メイジーの瞳

『キッズ・オールライト』の制作スタッフによる映画『メイジーの瞳』は、両親の離婚を見つめる子どもの目線で作られた温かい映画だった。
ジュリアン・ムーア扮するロックミュージシャンのエキセントリックな母親と、仕事で出張ばかりしている父親のやりとりを、小さなメイジーはつぶさに見ているのがわかる。
こういう設定で作られた映画は今までもあったと思うけど、今回の『メイジーの瞳』が素晴らしいのは、この映画は、「小さなメイジーがかわいそう・・・」などというお涙ちょうだいストーリーではなくて、両親のそれぞれの言い訳や行動を見ているうちに、大人たちがいかに自分勝手で子どもじみているかということを思い知らされるところだろう。
少女と、血のつながりの全くない両親のそれぞれのパートナーとのふれあいが新鮮で美しい。離婚や核家族化が進む現代の家庭において、家族とは何か?という疑問をまっすぐに投げかけてくる秀作。
☆メイジーの瞳http://maisie.gaga.ne.jp/

偶然。

赤坂から会社に戻る途中の溜池山王駅で、20年ぶりくらいで昔の友人とすれ違った。
20年以上前くらいの僕は、NYが好きで年に2回くらいの頻度でNYに遊びに出かけていた。その頃、NYの旅行会社に勤務していたIは、共通の友人の紹介でNYで会った。
スイカが好きで、飾ることをせず、どこか素朴なIは一緒にいるとほっとする存在で、同じくNY勤務の年上の恋人がいた。
一緒に新年を迎えたり、ZAGATで美味しそうなレストランを予約してご飯を食べに行ったり、その頃のNYの思い出にはいつもIの笑顔があった。
Iが東京に戻って来たのは15年前くらいだろうか?一度丸ノ内線でほんの数分一緒になったことがあるけど、車内が混んでいたためほとんど話すことも出来なかった。
今回は、通路ですれ違ったので、ちゃんとLINEのアドレスも交換出来て、その後、今まで会えなかった時間を確かめるように何度もメールが行き交った。
学生の頃に出会った僕が、もう45歳になっていることに驚きを隠せないIに、「久しぶりに会って、ずいぶん老けたかな?」と、正直に聞いてみた。
Iからはすぐに、「格好よくなって、びっくりー」と返信が来た(お世辞かもしれないけど)。
学生の頃の僕は痩せていたし、『なまいき』というあだなで呼ばれていたことから分かるように、年上からも怖がられるような尖った男の子だったようだ。それが今では、適度に筋肉も脂肪もついて、普通の45歳のおじさんになってしまったのが驚きのようだった。
Iは、いつもだと決して通らないルートで移動していた時に偶然僕に出会えたことを不思議だと言った。僕も、滅多に通らない溜池山王の乗り換えコースだったので驚いた。
人生に偶然などないという人がいる。目の前に立ち上がるすべての現実(正確に言うと現実だと我々が思っていること)は、自分の意識が作り出していると。
立春の日に、こうして昔の友人に久しぶりに出会えたことを不思議に思った。

はじまりは5つ星ホテルから

僕の大好きな女優である『マルゲリータ・ブイ』が出ていると聞いて、公開を心待ちにしていたイタリア映画『はじまりは5つ星ホテルから』を観に行った。
イレーネ(マルゲリータ・ブイ)は、5つ星ホテルの覆面調査員。自分の身元を明かさずに、世界中の5つ星ホテルを泊まり歩き暮らしている。
決まった恋人もなく、一人で気ままな生活をおくるイレーネは、40歳を過ぎてふと自分の将来のことを考えて、これまでの様々な人生の選択や生き方を省みることになる。
結婚という生活基盤がなく、自由に独りで生きるイレーネは、まるでゲイのようだ。守らなければならない子どもたちがいるわけでもなく、結婚しているパートナーもいない…。
そんな彼女を心配する妹が、将来は誰に面倒を見てもらうつもりなのか?と問いかけるのも、我々ゲイのシチュエーションに似ている。
幸せの形は、本来人それぞれであるはずが、「結婚をして子どもを持つことこそが幸せ」という既成概念からなかなか逃れることが出来ないのが僕たちの暮らす世界なのだ。
パリのクリヨンなど豪華なホテルのスイートが見れるので、ホテル好きには堪らない映画だろう。僕もこんな仕事してみたい…と思ってしまった。特に、最後にフロントでやっと身分を明かすところなど、胸がスッとするに違いない…笑
派手さはないものの、孤独や不安に揺れ動く人間の繊細な感情を丁寧に描いた作品は、見終わった後に清々しい気持ちになれる。
★はじまりは5つ星ホテルからhttp://www.bunkamura.co.jp/s/cinema/lineup/14_viaggiosola.html

神宮前2丁目レインボー計画。

今まで住んでいて知らなかったのだけど、僕が住む神宮前2丁目界隈は、『奥原宿』通称『オクハラ』と言われているらしい。そして実は個性的なレストランやショップがぽつりぽつりと集まっている。
そんな神宮前2丁目の僕の家から出て50歩くらいの所にどういうわけだか友人のFがバー『緑』をオープンさせてしばらく経つ。帰り際にそのバーの前を通る時は見つからないように通りすぎようと思うのだけど、こっそりと通り過ぎようとすればするほど、フェンシングをやっていた動体視力のいいFにあっさりと見つけられて店に引きずり込まれる。
このバー『緑』を皮切りに、会社の後輩であり妹的存在のGが同じ神宮前2丁目に引っ越して来たこともあり、『緑』はいつのまにか溜まり場になり、様々なジャンルの人が夜毎集まるようになった。
そしてこれから神宮前2丁目を、様々なセクシャリティの人たちが集い楽しく過ごすことが出来る、レインボーな町にしようという計画が進められている。この計画のキックオフを兼ねて、また『緑』にみんなで集い、乾杯をした。
ゴールデンウイークはレインボーウイークで大忙しとなり。そして、このレインボーウイークの頃にまた新たなお店がオープンする予定。
今までセクシャリティをひた隠しにして生きて来た人たちが、その人自身のありのままの姿で働くことが出来て、大きく笑い、話せる場所が増えてゆくことを思うと、なんだかワクワクしてくる。
新宿2丁目だけでなく、神宮前2丁目へ。そしてどんどんそんな町があっちこっちに増えていけば面白いだろうなあ・・・などと夢想している。

kasumi store

フォアグラプリン

ウルフ・オブ・ウオールストリートを観た後、久しぶりに弟のようなK太郎と食事に行った。
K太郎が選んでくれたのは、新宿御苑前の駅のそばにある『kasumi store』。
ワインを飲みながら、お肉を中心とした料理をつまめるお店。
アボカドと海老のディップに、フォアグラプリン、牡蠣のエスカルゴ風、カスレ…
どれを食べても美味しいし、カスレも色々な部位のお肉が入っていて味わい深い。
グラスワインもきちんと選んであり、どれも美味しかった。
そして特筆すべきことは、店員さんたちがみんな素晴らしいサービスをしてくれることだ。
この小さなお店を愛しているのが伝わってくるし、お料理やワインに込めた思いを一生懸命説明してくれる。
こういうお店って、パリとかには沢山あるのだろうけど、東京にこんな店が出来たことがうれしい。
友人と一緒に映画を観て、美味しい食事をしながら映画の話をするって、なんとも贅沢で幸福な時間でした。
★kasumi storehttp://kasumistore.info/

ウルフ・オブ・ウオールストリート

巨匠マーチン・スコセッシがレオナルド・ディカプリオと組んだ大作は、若干26歳にして年収49億円を稼ぐことに成功した実在の証券マンのぶっ飛んだ人生の話だった。
ディカプリオって、いつアカデミー賞を取るか…といった感じだし、Jエドガーとかで俳優としてもっと評価されるべきだったのだと思うけど、なんだか最近、ずっと似たような役ばかりやっている印象。今回もやはり、僕にはディカプリオそのものに見える…。『独善的でエキセントリックで、時々激情的になる役』
それから、僕自身がもともと証券や金融の仕事に疎いし、疑問を持っているからかもしれないけど、主人公の生き方がどうにも汚らしい…と感じてしまった。でも、生き方が綺麗とか汚いとかではなく、純粋にこのぶっ飛んだ大富豪の生き方を、感嘆を持って見つめ続けられたらとても楽しめる映画だろう。
3時間弱の大作は十分見応えがあるし、日本ではあり得ない、こんなはちゃめちゃで馬鹿げた生き方をした人が実際にいたのかと思うと、アメリカという国の懐の深さを感じざるをえない。
★ウルフ・オブ・ウオールストリート http://www.wolfofwallstreet.jp

アメリカンハッスル

このところのアカデミー賞に、『ザ・ファイター』で6部門、『世界にひとつのプレイブック』で8部門、そしてこの『アメリカンハッスル』で10部門というノミネート数を誇るデヴィッド・O・ラッセル監督。
この3作品を見る限り、素晴らしい脚本と天才的な俳優を揃える幸運に恵まれていると思う。
今回のアメリカンハッスルは、実際の事件に基づいた話で、FBIと、天才的な詐欺師と相棒、そしてその頭の悪い妻とのドタバタ劇なのだけど、俳優陣の演技に惹きつけられて息つく暇もなかった。
膨大な映画を観ている映画人の友人が、『この監督の映画はうるさいから好きではない』と言うので、改めてこの監督の作品の魅力はどこなのだろうかと僕なりに考えてみた。
この監督の作品に出てくる主人公たちは、本当にろくでもない悪人ではなくて、人生の敗残者だったり、もう取り返しのつかないような生き方をして来た人間だ。
それでいて彼らは、何か人間の善意に触れるようなやさしさや温かさを持っていたりする。
それは、監督の人生経験から来る人間への鋭く深い洞察力と温かい視点なのだと思う。
よく練られた脚本と、映像、素晴らしい演技力に圧倒される映画。
★アメリカンハッスルhttp://american-hustle.jp/sp/index.html

フィレンツェの香り。

妹のような後輩のGが、フィレンツェ出張から帰国して、お土産をくれた。
カラフルな色合いのショートパスタと、ペペロンチーノやアラビアータ用に辛い調味料の配合したものと、イタリアの国旗をハーブなどで模した3色の塩。
お土産をテーブルに広げたら、小さな包みからイタリアの香りが部屋中に漂って来て、胸がざわざわとした。
フィレンツェは5回以上は訪れていて、新年を迎えたこともある思い出深い町。ミケランジェロ広場から臨む町の夕暮れ時は、溜め息が出るほど美しい・・・。映画『眺めのいい部屋』は、フィレンツェの美しさを存分に納めた映画だけど、実際にフィレンツェに行くと、映画が美化されたものではないことがわかる。
ウフィッツィ美術館に行くと、ルネッサンスという文明開化もこの町なくしては起こりえなかっただろうと納得することが出来る。ローマのように大きくはなく、街全体が歩ける規模で時間によって見せる景色が違うので、散歩をしていても飽きることがない。
フィレンツェの人たちは、トスカーナ人であること、もっと言うとその昔エトルリアという古い文明が栄えたことを誇りに思っている。シエナとは何度も政権争いをしたこともあり、ライバル意識が強かったりする。
町中にあるFRESCOBALDIという貴族の経営するトラットリアで、彼らの作ったワインを傾けながら、素材そのものが美味しいトスカーナ料理を食べることを夢想してみる・・・。
今年こそ、我が故郷に帰らなければ・・・。

経年愛化。

長く人とつきあっていくと、自分も年をとるし、相手も年をとっていく。
僕が29歳でつきあい出した人は、僕の6歳年上で当時35歳。
その後10年間つきあったので僕が39歳で彼が45歳の時までつきあったことになる。今、僕は、別れた頃の彼の年45歳になっている。
日々ともに生きているとなかなか気がつかないことだけど、ふとした時に、相手が年をとったことを感じる瞬間が何度もあった。
年齢はハッキリと身体や機能に表れる。肌や、髪の毛や、筋肉や、シミや、視力や、食べる量や、睡眠や、精力…それこそ何もかも。
年をとるのはお互い様だけど、もしかしたら年下が年上に対して感じることの方が多いかもしれない…。
若くて美しい顔や筋肉質な身体は、僕にとってもいつまでも欲望の対象だし、この憧れは自分が80歳になっても変わることは無いと思う。
でも実は、つきあってきたからこそのギフトというか宝物のようなものがある。
相手が年をとっていくことと、一緒につきあってきた山あり谷ありの歳月は重なり、『月日の経ったことを感じる身体的な部分を見ても、それを愛おしく感じることが出来る』ことだ。
昔、僕がつきあった人のことを考えていたら、愛おしさまでもそっくり思い出してしまった。
一緒に生きて、月日を重ねてゆくことって、いいものですね。

違う世界。

昨日ここに上げたグラミー賞のパフォーマンスを、同じようにKにも送っていたのだけど、見るや否や返信が返って来た。
僕「大勢で結婚式あげてるんだよ。すごいよね!」
K「白いおばさん誰?」
僕「マドンナ!!!!!」
K「やっぱり!」
僕「・・・」
今の子はマドンナさえ知らないのか?と愕然とした。(とぼけているKはガガでさえ知っているかどうか怪しいものだけど)
つきあいはじめの頃、僕が家でワインを飲んでいると書くと、「ワインってほとんど飲んだことないです・・・」という返事が来た。大分で育ったKにとってみれば『酒=焼酎』だし、その前にビールを飲むことがあっても、ワインというのは結婚式とかでしか飲んだことはなかったみたい。
「生ハム」、「ブルーチーズ」、「スペイン料理」、「イタリアン」、「フレンチ」、「エスカルゴ」、「フォアグラ」、「スカンピ」、「懐石」、「割烹料理」、「回らない寿司屋」、「3D」、「IMAX」、「友人が家に来るパーティー」、「ゲイの友人たち」・・・なにもかもがKにとってはじめての体験だったのだと思う。
同じように僕にもそんな体験があるのだと思う。(『ラーメン』とか、『焼き肉』とかB級グルメ的な出会いばかりのような気もするのだけど・・・)笑
僕が他にKから学んだことは、『質素なくらしぶり』のようなものかもしれない。
お昼ご飯は、ご飯だけ自分で炊いたものを箱に詰めて、後は仕事場で総菜を買って食べるような生き方は、改めて僕の暮らし方を一から見直すことにもなった。
スーパーでレジ袋をもらうと5円払わなければならず、それがもったいないのでエコバッグが欲しいと言って東京で探したことがある。エコバッグって、探すと意外となくて、あっても2000円とかするとKには高すぎるようで、無印にさえなかった時には諦めて帰って行った・・・。
先日、スーパーの紀ノ国屋に寄った時にエコバッグを見つけた(2000円したのだけど)。地味なグレーのものをお土産に買って行ったら、満面の笑みを浮かべていた・・・
その笑顔は、「これでレジ袋のために5円を払わずにすむ!」という幸福感に満ちていた。