今日は曇り空だったので、海を連れて家の周りを散歩して帰ってくると、奥の空き地の木をハサミで切っているおばあさんがいた。
近くに行ってみると、僕たちの家を所有していた売主さんで、明日は旧正月だからイヌマキ(槇)を摘みに来たとのこと。
「沖縄は旧正月なので、毎年お供物をする時に家の木や花を切って供えていたんです。家の庭は入れないから、娘の土地の木ならいいと思って切りに来ました」
手には槇の枝が握られていて、そばにあった月桃の葉の抗菌成分の話をしてくれる。
おばあさんは随分前に旦那さんを亡くしていて、息子さんたちも家庭を築き広い家に一人になり町中に引っ越したそうだ。
「これからもまたイヌマキを切りに、ここに来てもいいでしょうか?」
「もちろんです。中の庭にも入って、枝や花を摘んでください」
おばあさんは、この家を建てた時の設計図を大事に持っていて、僕がこの家を譲り受けた時も、旦那さんとの思い出だからとその設計図を手元に置きたがっていた。
僕はそれならばおばあさんが持っていてもいいと思っていたが、不動産屋さんが頑なにそれらを手放させて僕に譲渡しなければならないと説き伏せたのだった。
おばあさんの人生は、まだ亡くなった旦那さんとともにある。
おばあさんが家を手放した淋しさも感じたけど、それ以上にこの家で暮らした楽しかったであろう日々をおばあさんは送ったのだと思えたのだった。