サトウキビ畑のマッチョ。

東京に住んでいた頃は、電車の中や通りを歩いている時、伊勢丹で買い物している時なんかに、ふといい男を見つけて心が動くということが時々あったものだ。

僕たちゲイにとってはそんなことが日々の中のちょっとした愉しみであったりするものだ。

宮古島に来てそれはほとんど完全になくなった。

というか、僕たちの住んでいる地域はサトウキビ畑に囲まれているので、海の散歩をしていても農家のおじいやおばあと挨拶や話をするくらいでおよそタイプの男を目にする機会はなくなった。

それでも近くに自衛隊の宿舎があるので、運が良ければ汗だくでジョギングする自衛隊の男たちを見かける日もある。

先日いつものように朝6時半頃、海を連れてサトウキビ畑の中を散歩していて、ふと道を右に曲がった時のこと、数十メートル先にいきなり若いマッチョの男がタンクトップを着て歩いてくるのが見えた。

僕は朝早かったのと眠かったせいもあり、これは自分の頭の中で起こった妄想なのではないかと思ったほど、サトウキビ畑の中ではおよそ起こり得ないシチュエーションに胸がザワザワした。

僕は男に反応する海のリードを短く持つと男が挨拶をして来た。

「かわいい犬ですね…大きいですねー」

「人が好きですぐに近寄って行っちゃうんです…」

日に焼けた盛り上がった肩といい、太い腕といい、見た目は200%ゲイではないか。顔は宮古島の顔で二重パッチリ、年は30代はじめくらいだろうか。

向こうも一瞬で僕がゲイだとわかったに違いない。

ゲイには生まれながらの立派なゲイダーが備わっているのだ。

僕は、油断をして寝癖をつけたまま、夜寝ていたままのTシャツを着ていた自分を悔しがった。

また会えるかな?サトウキビ畑の中のマッチョ。

それにしても朝っぱらからあんなところで何していたんだろう?

突然のアクシデント。

予定では明日東京入りするつもりが、台風が発生するというニュースを見て急遽1日前倒しにして飛行機に乗った。

飛行機は台風を避けるようなルートで飛んで来たのでいつもより少し時間がかかった。

成田空港から母の家に行くつもりでJRに乗ったのも束の間、成田駅でアナウンスが入り、都賀と四街道の間の踏切で車が脱輪したのでしばらく停車するとのこと。

京成だとかなり違うルートになるのでそのうち走り出すだろうと待ち続け、二駅進んではまた待たされ、電車を乗り換えてまた二駅進みを繰り返し、およそ2時間遅れで一つ手前の駅まで行くことが出来てタクシーに乗った。

母の家に着いた頃には夕方になってしまい、母の作ってくれたご飯を急いで食べてあまり時間も取れないまま後にした。

突然のアクシデントというのは時々あるものだ。

そのせいで思ったように予定が進まなくなり、こうなってしまったのは何か良くないことなのかもしれないと思ったりしてしまう。

本当は目の前のアクシデントには良いも悪いも意味はなくて、それによって変わる自分の心のありようが次の自分の世界を作っていくのだろう。

新宿に着く頃には心身ともにヘトヘトで、本当はどこかに久しぶりに飲みに行くつもりが、シャワーを浴びたらホテルから出たくなくなってしまった。

ゆっくりと休んで、明日から束の間の東京を楽しみたい。

公正証書のための証人問題。

16歳年上の僕が急に倒れたり、意識不明になったり、入院した時に、パートナーのKがきちんと家族とみなされて、病院や医師から直接連絡が行き、説明を受け、治療に関する意思決定が出来るように。

僕が先に死んでしまった時に、残された財産をきちんとKに相続できるようにするためには、この国では養子縁組をするか、公正証書を自ら作るしか今のところ道はないという話を以前ここで取り上げた。

僕たちは宮古島に移住して来て色々考えた末に、この公正証書を作り法務局に提出する手続きを進めていて、それには宮古島にて2人の証人が必要になってくるという問題に直面していた。

東京と九州から移住して来た僕たちに、そんな同性カップルの権利のために証人になってくれそうな知人はいなくて、そうかといって東京からわざわざ友人を呼ぶのも気がひけていたし、どうしたものかと頭を抱えていた。

行政書士の方からなかなか良い方法が見つからず、便利屋でも使いましょうかと言われてさすがにそれは躊躇われたので、ダメでもいいかと思い以前家の登記でお世話になった司法書士のお爺さんSさんに聞いてみることにした。

Sさんの事務所に電話をすると、「もしもの時に僕のパートナーが家族と認められるように公正証書を作りたいのです」と言うと、証人になるには内容を確認しなければならないから書類を送ってくれと言われた。

この時点でSさんは、僕が同性愛者だとは思っていなかったと思う。

Sさんは恐らく60代半ばから75に近い感じだろうか。正直、こんなお爺さんが僕たちにゲイの人権問題をどう思うのか心配なところもあった。

東京ならまだしも、沖縄県の離島である宮古島のおじいなのだ。ゲイなんて気持ち悪いしそんな証人などなるわけがないと言われても覚悟していた。(僕たちはこんな酷い扱いを今までの人生で何度も想像したり、実際に受けて来たのだと思う)

書類をメールで送り、少しした後にSさんから電話が入った。

「ただしさんがやろうとしていることは素晴らしいことです。今のこの国ではこういう公正証書を作らないとあなたたちのような人たちは誰も財産も守れないしいざという時に酷い目に遭うんです」

「今の自民党政権は頭のおかしいことばかり言って時代に逆行してるんです。こんな国はおかしい。わかりました。私がまず証人になります。そして他にもう一人証人を探してみましょう」

白髪のSさんは、僕たちのことを変だとか気持ち悪がるどころか、完全に僕たちの置かれた状況を理解していて自分の正しいと思うことを行おうという気概に満ちていた。

電話でSさんという白髪のおじいと話しながら、僕の胸は熱くなって自然に涙が滲んでいた。

麦茶を飲む海。

僕が飲んでいる麦茶を見つけると、海が飲んでしまう。

麦茶が好きなようで、他にもルイボスティーにも目がない。

「犬の飲んだコップを人間が飲むなんて汚い!」といった声も聞こえてきそうだけど、海が飲んだコップを僕は何も気にせずまた普通に飲んでいる。

夜寝る時はベッドサイドのテーブルにコップ一杯のお水を置いておくのだけど、これも海が眠る前に来て飲んでしまう。

海がぺちゃぺちゃと飲んだ後は必ず水が散らばって落ちていてもう一度テーブルを拭かなければならない。

海はきっと自分のことを、僕たちと同じ人間だと思っているのだ。

壁を作ろう。

客室と客室の間の壁に、更に壁を作るべく防音壁を発注することにした。

5cmくらいの防音壁に効果があるのかわからないけれども、今のところ出来る手はこれくらいしかないようなのだ。

防音壁のためにKとふたりで壁の採寸をして寸法を書き入れた。


今までの人生ではやったことのないことをKとふたりで少しずつこなしながら乗り越えていく。

手間がかかるけど、今はふたりで楽しんでいる。

高圧洗浄。

今日は朝から家の壁の高圧洗浄をした。

家の周囲がかなりあるので、今日はこの壁、明日はこの壁と少しずつ高圧洗浄を行ってきた。

真夏で昼間は32度くらいになるので、作業はあまり暑くならない午前中までに終わらせること。

Kが梯子や壁に乗って高いところをやり、僕が低いところをやる。

2人で共同作業をしながら、だいたい家全体の高圧洗浄が終わってきた。

来週半ばに僕が東京から戻ったら、いよいよ壁のシーラーとペンキ塗りに入るつもり。

これまた1ヶ月くらいかかるかもしれないな。

何もしない日。

日曜日の朝、僕が仕切りにスマホを見ていたら、Kに取り上げられた。

「今日はスマホは見ないで、リフォームのことや宿のことも考えないで一日のんびりしよう」

僕は気がつくとスマホの中を覗きながら、まだ決めていない宿の中の小物類や工事のことなど、次から次へと情報を追いかけ続けていた。

この半年くらいずっとそうだったと思う。

ずっとサラリーマンでやってきた僕が、全く新しいことをする不安もあるし、リフォームもわからないことだらけ、宿を経営するのもはじめてのことなのだから。

知らず知らずのうちに眉間に皺が寄っていて、Kは僕のそんな姿を見ながら時々心配していたようだ。

今日はスマホを置いて、家の中でのんびりとディズニー映画を見ながら過ごした。

リフォームの問題も、まだ出来上がっていない壁や電気のことも、明日以降に考えればいい。

何もしない休日は、思いのほか心身をリラックスさせてくれた。

3人で散歩。

朝起きると大抵僕が6時半頃に海を連れて散歩に出かける。

宮古島の夏の朝は比較的涼しく、風が吹いていれば気持ちいいくらいの気候だ。

夕方の散歩は時間があればKと一緒に海と3人で出かけることが多い。

散歩はどちらかが行けばこと足りるのだけど、こうして3人でのんびり散歩をする時間にとても幸せを感じるのだ。

まだ暑い夕暮れの海を見ながらのんびりと歩く散歩は、特に何があるわけではないけどとても満ち足りた時間に思える。

海と3人で宮古島で暮らしているなんて、1年前でも考えたことさえなかった。

人生、何があるかわからない。

島バナナ

島バナナのことはここにも何回か書いた。

僕の家にも今は全部で4本の島バナナの苗が植わっていてすくすくと成長している。

このバナナ、電気屋さんが畑でなったものを持ってきてくれたのだけど、今までに色々な人にいただく機会があった。

先日も近くの鮮魚店でマグロを買った時に、島バナナを2本魚屋さんが一緒に入れてくれた。

宮古島ではこんな風に、果物をさりげなく周囲の人にあげる習慣があるみたい。

島バナナを見ると、島の温かさを感じるのだ。

きんばと

窓辺にいたKが声をひそめて僕を呼ぶのでそばに行って指差す方向を見た。

すると、庭に見たこともない緑色の綺麗な鳩が歩いていたのだ。

iPhoneで2倍でやっと撮れたので見えにくいが、調べてみるとこれは「きんばと」という鳩らしい。

孔雀のように鮮やかな緑色のある身体は、遠くからでも美しく堂々としている。

宮古島は山がないので野生動物も限られていると思うけど、こうして新しい動物に出会うとワクワクするものだ。

また新しい動物に出会いたいな。