの香りを嗅ぐと、ひとりで生きていかなくてはならなくなったあの頃を思い出す。
辛かった過去も、今ではもう、甘い香りとともにある。