東京の桜。

年度末の31日、編集で東京に向かった。

広尾の駅で降りて歩いていると、桜がいくつも目に入った。でも、満開を少し過ぎているせいか、あまり美しいとは感じられなかった。

僕は東京で生まれ東京で育った。だから、東京の桜はある程度見てきているし好きなことに変わりはない。東京の一番美しい桜は、30年前くらいの千鳥ヶ淵の桜だと思う。

なぜ30年くらい前かというと、ソメイヨシノは改良されてできた桜であり寿命が短く、60年くらいから枯れていってしまうようだ。

目黒川の桜なんて昔は小さな苗木のようでなんとも思わなかったのに、ここのところ人気があるのは、ちょうど見頃まで成長してきたということだろう。逆に、千鳥ヶ淵や新宿御苑の桜は大木だった桜が次々と枯れてしまい、全体的な桜のボリュームがかなり減ってしまった。

今、東京を離れた僕が客観的に東京の桜を見て思うことは、ソメイヨシノばかり一つ覚えのように植わっている東京の桜はなんだか単調に見えるということ。

京都に桜を見にいった時に、醍醐寺に入ると舞台の中に入り込んでしまったかのような世界に圧倒されたのだけど、他のお寺を廻りながら思ったことは、いろいろな種類の桜が咲いている美しさだった。

そして改めて僕が今住んでいる熱海の町を歩いていると、山桜、しだれ桜を始め、名前のわからない桜がたくさん咲いていて、その多様さに驚かされるし、その違いがとても美しいということを改めて知らされたのだ。

東京の桜は、それはそれで美しい。でも、日本の地方の山の中や町のあちこちに咲いている様々な色の桜の美しさを改めて思い知らされたのだった。

熱海の近所の桜

叔母の襲来。

朝7時頃電話がなって、何かと思ったら叔母だった。

「ただしくん、熱海に遊びに行こうと思うんだけど・・・今日・・・」

「え?金曜日ならいいけど、今日なら仕事調整して休みにするね(ってなんとかなるかな・・・)」

10年くらいちゃんと会ってなかったこともあり断りづらく、叔母の思うように調整することにした。

叔母は、横浜に住んでいるので新横浜で新幹線に乗るときに連絡をもらうようにしていたのだけど、待っていても連絡がこないので、とりあえず急ぎ熱海駅にタクシーを飛ばす。

金曜日ならKが電車で行くと言っていたので車が使えたのだけど、今日は車がないのだ。それに、新横浜からだと30分もかからないため、熱海についてから電話が来たら待たせることになってしまう。

しばらくすると、叔母から電話があって、この後11時10分の新幹線に乗ると言う。そのつもりで待ちながら電車の時間を見ていると、新横浜発のこだまは15分になっている。おかしいなあ・・・と思っていると叔母から電話が。

「ただしくん・・・おばさん、広島行きに乗っちゃったみたいなの・・・車掌さんに聞いたら、次は名古屋だって・・・おばさん、新幹線なんてほとんど乗ったことなかったから・・・」

「え???おばさん、のぞみ乗っちゃったんだね!こだまに乗らないと熱海には止まらないんだよ・・・とにかく名古屋についたら電話してね」

時計を見ると、名古屋に行ってこだまで折り返して戻って来ても、まだまだ3時間以上かかることがわかった。僕は熱海駅で時間を潰すこともないと思い、もう一度タクシーで家に戻り、14時半にもう一度熱海駅に叔母を迎えに行った。

久ぶりに会う叔母は、かなり老けこんでいて、一瞬わからないくらいだった。それもそのはず、叔母は81歳。この10年間で年をとっていたのだ。叔母は我が家の階段を、手すりを捕まりながら慎重に登った。ところどころで咲いているお花たちを愛でながら持って来たカメラで写真を撮っていた。

僕が一番恐れていたことは、Kとのことを聞かれること。叔母は自分に子どもがいなかったこともあり、折に触れ僕に結婚をしないのかといつもいつも聞いてくるのだ。

広いベッドを見ても、干してある洗濯物を見ても、一緒に住んでいる人がいるのか?などとも聞かれることはなかった。叔母は最後まで外の写真を撮りながら、時々海を撫でながら、この我が家を気に入ってくれたようだった。

些細なことで小さな喧嘩をして以来、しばらく会うこともなかった叔母が来てくれたことはとてもうれしかった。話の中で、叔母が自分の家の後片付けをしていることを知った。

叔母は確実に自分のおしまいをわかっているのだ。そして今日、たった二人しかいない甥っ子の一人である僕に会いに来たのだった。

網じゃくし

ずっと気になってはいたけど買わずに過ごしていて、先日何かを買うついでに買ってみたら、「ああ、もっと早く買っておけばよかった!」と思ったものがこの「ラバーゼの網じゃくし」。

スナップエンドウや切ったブロッコリーなどの野菜を茹でてすくい上げる時に、今までは穴の空いたおたまですくい上げていた。でも、穴が空いているとはいえ、どうしてもお湯も一緒に少しすくい上げてしまうのと、何回かにわけてすくいとらないと取り上げられず、その間に茹で時間は経ってしまうことがストレスだった。

この網じゃくし、大きさもかなり大きく、使ってみると気持ちいいように野菜が一気にすくい上げられた。

使うことをよく考えて作られた道具は、暮らしを変える力がある。

ママ友ならぬ、犬友。

海には、生まれた時に他に5頭の兄弟姉妹がいて、親元であるブリーダーと一緒に子どもたちがグループLINEでつながっている。

そのLINEが始まった頃は、誰もが「うちの子はこんなに可愛いのよ」「うちの子はもうトイレもできるの」「うちの子は、お手をおかわりとおすわりができるの」などと、かなり自慢めいた投稿が続いていた。

また時々、「散歩から帰って来て毎日足をシャンプーしたほうがいいか?」とか、「耳掃除はどうしたらいいか?」「歯磨きはコツがあるのか?」などと行った質問も寄せられることもある。

でも3ヶ月を過ぎる頃、「うちのJは甘噛みがひどくて、家族中が手から血が出ていて、おまけに散歩の引っ張りも強いから転倒する事態になり、家族で話し合った結果、しつけ教室に3ヶ月預けることにしました・・・」というLINEが流れた。

そこに、「一番可愛い時の3ヶ月もよそに預けるなんて・・・」「身近に犬を3ヶ月預ける人がいるなんて初めて聞きました」などという心無い言葉が書き込まれ、その後誰も書き込むことが出来ずにいた。書いた方も悪気があったわけではないけど、犬に手を焼いて預ける選択をした家族は、よくよく話し合った末の決断なのだろうと思う。

犬種によっても大まかに違うし、同じ親から生まれても、生まれてくる順番や、生まれ持っての性格的なものも違うのだと思う。

海たちはその後5ヶ月半以上が過ぎて、それぞれ歯の生え変わりが進み、甘噛みもほとんど痛くなくなった。Jくんももう少しなんとかやりくりして辛抱していたら、甘噛みが嘘のように痛くなくなって来たことに気づいたとも思う。

育犬問題もところどころであったけど、海と僕たちは、幸い一緒に成長を見守ってくることができてよかったと思う。

美しさは、やさしさ。

今日は東京のスタジオで女優の撮影だった。

僕は仕事の都合上、今まで色々な著名人に会って来たのだけど、撮影であれ打ち合わせであれ、著名人と会うのは緊張するものだ。

実際に会う前に、「この人、面倒くさそうだな…」などと会う前から気が重いこともあるけど、会ってみると、本人はとても気さくでいい人だったことがほとんどだと思う。

今日久しぶりに撮影した女優さんは、顔立ちが整っていて脚が長くてとてもきれいな人だけど、ご本人が気さくで周りを和ませるようなジョークを言うようなやさしい人。

きっと周りが気を遣ったり緊張しているのをわかっているのだろう。

この人の美しさはきっと、こんな何気ない気配りが出来るやさしさが出ているのだと思ったのだ。

10年ごとの人生。

人生の周期は、9年ごとだとか、12年ごとだとか、さまざまな意見があるけれども、52歳の僕がざっと自分の人生を振り返った時に、だいたい10年ごとにそれぞれの課題なりテーマがあったような気がする。

物心ついてから10歳までは、親の愛情とともに、父母のうまくいかない関係性に翻弄された最も辛い時代。

中学生から成人するまでは、自分がゲイであることの受け入れ難さに思い悩んだ時代。

大学の卒業から30歳になる頃、恋愛の失敗を沢山積み重ねて、最後にはじめて年上の恋人が出来た。

30代は、自分が世界で一番幸せだと思える恋愛をして、世界中を旅行した。その後その恋愛は崩壊し、39歳ですべてを失った。

40代は、死に物狂いで恋人を探し求め、やがてKに出会い、そこから人生にゆっくりと軸が出来はじめた。

そして50代。住み慣れた東京を離れ熱海へ。

都会暮らしで享受出来る生活が必要だとずっと思っていたのに。それほど必要ではなかったということがわかった。もしかしたら、この歳になり必要ではなくなったのかもしれない。

時々こんな風に自分の来し方を振り返ることがある。

自分の人生なんて特に何のストーリーもないように思える時に、思い起こしてみる。

人に自慢できるようなものは何もないけど、そこには自分だけが知っている毎日が確かにあったのだ。

第3回マリフォー国会。

「結婚の自由をすべての人に」訴訟、原告や弁護士が国会議員の方々と交流する「マリフォー国会」が開催された。

僕たちは日頃、裁判所でたたかっているのだけど、司法だけでは道は突破できそうにないのも事実なのだ。そこで、立法府に働きかけて、法制化を急ぎ行って欲しいと訴える活動もしている。

今回は第3回のマリフォー国会で、今までは野党の議員さんがほとんどだったのだけど、今回は自民党議員も5名くらいいらっしゃってお話しを聞いてくださった。

札幌の判決が追い風となって、少しずつ世の中の流れも変わって来ていると感じられた。

寝る時も、海といっしょ。

海が家に来てから、ずっと寝る時は別々で寝ていた。

はじめはおしっこをどこにでもしそうだったので、ケージの中で鍵をして寝させるようにしていた。

トイレの心配がなくなってからは、ケージを開けて、クレートを置いて置いて、好きなところで寝るようにさせて置いた。

小さな頃からベッドの上は上らせないようにしていたのだけど、それももういいかなと思い、はじめてベッドに乗せてあげて、一緒に寝てみようと試してみた。

海は、時々ベッドの下に降りたりしながら、また上に戻って来たりを繰り返していた。

でも、朝起きたら僕とKの間に海がいて、なんだか窮屈だけど暖かくてうれしかった。

重たいし、僕の上に乗っかって来たり、顎を乗せて来たりして時々うざったいけど、こうやって眠る時も一緒にいられるようになって、海がより近くなった気がする。

誰よりも、はじめて犬を飼うKが、とっても喜んでいるのがうれしい。

家の周りの桜。

東京では、早くも桜が満開を迎えるようだ。

東京で暮らしていた時は、毎年桜が咲くのを心待ちにしていて、千鳥ヶ淵に見に行くのを楽しみにしていた。

熱海に引っ越して来たら、なぜか桜のことをほとんど気にかけていなかったのだけど、熱海には1月から桜が咲き始めて、その後もずっと様々な桜が町のいたるところで咲いていたから。

そしてようやくソメイヨシノの開花宣言が日本全国で始まって、気がつくと熱海の町中のソメイヨシノや山桜なんかも咲き始めて来ていた。

桜の花の時期は、せいぜい10日間くらいだろうか。

毎日毎日変わって行くその姿を、今年も惜しみながらしっかりと見届けるつもり。

アイスの抽選応募。

Kは甘いものが大好きなので、ほぼ毎日晩ごはんの後にデザートを食べる。

僕自身はお酒があれば良いのであまり甘いものには興味がないのだけど、僕が食べないとKも食べないのでKに付き合って食べるようにしている。

デザートの中には、時々アイスの「モナカ」もあって、二人で半分にして食べるのだけど、そのモナカの袋には抽選に応募できるマークがついているようで、時々Kがそのビニールの袋を捨てる前に丁寧にハサミでマークを切り抜いているのを見かけていた。

今日、晩ごはんが終わってアイスのモナカを食べたら、ハガキを持ち出して来て一生懸命住所や差出人の名前を書き出した。

僕が、「何を書いてるの?」と見ると、「応募するの」とのこと。僕の名前でキャンペーンに応募しようとしていたようで、ここに海の絵を書いてくれというのだ。マジックの真っ黒ののらくろのような犬の絵を書いて、応募ハガキに遊び心を加えた。

「何が当たるの?」と聞くと「すき焼き用の牛肉」とのこと。

4枚くらいのハガキに応募事項を書いて、切り抜いていたマークを一生懸命貼っているKを見ながら、かわいいなあと思ったのだ。