ムーンライト

心が押し潰されてしまいそうになった。
アカデミー作品賞に輝いた映画『ムーンライト』は、黒人でありゲイの主人公を真っ向から描いた映画。
そんなダブルマイノリティの映画が、アカデミー賞を取る時代になったのかと改めて時代の流れを感じさせられた。
素晴らしい作品なので、今回はストーリーに何も触れることはしない。
この映画は、ひとりのゲイの男の子の成長を描いたとても個人的でミニマムな映画でありながら、現代のアメリカ社会が抱える大きな問題を、しっかりと炙り出した作品。
それにしても、月明かりだけが照らす世界において、黒人の男たちの肌は絹のように細かく、なんて美しいのだろうか?
ここからは余談だが…
昔、黒人の男の人と一夜をともにしたことがある。その時に、人間の肌がこんなにも木目細かく触り心地の良いものかと思った。
筋肉はしなやかで、お尻は盛り上がり、唇はセクシーに膨らんでいた。
そして驚いたことは、身体から体臭がまったくしなかったことだ。
それと、こんなこと書いていいのかわからないけど、ペニスが超巨大…
ではなく、実際に一夜を過ごした黒人の男の人は、僕たちとなんら変わらなかったのだ。
その時に僕が改めて思い知ったことは、自分の中で黒人のイメージを勝手に思い描いて作りあげていたということだった。
ゲイやセクシュアルマイノリティの人たちだけでなく、すべての人に見て欲しい作品。
⭐︎ムーンライトhttp://moonlight-movie.jp/sp/

不思議な夜。

こんなことはじめてなのだけど、妹のような友人Gを通して連絡があった。
「『外苑前日記』を読んでいる人がいて、ただしさん(実際には僕の姓)に会いたいと言っているのでirodoriで一緒に食事をしませんか?」
この小さなブログは、正直、僕以外もう一人くらいの人しか読んでいないと思って書いている。それが、何かの検索でたまたま見つけたのかもしれない。
irodoriに行くと、その人は友人たちと一緒に3人で座っていた。僕と、僕の妹のようなGとテーブルに着くと、緩やかに食事会がはじまった。
「年賀状の当選番号を調べてるKさんのやつが好きでした」
僕が何気なく書いたある日の記録を、その人は覚えていてくれたのだった。
「名古屋の焼き鳥屋さんは美味しかったですねー」
その人は食に詳しく、僕が訪ね歩いたレストランやバーも、何軒か回っていたのには驚いてしまった。
「二丁目のぺんぺん草に彼氏と行ったら、ブス!とか酷いことを散々言われて、僕の彼は二度とあんな店には行かないと言ってます」
そんな話を聞きながら、僕は大きな声で笑ってしまったのだった。ぺんぺん草のひろしさんにとって、お客さんに「ブス!」と言うのは、ある種の親愛の表現であって、言葉以上に悪気はないことを説明して、後で二人で仇を取りに行きましょうということに。
「irodoriも何度も来ていたんです。この辺りもよく歩いていたから、どこかで会っていたかもしれません…」
それからふたりでぺんぺん草に行き、ひろしさんに悪態をつき、Bridgeに顔を出してとても楽しいひとときだったのだけど、インターネットのおかげで、今まで知るはずもなかった人と繋がり、こんな不思議な出会いまであることに今更ながら驚かされたのだった。

鳴門生わかめ

いつだったか、伊勢丹の6階の催事で、瀬戸内海の物産展をやっていた時に、何気なく買ったわかめが美味しかったので、それ以来うちでは、ここ『八百秀の鳴門生わかめ』を取り寄せている。
お水には、ほんの30秒くらい浸ければ十分で、驚くほど柔らかい生のわかめが蘇る。
海苔やひじきを食べる時もそうだけど、わかめの味噌汁を飲むと、なんだか身体が喜んでいる感じがするから不思議だ。
人間が大昔に海の中にいた頃の記憶を、細胞が覚えているのかもしれない。
⭐︎八百秀http://www.yaohide.com

松の実。

松の実が好きで、ジェノベーゼを作る時には欠かせないし、煎ってサラダに入れることも多いのだけど、近くのスーパーで買うと、50グラムくらいで500円もしたりする高価な食材だ。
先日、ネットで探したところ、上野のアメ横の問屋さんから1キロ買うのがいいかもと思い、注文した。
届いた松の実は、実がふっくらと大きく、1キロの松の実は思った以上の量があったので、得をした気分になったのだけど、ここのお店の包装に使われているテープが可愛くて、思わず写真を撮ってしまった。
ゲイテイストに溢れていると思いませんか?
⭐︎小島屋http://www.kojima-ya.com/fs/kojimaya/c/?mm170331

野田琺瑯の油入れ。

揚げ物油は、オリーブ油か胡麻油を使っているのだけど、どちらも高価なため、2回から3回くらいは使ってから捨てるようにしている。
日光を遮断して、油の劣化を遅らせてくれる油を入れる容器を探していたのだけど、なかなか見つからず諦めかけていた時に、『野田琺瑯』の油入れを見つけた。
この油入れの中には、手前に細かな網状の濾し皿が付いていて、その下にはさらに細かな紙の濾し器が付いているため、使った油を入れると、余分なカスや汚れをきちんと濾して綺麗な油だけにしてくれる。
琺瑯は、金属の上からガラス質の釉薬を高温で焼き付けたものだけど、手で持った時も気持ちよく、なんとも使い勝手がいい。
僕の家ではボウルもバットも何もかも、冷んやりとしたステンレスのものは使わなくなり、今では全て琺瑯のものになってしまった。

SING

『SING』の予告を観ながら、だいたいこんな映画だろう・・・と思っていたら、それが全然違ったのだった。
スカーレット・ヨハンソン。マシュー・マコノヒー。セス・マクファーレン。リース・ウィザースプーン。ジェニファー・ハドソン。驚くほど有名な声優たちに加え、ビートルズからレディ・ガガ、そしてきゃりーぱみゅぱみゅまで、時代を彩って来た豪華な音楽が全編を通してふんだんに使われている。
劇場愛に満ちた物語と、動物を使いながら人間の多様性や個性を描いた『SING』は、大人から子どもまで楽しめるエンターテインメント性の高い作品に仕上がっている。
「どれくらいお金がかかっているんだろう・・・」と思わずにはいられない動物たちのキャラクターや動きを観ているだけでも、コンピューターグラフィックスの進化を考えさせられるし、1800円でこれだけの映画を観れることに、感動すらしてしまったのだ。
アニメーションだからといって馬鹿にしている人にこそ観て欲しい作品。
★SINGhttp://sing-movie.jp

一番上の甥っ子。

僕には、甥が3人いる。
真ん中の甥は、先日ここにも書いたように、慶應大学の入学式を控えているところ。小さな頃からなんでもよく出来て、社交性があり、よく気がつく子どもだった。(もしも甥っ子にゲイがいるならば、多分この子だろう)
一番下の甥は今度小学6年生になるところ。天真爛漫で笑顔の絶えない子だ。
長男のKTは青山学院大学の2年生。随分前から人と会うこと自体が苦手になり、今は学校と家の往復だけになってしまった。(人と会話をするのも苦手なので、コンビニにも行けない)部活やサークルもしないし、友人はいると言うが、旅行に行ったりはしない。
僕の母が心配して、「KTと会って話をしてみてくれない?」と言うので、外苑前に呼び出してエミリア(僕のお気に入りのイタリアン)へランチに。20歳になったと言うので、ワインを頼み、メニューを決めて、前菜が運ばれてくる。僕は、自分の話をしながら、少しずつKTに質問をした。
僕「学校では何を勉強してるの?」
KT「英米文学を原文で読んでる」
僕「好きな作家は?」
KT「特にいない」
僕「僕は、サリンジャーが好きだけど、好き?」
KT「知らない…」
普通の20歳男子は、もりもり食欲がありそうだけど、KTはお店の人が困惑するほど食べるペースが遅く、僕も待ちきれずワインをがぶ飲みしてしまう。
KT「文学部だけど、なんで文学部なのかな・・・って。自分がそんなに好きじゃない気がするんだ・・・」
僕「じゃあ、何が好きなの?好きな映画は?」
KT「それ、こないだもカワチ(兄のお嫁さんの妹)に聞かれた・・・」
僕「好きなことを見つけることはとてもたいせつなことだよ。これから先に何をやっていくかを考える時でも、少しでも好きなことを仕事に出来る方がいいからね。好きなことがわからなかったら、嫌いなことを書き出してみたらいいんじゃない?そうすると、少しずつ自分が好きなことが見えてくるかもしれないから・・・」
KT「・・・・・・」
その後、僕が高校時代を過ごした外苑前近辺を散歩したのだけど、KTは僕の話を聞きながら、時々頷いているようだった。
僕は歩きながら、僕の対応はこれでよかったのだろうか・・・と考えた。自分としては、なるべく、「こうしなさい。これはよくない。」など、否定的な言葉や批判するような言葉は避けて話したつもりだったのだけど、思った以上にKTは、ずっとひとりの世界を彷徨っているように見えたのだ。
もしかしたらKTの周りの家族や僕たちは、知らず知らずのうちに、「二十歳の大学生だったら、普通はこうだろう。年頃の男の子だったら、友達とこうして過ごすのがあたりまえだろう。大学生だから恋愛やセックスのことで頭がいっぱいだろう・・・」そんな風に自分たちの頭の中にある当たり前とKTを比較して勝手に判断していたのかもしれない。
普通の大学生なんて、そもそもないのだ。KTの中にはまだ僕の知らない悩みや闇があるのかもしれないのだ。
「またうちに遊びにおいでね」
そう言って駅で別れたKTを見送りながら、なた近いうちに会わないといけないと思ったのだ。

わたしは、ダニエル・ブレイク

前作で引退を表明していた80歳のケン・ローチ監督が、もう一度映画を作ろうと立ち上がり、見事カンヌ国際映画祭においてパルムドールを獲得した作品。
ケン・ローチは、いつも労働者の心に寄り添って作品作りを続けてきたと言われている。僕も、何作か彼の作品を観ているけど、大抵主人公は、真面目で実直な労働者だった。
間も無く60歳になろうというダニエル・ブレイクは、実直に大工として働いて来た。最愛の妻を失った後は一人暮らしだったが、心臓病で倒れ、仕事が許可されなくなってしまう。
仕事をなくして、自ら食べて行くために、国の失業者支援を頼ろうとするのだけど、そこで、同じように貧困に苦しむ親子に出会うことになる。
世界の富豪8人の資産は、世界の貧困層36億人と同じだというニュースが飛び交っていたけど、世界ではますます貧富の格差が広がっている。
ケン・ローチが教えてくれることは、富める者も、貧しい者も、力の強い者も、力の弱い者も、皆等しく価値のある命だということ。
加速してゆく資本主義の真っ只中にいると、時々そんな当たり前のことをみんなが忘れてしまうような時があるような気がする。
どんなに貧しくても、助けが必要な人に手を差し伸べること。弱者がいたら助け合うという姿に、人間の真の美しさを見せつけられる作品。
⭐︎わたしは、ダニエル・ブレイクhttp://danielblake.jp

怖い夢を見た時に。

会社のエレベーターに乗っていると、そのままどんどん高く上がっていって、その後、ガクンと不具合を感じたので怖くなって途中の階で思わずエレベーターを降りた。
極度の高所恐怖症なので、心臓をバクバクさせながら床にうつ伏せになると、目の前の地面が裂けてきて、遥か下の地面まで見えてきて、恐ろしさのあまり気を失いそうになった…
そこでハッと目が醒めると、あまりの恐怖で全身に脂汗をかいていた。
それと同時に、僕の左手をKの右手がそっと包み込んだ。Kは起きているわけではなくて、眠りながら無意識に僕の手を掴んだのだろう。
怖い夢を見た時に、隣に恋人がいるというだけで、なんという安心感だろう。僕は、震えながらその手を掴んで、しばらくするとそのままもう一度眠りに落ちていった。
朝起きた時にその時の話をしても、Kはまったく覚えていなかった。
どんなに怖かったのかと熱心に話す僕を見ながら、Kは寝ぼけた顔をして笑っていた。

市原平兵衞商店。

前にもここに書いたことがあるけど、家で使っている箸は、京都の『市原平兵衞商店』のものだ。
箸は、毎日毎日口に食べ物を運ぶもの。いくら高くたっていいと思っていたのだけど、最初にここの『みやこばし』を買うときはちょっと勇気が必要だった。だって、竹でできたお箸が、その当時で4000円したのだ。(それが今では6000円になっていた)
『みやこばし』は、囲炉裏やかまどの煙で長い間いぶされた稀少な煤竹を使った箸で、先が細く掴みやすく、とても丈夫。その掴みやすさゆえに、ここの箸を使ったら、もう他の箸には戻れなくなってしまう。
今回、久しぶりに立ち寄り買い求めたものは、わさびや生姜を擦った時に、綺麗に集めてくれるものと、焼き物用の焼もの箸、そして、竹でできた菜箸。焼き物用の箸は比較的火に強く燃えにくい。竹でできた菜箸は、その角がある持ち手がとても持ちやすいのだ。
箸が使いやすく気に入ったものだと、忙しい中で作る料理も効率よくできてゆく。今回、京都で買ったお土産的なものはこれらの箸だけだけど、僕は上機嫌で東京に帰ってきたのです。