『ビル・カニンガム&ニューヨーク』『愛さえあれば』

ビル・カニンガム&ニューヨーク

愛さえあれば

★ビル・カニンガム&ニューヨークhttp://www.bcny.jp/
NYタイムズで、道ゆく人とファッションを長年追い続けた写真家のドキュメンタリー。
正直で、人間味に溢れる優しいビルは、人を仕事や有名無名によって判断することなく、お金に縛られることもなく自由に生きている。その姿は、清々しく、羨ましくもある。
信念を持ち、贅沢をせず、人生のすべてを仕事に捧げる生き方は、かっこいいと思うけど、「ゲイですか?」と突っ込まれても、ハッキリしないまま…
「恋愛などしている時間は無かった」と言い張るけど、昔、何がしかの恋愛はあったのだろう。そうでなかったら、あれほどまでに人に対する優しい視点を持つことや、人物だけを追い続けることなど、出来なかったのではないだろうか?
もしも、ニューヨークでビルに会ったら、抱きしめたくなるようなかわいいおじいさんだった。
★愛さえあればhttp://www.aisaeareba.jp/
イタリアの風景が出ているだけで、迷わずその映画を観たくなるから不思議だ。アカデミー外国語映画賞に輝いた、『未来を生きる君たちへ』の女性監督スサンネ・ビアが贈る、大人のラブコメ。
アマルフィ海岸の起点の町、ソレントで結婚式をあげることになった子どもたちの式に出席するべく、北欧からイタリアに行く二つの家族の話。
『未来を生きる君たちへ』にも出ていたトリーネ・ディアホルムというお母さん役の女性が素晴らしかった。そして、ピアース・ブロスナン。年をとってもファッションブランドのモデルのようだけど、やっぱりかっこいいなぁと思う。
予告だけでほとんどすべて分かってしまうような映画だけど、実は、女性にとって、とても繊細なテーマにのぞんでいたし、美しい景色とともに見応えがあった。
あれほど自分の好きなイタリアのアマルフィ海岸の景色を見せつけられると、「何もかも捨ててイタリアに行き、ワインやパスタを食べながらこのままずっとイタリアで暮らしたい…」と夢想してしまった。
いつかイタリアの田舎町に家を持ち、安穏と暮らすことができますように…。

イタリア映画祭最終日。

『来る日も来る日も』★★★★★
最終日に、一番好きな映画に出会った。監督は、パオロ・ヴィルズィ (Paolo Virzì)。『見わたす限り人生』など、イタリアではヒットメーカーのようだ。
学歴があり物静かで謙虚なグイドと、シチリアから出てきた本能のままに生きるミュージシャンのアントニアのラブストーリー。
二人は不妊で悩んでいるのだけど、色々な治療を試す内に、自分にとって、いったい何が一番たいせつなのかを知るという話。
傷ついた恋人たちを見ていると、自然に何度も涙が流れた。『ブルーバレンタイン』以来、久しぶりに美しいラブストーリーに出逢った気がする。
こういう映画を観ていていつも思うのは、自分は男で、妊娠も出来ないのに、不妊の女性の苦しみを見せられると、その胸の痛みを想像して苦しくなること。
人間の想像力って、本当に素晴らしいと思う。観終わって、せつなくてせつなくて、思わずKに会いたくてたまらなかった…
この映画が、日本で公開されることを、願うばかりだ。
それにしても、なんて美しい天気に恵まれたゴールデンウィークだったことか…。ゆっくりと日が暮れるのを眺めながら、ワインを飲んでいるだけで幸福だった。

イタリア映画祭。

素晴らしき存在

日常のはざま

フォンターナ広場 イタリアの陰謀

神宮外苑は、この時期特有の、ドングリの花の匂いに包まれている…(笑)。東京のゴールデンウイークは、晴天に恵まれているけど、僕はほとんど、映画館にこもっている…
〈イタリア映画祭〉
『ふたりの特別な一日 』
芸能界入りのコネを掴むために、遠い親戚の代議士に会う約束を取りつける女の子が、その日、なかなか会うことが出来ずに、運転手とローマの街で遊び始める。女性監督による作品は、脚本も展開も甘く、見るに耐えず、途中で出てしまった。笑
『素晴らしき存在』★★★★
役者志望の主人公が、ローマの古いアパートを借りることに。暮らし始めてみると、なんだか人の気配がして…。ウディ・アレンの映画のような映画にしか出来ないマジックを体験させてくれる。この監督、ゲイネタがいつも出てくるけど、もしかしたらゲイなのかもしれない…。イタリアらしいウィットに富んだ素晴らしい作品。イタリア・ゴールデングローブ賞で最優秀監督賞や最優秀男優賞などを受賞。
『日常のはざま』★
カメラワークがいいから観れるのだけど、この手のマフィアの抗争ものは苦手。イタリア映画の何本に一本は、こういう暴力映画がある。
『フォンターナ広場 イタリアの陰謀』★★★★
超ヘビー級イタリア映画。60年代末に、フォンターナ広場の銀行爆発事件を始め、様々な爆発事件が相次いだ。極左?極右?国?アメリカ?結局未だに真犯人は判明していない、歴史に翻弄された戦後のイタリアを描いた大作。
今回、イタリア映画祭は、10本の映画を鑑賞する(あと二本)けど、ほとんどの映画が、イタリアの今の経済や先行き不安を反映しているのか、とても行き詰まり感が強く、暗い映画が多い。コメディでさえも、下地は経済の停滞を反映している。
映画というものは、その時代のその国の状態を、コマーシャルなどよりも色濃く映しているのかもしれない。

桃(タオ)さんのしあわせ

飯田橋に、ギンレイホールhttp://www.ginreihall.com/という素晴らしい映画館がある。早稲田松竹と同じように、公開された名画を二本立てで観せてくれる。現在は、『別離』という、アカデミー賞外国語映画賞に輝いたイランの素晴らしい映画を併せて上映している。
60年間家で働いてくれた家政婦の桃(タオ)さんが、脳卒中で倒れてしまう。同居していた映画製作者の末っ子は、桃さんを、まるで自分の母親のように、面倒を見ることを決意するという香港の映画。
眈々とした老後の暮らしが、アジア情緒たっぷりで描かれる。家族とは何なのか?年をとり、身体も衰えて来た時にどのように生きるのか。そして、周りの者は、どのように生きるのか。ある程度の年齢になると、誰にでも避けては通れない問題を、実話を元に温かい映像によって作られた佳作。
★桃(タオ)さんのしあわせhttp://taosan.net/

17歳のエンディングノート

久しぶりのダコタ・ファニングが観れるというので、新宿武蔵野館へ。
原作は、『16歳。死ぬ前にしてみたいこと』英国の文学賞「ブランフォード・ボウズ賞」受賞のYA部門ベストセラー小説。
予告編ですべて内容が分かってしまうのだけど、思春期の少女が、白血病になり、余命宣告をされて、自分が死ぬまでにやりたいことをリストアップしてやってみるという話。
父親役のパディ・コンシダインが素晴らしかった。この人は、昨年公開された大好きな映画『思秋期』の監督でもある。内容も分かっていたので冷静にただ観ていたのだけど、彼の演技に、二回ほど泣いてしまった。
照明がわざとらしかったり、話が先が読めてしまうのが惜しいけど、自分が余命宣告されたら、いったいどのように生きて行くのだろうか?と想像させてくれただけでも、観に行ってよかったと思っている。
僕も、テッサのように、同じ時に、「あ、俺は今、生きているんだ…」と感じたことがある。
『生きているんだ…』と、最近感じていますか?
★17歳のエンディングノートhttp://17ending.com/news/?page_id=5

朝食、昼食、そして夕食

スペインには、巡礼の道の最後に、サンティアゴ・デ・コンポステーラという町がある。僕もいつか行ってみたいと思っている、ポルトガルの北に位置する聖ヤコブの町。その町で繰り広げられる、たった一日の話なのだけど、小さな町の様々な場所で、色々な人たちが食事をするシーンが紡ぎ出す群像劇。
何も知らずに、スペイン料理を見れるのだと思って観に行ったのだけど、最初は、ドキュメンタリーのように何気ない風景が、朝食があり、昼食があり、夕食へと展開して行くうちに、次第に、それぞれの人生のある重要なポイントのように見えて来て、それらがやがて重なり合い、交響曲のように響き始める。
監督が追求したのは、それぞれのシーンのリアリティなのだろう。一番驚いたのは、ゲイのカップルの話。弟がゲイなのだけど、ストレートのお兄さんに、カミングアウトしていないまま、お兄さんを新居の夕食に招くのだけど、もう、僕はドキドキしっぱなしだった。脚本がとてもよく出来ているし、役者の演技も素晴らしい。僕は思わずこの短い話の中で、涙が出てしまった。
表向きは円満に見える家庭、若い女と熟年男性のカップル、ゲイのカップル、老夫婦、繁盛しているレストランの姉妹、彼女のために毎食一生懸命食事を用意する男、朝から飲んでばかりいる男友達、町でギターを弾いて暮らしている男、ジプシーのような男・・・それぞれの人生が、食事をするという行為によって解放され、また次に繋がってゆく。
久しぶりに、よく出来た群像劇を観ることが出来た。それにしても、スペイン料理のなんと魅惑的なことか!来年辺り、久しぶりにヨーロッパに行けたらいいなあ。。。
★朝食、昼食、そして夕食 http://www.action-inc.co.jp/comidas/

イタリア映画祭2日目

天国は満席

それは息子だった

司令官とコウノトリ

美しい晴天の一日、朝からイタリア映画祭に行き、缶詰めで3本の映画を鑑賞した。笑
『天国は満席』★★★
いい年をした男三人が、それぞれお金に困り果て、やむなく共同生活をするというコメディ。ドタバタの日々が、イタリアらしいユーモアで溢れている。声を出して笑える映画。
『それは息子だった』★★★★
実際にシチリアで起きた悲劇を描いている。カメラワークが驚くほど巧みだ。ある家族に起こった事件が、どんどん予想の出来ない展開を見せ、やがて恐ろしい結末に。本来なら重過ぎる話が、監督の演出で素晴らしい作品に仕上がっている。おすすめの映画。
『司令官とコウノトリ』★
イタリアが陥っている経済危機に加えて、人間のモラルの低下などを扱った作品。水道管工事のお父さんと小学生の息子と年頃の娘の三人家族の話。
★イタリア映画祭 http://www.asahi.com/italia/2013/

心安らげる場所。

外苑の銀杏並木

ジュゼッペ・ピッチョーニ「赤鉛筆、青鉛筆」

少しのんびりとしたい朝には、歩いて5分くらいの銀杏並木に来る。
高校の頃、よく学校をさぼってここに来ると、同じような仲間に会えて、そのまま原宿に遊びに行ったりしていた。
ベンチに座って深呼吸をする。今の時期は、銀杏の新緑が美しい。何があろうとここへ来ると、束の間であれ、人生は美しいと感じることが出来る。
今日から、イタリア映画祭http://www.asahi.com/italia/2013/が始まった。昼から、大好きなジュゼッペ・ピッチョーニ監督の『赤鉛筆、青鉛筆』を観た。★★★
学校で起こる物語を集めた群像劇。人生とは、秩序と無秩序で成り立っていることを、様々な角度で浮かび上がらせていた。
これからのゴールデンウィーク、僕にとっては、イタリア映画祭ウィークであり、Tokyo Rainbow Weekhttp://www.tokyorainbowweek.jp/です。

孤独な天使たち

ベルナルド・ベルトルッチの10年ぶりの監督作というので、
期待と不安を胸に、シネスイッチへ。
14歳の繊細で引きこもりがちな少年が、スキー合宿をさぼって、
異母兄弟であるお姉さんとふたりだけで、
1週間せまい地下室で隠れて過ごすという青春映画。
映画自体、思春期の危うい官能をうまく表現していると思うし、
このお姉さん役の女優が不思議な美しさを秘めている。
10ccの『I’m not in love』で始まり、
デヴィッド・ボウイの曲でクライマックスを迎えるところも、
観ていてなんだか恥ずかしくなるくらい青春ど真ん中な作りだ。
それにしても、やはり気になるのは、
『暗殺の森』や『ラストタンゴインパリ』を撮ったベルトルッチが、
72歳になり、なぜこのような思春期の少年映画を撮ったのだろうか?
彼のインタビューを見ると、病気か事故か分からないけど、
いつの間にか車椅子生活になったことを知った。
<失意のからの新たな出発>ベルナルド・ベルトルッチ
自分が(病気のせいで)動けなくなったとき、映画監督としての日々は終わりを告げたと思った。もう映画を作らないという思いは、ひとつの章が幕を閉じ、別の章が幕を開けたことを意味する。だが私にはそれが何かわからなかった。自分が動き回るのに車椅子が必要だという事実を納得して受け入れるために、私は苦悶した。そして少しずつ自分の状態を受け入れる“方法”を学んでいった。だがその瞬間から、いつもとは違う位置から映画を撮ることは可能ではないかと思い始めた。立っているのではなく座ったままで、この映画を撮影した私は、また自分が走り出したことを、そして早急に次の映画を作るための準備ができていることを感じている。
72歳のベルトルッチが、3Dを試したり、新しいテクノロジーにも挑戦している。
次はどんな映画を我々に見せてくれるのか、楽しみだ。
★孤独な天使たち http://kodoku-tenshi.com/

リンカーン

スピルバーグだし、超大作だし、アメリカの歴史もよく理解出来ていないので躊躇したけど、主演男優賞を取り、作品賞にもノミネートされたので、今週末に行かなかったら、きっと一生観そうもないと思い観に行った。
何も知らずに観に行ったら、リンカーンの生涯ではなく、アメリカで、長い南北戦争が終わる頃、真の意味での奴隷制度廃止に持ち込むまでの28日間に焦点を当てて描かれた作品だった。
公平、平等、自由、正義を謳い、黒人奴隷の解放を摑むまでの話なのだけど、リンカーンの仕事を描きながら私生活の苦悩や葛藤にも重きを置いている。
本来ならば、人間誰もが法の下では『平等』であるはずなのだけれども、長い歴史の中で時間をかけて、黒人が『平等』の権利を勝ち取り、その次に女性が『平等』の権利を勝ち取り、今では、同性愛者が『平等』の権利を勝ち取ろうとしている。
150年前のアメリカの人たちは、その後、アメリカの大統領に、黒人が選出されるなど思いもよらないことだろう。
(同じように、同性愛者の結婚も、やがて世界中で認められて、そのうち映画が作られるのかもしれない。本当にこんな時代があったのか???と…)
★リンカーン http://www.foxmovies.jp/lincoln-movie/sp/#/home