トランスジェンダーTの旅立ち。

irodoriのスタッフには、MtF(male to female)のTがいる。
仕事が終わった所でみんなから花束を貰っていたのは、一旦仕事を休んで、この3月にタイに行って手術をすることになっているから。
様々な下調べをして手術に踏み切ったTは、「やっと手術ができる!」という思いでいるみたいだったけど、実際には身体にメスを入れるという不安は大きいに違いない。
僕たちはirodoriで、この日たまたま東京レインボープライドの打ち合わせをしていたのだけど、偶然にもメンバーの中に同じMtFのKちゃんがいて、年下なのにまるで人生の難題を潜り抜けた先輩のように手術のことを細かく丁寧にTに話して聞かせていた。
K「とにかく、ジェッブという言葉を覚えておけば大丈夫!痛い!って意味だから」
K「最初は何日もほとんど意識がなくて、数日経ってから朦朧とした意識が戻って来るの…」
K「二週間入院して、その後1週間ホテルで療養だろうけど、食事はアメリカンはまずいからタイ料理にした方がいいわ」
MtFがいったいどんな手術をするのか、僕は全く見当もつかないのだけど、女性の身体になるために、胸を作り、男性器を切り、女性器を作るということだ。女性器は、男性器を裏返して作ることもあれば、腸を取り出して女性器を作る人も多いという。(聞いているだけで恐ろしくて気が遠くなる手術ではないか…)
そこに、そばにいた僕の妹的存在のFが口を挟む。
F「FtM(female to male)の場合は、男性器を作る時に、手首の下の肉を剥がすか、腿の裏側の肉を剥がすか、または女性器から男性器を作るんですけど、女性器がデカイ人はおちんちんもデッカくなるんですよ!」
大金をためて、意を決してやっと手術をして、身体に痛みを伴って、やっと自分らしくなれると帰ってきても、「気持ち悪い」「変態」「化け物」などという言葉を浴びせる人たちもいるという。
彼らが、トランスジェンダーであるのは、トランスジェンダーになろうとしてなったわけではなく、『ただそうやって自然に生まれて来ただけ』だ。
僕やあなたとなんら変わりはなく、自然にそのように生まれて来ただけなのだ。
「気持ち悪い」などという言葉は、そんな基本的なことを知らない人たちの言葉だ。自分とは違う人間に対する、想像力の働かない人たちの言葉だ。
タイヘ旅立つTを、スタッフもお客さんもみんなが温かく送り出していて、僕はそんな様子を見ながら、『irodori』は、本当に素敵な店だなあと、改めてじんわりと思ったのでした。

OUT IN AMERICA(OUT IN JAPAN 1)

高飛び込みのゴールドメダリストGreg Louganis

43年間カップルのふたり

18歳のふたりは15歳の時カミングアウトしている

僕のたいせつな本の中に、『OUT IN AMERICA』という写真集がある。
この本は、タックス・ノットのタックから譲り受けたものだ。
有名なゲイ雑誌『OUT』の編集者が作ったこの写真集は、アメリカで80年代に発売されたものだけど、今でもこの写真集を開けると、静かな勇気としみじみとした感動をもらえる。
中には、様々な年齢の人々がその人のバックグラウンドとともに等身大のまま、自分がゲイやビアンやセクシャルマイノリティーであることを公表しているのだ。
80年代に活躍したカルチャークラブのボーイ・ジョージや、MACのモデルをはじめて男性でやったル・ポウルなんかも映っている。
どこまでも続くニューヨークのパレードのレインボーフラッグや、派手なドラァグクイーンたちも…。
高飛び込みのオリンピック金メダリストGreg Louganisは、愛犬のグレートデンたちと輝くような笑顔を見せているし、43年間カップルであるSAGEのメンバーであるふたりは、いつ見てもこの世界に『愛』というものがあることを教えてくれている。
※この写真集は、誰でも見ることが出来るように、irodoriの本棚に置いてありますので、ぜひ気軽に見に来てください。

プレゼント。

Mの家にお邪魔した時に、友人たちから誕生日プレゼントをいただいた。
僕の誕生日は12月なのだけど、なかなか友人たちにも会うことが出来ずにこんな風に少し遅れていただくことがある。
一つは、ニューヨークのMoMAで買ったという綺麗な石のコースター。
もう一つは、東京のMoMAのショップで買ったという一輪挿し。
「何をプレゼントすればいいのか、色々うるさそうでいつもとても迷うんです…」
とよく言われる迷惑な僕に、それぞれが色々考えて選んでくれたのだなあ…。
遅れていただくプレゼントは、思いがけずとてもうれしいものでした。
ありがとう!

カミングアウトしてますか?

「カミングアウトしてますか?」と、テレビ局の取材でいきなり聞かれた。
渋谷区で可決を目指している『同性パートナー条例法』に関して当事者の話を聞きたいということで、僕は、反対している人たちや知らない人たちにとって、LGBTや今回の条例のことを知る機会になればいいな…くらいの気持ちで参加した。妹的存在のGや弟的存在のFとともにBSのテレビ局の取材に応じたのだ。(今思うと、Gによる僕のアウティングだったのかもしれない…汗)
僕「会社ではみんなにカミングアウトしているわけではなくて、知っている人は知っているし、聞かれたら答えるようにしています」と答えた。
(実際の放送ではこの場面はカットされていたのだけど、「僕には年下のパートナーがいるんです」というようなところが映っていた)
テレビの放映があった翌日、会社に行く時にちょっとドキドキした。「やっぱりあの人、こっちの人だったのね…」などと言いながら、右手を顔の反対の口元に添える古典的なジェスチャーも浮かんだりしていた。
でも、BSだから誰一人見ていなかったのか、今のところ話題に触れる人はいない。(もしかしたらみんなとっくに知っているから、なんの特ダネにもならないのかもしれないけど…)
今回、この条例が可決されたからといって、名乗りをあげることが出来る人は、ほんの一握りのカミングアウトしてもよいと考えている人たちなのだろう。そう考えると、この条例はもしかしたら、多くのセクシャルマイノリティーの人たちにとって直接的には関係のないものなのかもしれないとも思う。
そうであったとしても、今回この条例が可決されることを願っている。
それは、僕たちの次の世代にとって、より生きやすい世の中への一歩になるに違いないと思うからだ。
今、僕の周りにいる友人たちは、持てる力を振り絞って、今回の条例法を通すために一丸となって動き回っている。

stay weird, stay different

「イミテーション・ゲーム/エニグマと天才数学者の秘密」はゲイの数学者アラン・チューリングを描いた映画。先日のアカデミー賞受賞者のスピーチの中でも、「イミテーション・ゲーム/エニグマと天才数学者の秘密」で脚色賞を受賞したグレアム・ムーアのスピーチは感動的だった
皆さんありがとうございます!
アラン・チューリングは、
このような舞台で表彰されることはありませんでした。
でも、私はいま立っています。
これは不公平ですよね。
なので、短い時間ですがメッセージを伝えたいと思います。
私は16歳の時、自殺未遂をしました。
自分は変わった人間だと思っていたし、
いつも居場所が無かったからです。
でも、私はいまここに立っています。
かつての自分がそうであったように、
この映画を、そういう子どもたちに捧げたい。
自分は変わり者で居場所がないと感じている若者たちへ。
君たちには居場所があります。そのままで大丈夫。
そして、いつか輝く時が来るんです。
だから君がこのステージ立った時には、
このメッセージを次につなげて欲しい。
本当にありがとう。

アカデミー賞の一日。

アカデミー賞の授賞式は、友人のMカップルの家で鑑賞するのが毎年の恒例となっている。
朝の9時にはMの家に到着して、料理を作りながらレッドカーペットの様子を時々眺める。
今年はあいにくあまりノミネート作品を事前に観ることが出来なかったのだけど、応援していた映画、『6才のボクが大人になるまで』のパトリシア・アークエットが助演女優賞を受賞したし、ずっと取って欲しかったジュリアン・ムーアが主演女優賞を受賞した。
また、司会のニール・パトリック・ハリスは、堂々と男性の恋人とレッドカーペットを歩いたり、随分とアメリカは進んでいるなあと思わされた。
レディガガによるサウンドオブミュージックのパフォーマンスは見ものだったし、何よりもジュリー・アンドリュースが出てきたのには驚かされた。
世界に『映画』があるおかげで、知らない国のことや、知らない時代のことを知ったり、自分と違う境遇の人の人生を想像したり、過去の出来事を思い知らされたり、新しい人生への希望を持つことが出来る。
僕にとってアカデミー賞を観る一日は、『映画』というものに改めて感謝する一日でもあるのだ。

君が生きた証

予告編がかなり流れていたので、だいたいの予想は出来ていた。でも結論から言うと、予想を完全に裏切るストーリーだった。
ある日、高校生の息子を事故で喪った父親サムは、喪失感のあまり仕事も何もかもすべてを失ってしまう。
音楽好きだった息子の遺品のデモテープを何度も聴き、やがてギターを弾き、亡くなった息子のことを知ろうとする父親が、少しずつ再生してゆく。
監督は、ファーゴなどに出ていた演技派のウイリアム・H・メイシー。本作にもバーの店主として不思議な存在感を放っている。
主演の、ビリー・クラダップが素晴らしいギターと歌、そして演技を披露している。この映画の成功は、彼の抜擢によるものだろう。ハンサムでかっこいい。
奥さん役に、久しぶりに見たフェリシティ・ハフマン(トランス・アメリカの女優)。出番は少なくても、味のある演技で余韻を残している。
人生の絶望の淵から、なんとか這い上がろうともがく人間の話。
★君が生きた証http://rudderless-movie.com

天府舫(てんふふぁん)

棒棒鶏

麻婆豆腐

水餃子

四川料理の店『天府舫』は、西武新宿駅の裏側にある。
僕は、中華料理の中では四川料理が好きで、出張で北京や上海に行っても、わざわざ四川料理の店を探して食べに行っていたりした。
東京ではなかなか本格的な四川料理が食べられるお店は少ないようで、四川料理と書いてあっても、ほとんどのお店は日本人用にアレンジされていて味が甘くマイルドになっているようだ。
『天府舫』は、本場の麻婆豆腐を出すという店。運ばれてきた料理は匂いからして中国だった。
棒棒鶏は、普通日本では少し甘い胡麻のソースがかかっているけど、ここのは見ての通り真っ赤っか。でも、見た目ほど辛くはなくて、ほのかな鶏肉に辛味がアクセントになっていてお酒が進む。
麻婆豆腐は、唐辛子よりも山椒の辛さが強く、舌がピリピリと刺激を受ける。辛い辛いと思いながらも、もっと食べたくなる魔の味だ。
水餃子は3タイプあって、辛いもの、塩味のスープのもの、そして茹で上げて辛いタレをつけて食べるもの。
辛い料理が続いたので、塩味のスープにしたけど、これもとても美味しかった。
お客さんはずっと満席で、ひっきりなしに入ってくる。店内には中国人のお客さんも多く、まるで中国に来ているかのような錯覚に陥る。
今度は予約をして、火鍋を食べたいと思ったのでした。
★天府舫http://tabelog.com/tokyo/A1304/A130401/13129407/

きっと、星のせいじゃない

16歳で亡くなった友人を題材に書き上げた『さよならを待つふたりのために』は、全米でベストセラーになった小説。映画『(500)日のサマー』を手がけたスコット・ノイスタッター&マイケル・H・ウェバーが脚色。
どこへ行くにも酸素ボンベが手放せない末期がんのヘイゼルは、ガン患者をサポートする会で、骨肉腫により右足の膝から下を切断したガスに出会う。
自分たちの時間が限られていることを知っているヘイゼルは、これ以上周りの人を巻き込み傷つけたくはないと思い、ガスとの距離を保とうとするが、やがてガスのまっすぐな気持ちに触れることによって少しずつ変わってゆく。
人間は、いずれいつか死ぬ時が来る。それはわかっていたとしても、この映画で描かれている16歳のふたりはあまりにも若すぎる。
残された時間を慈しむように愛し合う、ふたりの完璧なラブストーリー。
映画を観ている間、なぜか僕が心から好きだった恋人たちのことを考えた。
それぞれの恋人とともに過ごした時間は、きっと時間にして何時間何分何秒と測れるようなものだったけど、永遠とも思えるほど世界が輝いていた時間が確かにあった。
この映画は、そんな『永遠』を、なんとかフイルムに閉じ込めようとした映画。
★きっと、星のせいじゃないhttp://www.foxmovies-jp.com/kitto-hoshi/sp/

ENNIO MORRICONE

早春のまだ寒く晴れ渡った朝に、エンニオ・モリコーネの曲をかけてみる。
一番有名な曲は、『ニュー・シネマ・パラダイス』だろうか。映画の内容よりも、モリコーネの曲によって泣かされていたことに、今になって気づく。
高校の頃、友人たちと観に行った『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・アメリカ』。銀幕の美しい世界に息を飲んだ。
あれから30年経った今こうして曲を聴くと、この映画を支えていたエンニオ・モリコーネの力を思い知る。
美しいものを残した人は、死なない。
★DEBORAH’S THEME from once upon a time in americahttp://youtu.be/PuyYc0gINbU