Kと海のお出迎え。

東京での初仕事である録音や編集を終えて、熱海に着いたのは夜の9時。

午後からずっと家を留守にしていたので、一人ぼっちだった海が心配だったのだけど、今回はうんちを踏んではいるもののそれほど荒れることもなくケージの中で過ごしていたようだ。

僕はKの晩ご飯を用意して出かけたのだけど、海を洗ったり、ケージを拭いたりしていたKは、晩ご飯を温めたりする時間もなく、熱海の駅に僕を迎えに来てくれた。

海は助手席でふんふん鳴いていたようだけど、熱海駅で僕の顔を見ると嬉しそうに尻尾を振り出した。

K「今日はマックにしようか?」

僕「うん。今、適当に買ってくるね」

9時を過ぎた熱海駅で買える晩ご飯は、マクドナルドくらいなのだけど、それでも、海とKと3人で車で帰ってから家で食べるマクドナルドはとても美味しかった。

ハンドクリーム。

朝ごはんも昼ごはんも夕ご飯作る僕は、洗い物もその都度するのでお湯を使う。

お湯は手の油分を奪い去ってしまうようで、乾燥している冬場はどうしても手が荒れてカサカサになってしまうものだ。

僕はそんなことはあまり気にせず外で庭の手入れや家事をしていて、ついついハンドクリームもつけるのを忘れてしまう。

夜、Kが先にお風呂に入って、その後僕がお風呂に入って、Kの待つ布団に潜り込む。

するとすかさずKがハンドクリームを自分の手に出し、僕の手を摑んで塗ってくれる。

そんな時に、Kのこんなやさしさが好きなのだと思う。

裂けたパジャマ。

僕たちは、8枚くらいのパジャマを毎日洗濯しながら順番に着ている。

それでもお気に入りのリネンのパジャマは何年も着ているとさすがに弱ってくるようで、僕のベージュのパジャマの背中が少し裂けてしまっていたようだ。

僕はそのパジャマを役目が終えたので捨てようと思っていたところ、昼御飯が終わってKが裁縫道具を取り出して縫い始めた。

途中僕に1回針に糸を通してくれと言うのでて通したけど、しばらく真剣に縫っていたかと思ったら、少ししたら裂けた部分を綺麗に取り繕いパジャマが元に戻った。

僕は、「破れた服はすぐに捨てて買い換えればいいや」という性格なのだけど、僕とは真逆で何事にも慎重で倹約家のKは、こんな風に地道に縫ってくれる。

そんなKの質素な暮らし方が、僕はとても好きだ。

Kの実家からの鰤。

年末になると毎年、Kの実家から鰤が送られてくる。

鰤は巨大なものではないけど、60センチから70センチくらいの鰤が解体されていてアラも入っている。

海を除くと僕たちは二人暮らしなので、これだけの鰤を食べるには工夫が必要で、発泡スチロールの箱を開けるや否や、これは刺身に、これは塩鰤に、これは照り焼きに、これは鰤大根にと振り分けて、すぐに下処理を済ませる。

Kのご両親が、遠く離れて暮らすKのことを大切に思い、まだ会ったことのない息子の恋人である僕のことを、気遣ってくれているのがわかる。

今年はKの実家に、高島屋のおせちを送った。

まだ会ったことのないKのご両親が、少しでも喜んでくれますように。

三人で過ごす大晦日。

僕たちの家にはテレビがないので、Kが車からナビを外して来て、家で小さなテレビを見れるようにした。

僕は「帯状疱疹」のため、おせち料理も作らないと決めていたのに、やはりほんの少しはおせちが食べたいと思い、たたきごぼうと黒豆と数の子と栗きんとんは作りながら時々テレビに目をやる。

海はソファの下で、僕のセーターを乗せて眠っている。

伊勢丹で買った手編みのセーターが海のものに。

テレビが好きなKは、時々声をあげて笑っている。

やがてKの大分の実家から、鰤が送られて来た。

お酒を飲みながら三人で見る紅白歌合戦。

幸せは、今ここにある。

海を抱きかかえるK。

ここ数日は、海とずっと一緒に過ごすことができたのだけど、28日だけは最後の仕事納めで東京に行かなければならず、Kも最後の病院勤めに行かなければならず、海を7時間くらい一人にしなければならなかった。

11時に家を出る時に海は鳴いていたけど、バスに乗り遅れないように急いで出かけた。東京での編集作業が終わって、帰りの新幹線に飛び乗り、しばらくして先に帰ったKから電話が入ったときには心臓が止まるかと思った。電話があるなんて、海に何かあったのかと思ったのだ。

K「海、またうんちまみれになっちゃった・・・」

僕「よかった・・・元気でいてくれたらいいよ。帰ったら僕が洗うから」

K「海、かわいそう。ずっとひとりぼっちで・・・生まれてまだ2ヶ月なのに・・・」

僕「うん・・・でも少しずつ慣れていけたらいいね・・・」

タクシーで家に帰ってリビングのドアを開けると、Kがパンツ一丁で濡れてまだ乾いていない海を抱えてうずくまっていた。

僕「どうしたの?大丈夫?」

K「海、かわいそう・・・」

僕「大丈夫だよ。海は僕たちがいつか帰ってくること、そのうち学んで耐えられるようになるから」

ケージの中は、うんちを踏んだ足で走り回ったのか、そこらじゅうにウンチがつけられているので、シートやおもちゃを持って僕はそのままお風呂場へ行き、汚れを洗い流す。シートを干して、おもちゃを拭いて、リビングに戻ると、Kも少し元気が戻って来た。

海は帰って来た僕に精一杯の歓迎のしっぽを振ってくれる。海にとってもショックだったのだろうけど、Kにとってもショックだったのだろう。犬を飼うのが初めてのKはいろいろと驚くことばかりのようだ。海をひとりぼっちにさせてしまって、自分を責めているようにも見えた。

海も、少しずつ学んでいってくれると思う。

そして僕たちも、ゆっくりと成長していくことができれば・・・と思ったのだ。

海と海辺をお散歩。

スタンダードプードルの海が家に来て、2週間が経った。

海はまだ2回目のワクチンが終わっていないため外を散歩させることはできないのだけど、家の中以外の外の世界に触れさせることも大切なようで、今日は海を連れて熱海の海辺を抱っこしながら散歩した。

海は家にばかりいたのでかなり内弁慶になっていて、車を見たり、人を見ながらちょっと緊張しているのがわかる。カモメの声に驚いたり、子どもの声や元気に走る様を興味津々で見ていた。

海が家に来て思うことは、僕とKに海と言う赤ちゃんが加わり、生活が一変したと言うこと。

おしっこやうんこの始末、朝方早起きして鳴き出す海をなだめること、甘噛みしまくったり噛んで欲しくないものを噛んだりするのをどうやっておもちゃに差し替えるかなど、明らかに自分たちの時間の多くが海との時間に割かれている。

手がかかるし面倒臭いと思うこともたくさんあるけど、海が家族に加わって、今までは自分たちのことばかりだった僕たち二人も、確実に成長している気がするのだ。

君の心に刻んだ名前

台湾のLGBTQ映画で、台湾史上最高の観客動員数を誇ったという映画「君の心に刻んだ名前」を、ネットフリックスで観た。

せつなく、胸が痛くなるような素晴らしい青春映画だったのでここではストーリーに触れないけれども、多感な高校生が自分の同性愛に気づいてゆく中での葛藤や純粋な恋心を見事に表現した作品だった。

この映画を見て、自分の高校の頃のことを懐かしく思い出した。体操部の先輩が好きだったり、サッカー部の先輩が好きだったりしたけど、決して誰にも言うことはできずに自分を押し殺して生きていた高校時代。

もう一度生まれ変わるとしたら、ゲイとしては生まれて来たくないとずっと思っていたけど、不思議なことに今となっては、もう一度ゲイで生まれて来てもいいかもしれないと思っている。

自分のセクシュアリティのことを、人に言えずに苦しんだ青春時代でさえも、今となってみればそれはそれで人とは違った愉しみもあったように思うのだ。もう一度青春時代をゲイとして生きるのも悪くないと思える。この映画を見てそんなことを考えた。

⭐️君の心に刻んだ名前https://www.netflix.com/jp/title/81287844

原因不明の病。

あまりないことなのだけど、一昨日から左下の歯が痛くて、詰めたところが取れたのかと思い、歯科医の予約を取ろうと電話をしていた。

昨日は左側の耳を押さえると痛く、おまけに左側後頭部も時折り痛く、下顎周りも変な違和感を感じていた。

家に帰って僕の顔を見たKは、「変なニキビが口の周りに出来ている」と言うので、鏡を見るとニキビのようなものがいくつか出来ていた。

翌朝、耳の奥の痛みと頭痛が治らないので、原因は歯なのではないかと思い、熱海の歯科医を訪れるも、虫歯はないし歯が原因ではないと言われた。

午前の診療が終わりそうな大学病院に電話をかけて、耳鼻科の予約をなんとか取り付けタクシーで向かう。

耳鼻科の先生に見てもらうや否や、「これは皮膚科だ。すぐに皮膚科に電話して!」と。皮膚科に回されて判明したのは、どうやら病気は、「帯状疱疹」とのこと。

「すぐに入院していただきたい」と言われるも、来週月曜日の編集は休めないのでなんとか入院はせずに治せないかと相談する。

ウイルスを抑える飲み薬と痛み止めをもらって帰り、家に着いたら力が抜けてしまった。

「帯状疱疹」とは、昔やった水疱瘡のウイルスが未だに身体の中に残っていて、免疫力が落ちて来た時に再び身体の表面に出て来て神経を刺激する病気らしい。

40歳以上が圧倒的に多く、80歳になると三人に一人は帯状疱疹の経験者だそうだ。

この一年、身体的にも精神的にもとてもしんどかつたので、ここへ来て免疫力が落ちてしまっていたのだと思う。

まもなく年末になることもあり、今年の年末はゆっくり過ごすようにと神様がはからってくれたのかもしれない。

仕事から帰って来たKは、心配そうに僕の顔を何度も覗き込んでいた。

家族のもとへ。

駒沢で撮影が終わったのはほぼ予定通りの4時半過ぎ。普段ならば撮影の余韻に浸ったり、クライアントとしばし歓談をするのだけど、僕は挨拶をして一目散にタクシーに飛び乗った。

駒沢大学駅から電車に乗り継いで品川に着いたのは4時56分。品川発のこだまは、5時4分。ダッシュでこだまに駆け込み、熱海駅に着くと、そのまま迷わずタクシーに飛び乗った。

昨日はKが休みを取り、海と過ごしてくれていたのだけど、今日は僕が帰るまでおよそ9時間も海はひとりでケージの中で過ごしたのだ。

家に着くと、海は玄関を開けた途端に鳴き出した。ケージの中は荒れた様子もなく、それでもうんちを踏んでしまった足跡があったので、そのままお風呂場に直行してシャワーを浴びさせる。

そこにタッチの差でKが帰って来て、僕たちのシャワーを覗き込む。

海は、やっと会えたうれしさのあまり興奮しているけど、それと同時に嫌いなシャワーを浴びながら複雑な顔をしている。

お風呂から上がって海を抱きしめた。

そして二泊ぶりにKの顔を見て、ほっとした。

たった三人の家族だけど、こうして一緒にいるだけでとても温かい。