愛しきもの。

修理に出していたデニム4本を、前にもここにあげた洋服の修理屋さん『縫い屋http://sokuza.com/shop/2445/』に取りに行った。
高校生の頃の僕は古着マニアで、6万円とかするGジャンを買ったりしていたのだけど、今の僕は、イタリアのブランド『JACOB COHEN』のJ620というデニムが気に入っている。
カジュアルにも、ジャケットを着たスタイルにもマッチするというのと、シルエットがなんともいいのだ。(これは、履いてみて、靴と合わせてみたらわかると思う)
そして大切なことは、気にすることなくガンガン履いて、ガンガン洗濯する。「デニムは洗わないし、洗っても陰干し」などという人がいるけど、デニムはガンガン履いて、ガンガン晴天に干して、色落ちして履き潰すものだと僕は思っている。
なぜなら、洗濯したてのゴワッとしたデニムに脚を通して履くことは、一つの悦びであるから。デニムは自分のはき心地が全てであって、綺麗な状態を保ちながら、誰かに見せるための服ではない。
写真のパンツも、もう何年履いたかわからないのだけど、お尻の部分や脚の部分が磨り減り、何度も修理を重ねて履いている。
出来上がりまでに一週間かかるのだけど、取りに行く時はいつも、まるで新しい服を取りに行くように胸が高鳴る。
一ヶ所修理をすると千円くらいするし、それを足すと2〜3千円することもあるのだけど、この身体に馴染んで色落ちしたデニムを、僕はことさら愛おしいと思う。

ボタンダウンのシャツ。

僕の定番のシャツは、白のボタンダウン。オックスフォード素材のシャツは着心地がよく、オンオフを問わない。
僕が高校生の頃から人気のあるのは、ブルックス・ブラザーズだったけど、今でも身幅が広く僕の身体にはフィットしづらい。
最近僕が気に入って着ているのは、『district』の『Ji:』というブランドのもの。身幅が適度に狭く丈も短めで、出しても入れても程がよい。
袖丈も含めて、あまりにも自分の身体にピッタリフィットするので驚くのだけど、これが『UNITED ARROWS』のどの店にもあるわけではなく、原宿のキャットストリートの『district』でしか置いてないようだ。
秋のちょっと涼しい風を感じながら、洗いたてのオックスフォードのシャツを着て町を歩くと、まるでウディ・アレンの古い映画に出てきそうな気分になれるのは僕だけだろうか。

生姜焼き。

夜、疲れて帰って来た時に、冷凍庫に薄切りの肉があるとありがたい。薄切りの肉は、解凍にも時間がかからないからだ。(僕の家には電子レンジがない。電子レンジは食べ物の組織を変えて、おいしくなくする機械です)
豚肉があったら、さっぱりとしゃぶしゃぶにするか、生姜焼きだろう。生姜焼きは、お客さんが食べたいと言うときは、片栗粉を軽くはたいてからフライパンで焼いて、その後にタレを入れて絡めることが多いのだけど、片栗粉入りの生姜焼きは、若干重たく感じられるので、僕は自分で作るときは、もっぱらタレに浸けてから焼くことにしている。
★生姜焼き
<材料>
豚肉300グラム
生姜1かけをする
醤油大さじ2
みりん小さじ2
酒小さじ2
<作り方>
1.豚肉を、醤油、みりん、酒、生姜を混ぜた液に浸し10分。
2.フライパンを温めてオイルをしいたら、汁を切りながら豚肉を焼く。ピンク色になったら裏返す。
3.裏もピンク色になったら、余った液を入れて素早く全体に絡める。
4.お皿に盛りつけて、好きな野菜を添える。
※醤油に浸けてから焼く肉は、とても焦げ付きやすいので、素早く焼いてフィニッシュに向かうこと。甘めが好きな人は、酒の分量もみりんにするとよい。

Aesop

ハンドソープは、長いことAesopを使っている。
実は、ハンドソープだけではなくて、洗顔ソープも、保湿クリームも、シャンプーも、リンスも、ボディソープも、ハンドクリームも、ボディクリームもイソップだ。イソップマニアと言ってもいいくらい。
オーストラリアのメルボルンで1987年に誕生した自然派化粧品のイソップには、20年くらい前にバーニーズで出会ったのだけど、その当時、東京でもバーニーズしか置いていなくて、オーストラリアに出張するたびに、現地でたくさん買って帰ってきていたものだ。
イソップの商品の何がそんなに僕にとっていいのかというと、『香り』だと思う。
手を洗うたびに香るその清々しい香り。顔を洗う時に香るハーブのような香り。髪を洗う時に香る大人っぽい香り。身体を洗う時に香るゼラニウムやバラの香り。そのどれもが、日本の洗剤にはないナチュラルな香りなのだ。
イソップは高額な石けんだと言われることもあるけど、毎日、身体を洗い、髪を洗い、手を洗い、そのたびに素敵な香りに触れることは、日々、荒れたり、ささくれ立ったり、へこんだりする心への、ちょっとしたご褒美のようなものだ。

何気ない日常の風景。

誰かとつきあっていると、何気ない日常の風景にその人を感じることがある。時々そんな風景を思い出して、温かい気持ちになるものだ。
Kは病院で検査技師をしているので、濡れたままになったものなどは細菌の温床だと言って我慢出来ないようだ。だから、洗面所やお風呂のものは、すべて不思議な感じで上に浮いている。
コンタクトケースやコンタクトの洗浄液が入ったボトルは、下にキッチンペーパーが綺麗に折りたたまれて敷いてある。ハンドソープはS字型のフックに吊るされているし、シャンプーやリンスは金属の脚のついたものの上に置かれている。
Kは、僕と違って堅実で無駄遣いをしないので、頂き物のタオルを大切に使っている。
それも、擦り切れるくらいに使い込まれていて、そんなタオルが綺麗に折りたたまれているところを思い出すとせつなくなる。
洗濯物は、痛むことを気にして丁寧にネットに入れるし、すべて裏返して綺麗に干してある。
お風呂から上がる時に、バスタオルで身体をざっと拭いて上がろうとする僕に、脚の裏まで拭くように怒って、風呂のドアをピシャリと閉めてしまう。僕は身体を拭きながら、宙に浮いたシャンプーなどを見ている。
僕がKの家の風景を色々と思い出すのは、もしかしたら離れて暮らしているからかもしれない。
Kの洗面所には、二人で宮崎の海で買った綺麗な巻き貝がちょっこり置いてあって、その貝を見るたびに、宮崎の海での楽しかった旅を思い出す。
僕の家の洗面所にも、同じ巻き貝が置いてあって、その巻き貝を見ると、Kも同じようにこの貝を見ているだろうかと考える。

物語る私たち

映画好きの友人Bridgeのママ(ブリママ)が今年のベスト映画だと前からすすめていた『物語る私たち』は、とても緻密に作られたドキュメンタリー映画だった。
監督自身の母親と、その周りの家族や友人たちにカメラを向けて、自分や家族の秘密や嘘、真実を暴いてゆく…。素晴らしい家族のドキュメンタリーなので、ここでは敢えて内容には触れることはしない。
平凡に見える家族にも、様々な物語があるものだろう。
どんな事実も、家族のそれぞれの視点によって、捉え方が変わっていて、真実など一つではないということがこの映画を見れば分かる。
自分が一番知っていると思っている家族でさえ、自分には知らない面や生きてきた過去があって、そんな何もかもを受け入れられなかったとしても、それでもそんな家族を愛したくなる人間の叡智と温かい愛情に満ちた映画。
★物語る私たちhttp://monogataru-movie.com

イヴ・サンローラン

イヴ・サンローランは、もしかしたら若い人には古臭いデザイナーだと誤解されているかもしれないが、イヴ・サンローランは、ファッションの世界において、数々の斬新なデザインでこれからも語り継がれるであろう天才デザイナーだ。
イヴは、クリスチャン・ディオールに見初められて、ディオールが亡くなった後のメゾンを21歳にして任されることになる。
アルジェリア系フランス人の血を引くイヴは、フランスや祖国の戦争に翻弄されながらも、華やかな注目を浴びる。
しかし、イヴ自身は限りなく繊細な性格で、デザイン以外まともに生きる術さえ知らない男だった。
やがてデザイン以外、すべてのことを委ねることの出来る生涯の恋人ピエールに出逢い、一生ピエールはイヴを守って生きてゆくことを違う…。
今回、伝記的映画かと思って観に行ったら、これはイヴ・サンローランと、彼を生涯に渡って支え続けたピエール・ベルジェの純粋なるラブストーリーだった。
繊細さゆえに過去のトラウマに囚われ続け精神病院に入りどん底にある時も、ピエールは逃げることなくイヴを支え続ける。
そしてイヴは、ピエールを生涯の伴侶と知りながらも、酒や薬や欲望に溺れてゆく…。
完全に愛されていると知りながらも、イヴはなぜ、新しい欲望を求め、奈落の底に堕ちてゆくのだろう…
この映画は、イヴ役の25歳の俳優ピエール・ニネが素晴らしい。繊細で狂気を孕んだイヴ・サンローランを見事に演じきっている。
ピエール役のギョーム・ガリエンヌも彼以外には考えられないキャスティングだろう。
あなたは、イヴ・サンローランと、ピエール・ベルジェのどちらに共感するだろうか?
僕は、イヴだった。笑
★イヴ・サンローランhttp://ysl-movie.jp

身体のメンテナンス。

月に一回くらいの頻度で、身体のメンテナンスをしている。
僕の通うジムには、ボディケア専門のスタッフがいるので、いつも同じ人にお願いして身体をチェックしてもらうのだ。
夏の間、冷房に当たりすぎていてあまりよく眠れなかったこともあり、左肩が強張り、腰も少し痛くなりそうな気配を感じていた。
いつも僕の身体を知っている先生は、すぐに不調に気づいてくれる。腰の痛みは、腿の裏側の強張りから来ている。腿を柔らかく伸ばしてあげると、腰まで伸びてゆく筋肉が緩められ、腰への負担が軽くなる。
問題の左肩は、いつものことなのだけど、重さを上げようとして、フォームが崩れたのが原因だ。身体は、一度感じた痛みを感じまいとして、周りの筋肉を総動員して強張る。
これも、広背筋や胸の筋肉の付け根をほぐすことによって、肩の痛みがぐっと緩和されてゆくから不思議だ。
こんな風に身体の痛みは、大抵不調を感じているその場所ではなくて、そこから少し離れた場所に原因があることがほとんどだ。
ゆっくりと身体中をほぐされたら、そのあと、あまりにも眠くて眠くて、映画を観た後に飲みに行く気も起きず家に帰ってきて、シャワーを浴びて死んだように眠った。
酒も飲まずに、途中で起きることもなくあんなに寝たのは、今年はじめての経験だった。

大塚隆史 レトロスペクティブ

『irodori』を含む『MoCA』で始まったタックスノットのマスターであるタックの個展の開催期間が、いよいよ残すところ1週間になった。
前にもここに上げたように、タックは僕の多摩美術大学の先輩であり、昔から娘のように可愛がってもらって来たお母さんのような人。
タックの著作に、『二人で生きる技術』という本があり、人とつきあってゆくことの難しさと歓びを書いているのだけど、この本も何度読んでも読み応えがあり重刷を重ねている。
今回は、6週間という長い会期だったので、前半後半と作品が入れ替わったものもあり、見応えのある展示になっている。
平面から、半立体、立体、舞台、写真、本まで、その活動の幅はとても広いのだけど、ゲイであることを意識し、それを肯定的に捉えていることは、彼の作品にも現れているし、生き方の隅々にまで及んでいる。
随分昔の作品から、最近の絵画に至るまで、細かいレリーフにまでこだわったタックの不思議な作品を前に佇み、何を表現しようとしているのか、ぼんやり考えてみるのも面白いかもしれない。
というのも、どの作品にも、タックの計算された企みが隠されているからだ。
会期中、かなりの割合で、タックが座っているので、気軽に話しかけてみるといいと思う。
自分では気づかなかった作品の考えなど、教えてくれるかもしれない。
★大塚隆史 レトロスペクティブhttps://www.facebook.com/events/1451739858424283/?ref_newsfeed_story_type=regular

外苑の森。

僕はこの外苑前で高校時代を過ごしたのだけど、遅刻をして学校に行きづらい時には、銀杏並木に行くと同じように遅刻をした仲間たちがいて、そのまま一日中外苑や青山、原宿で過ごしたりしたものだ。
スポーツ施設を中心に緑が溢れ、春は桜や藤やなんじゃもんじゃの木が咲き乱れ、夏には蝉が集い、秋にはイチョウやもみじの紅葉でそこらじゅう染まるように、この神宮外苑は四季のうつろいをつぶさに感じさせてくれる。
美しく晴れた夕刻に、初秋の風を感じながら、久しぶりに信濃町から絵画館前をゆっくり歩いて家に帰ったのだけど、世界があまりにも美しく感じられて胸がいっぱいになった。
ジョギングをしている人もいれば、サイクリングを楽しむ人もいる。子どもたちは草野球をしていて、老夫婦はベンチでおしゃべりをしている。短距離の練習をしている高校生の表情は真剣そのもので、ダンスを練習している高校生もいる。それは、僕の高校の頃と変わらない風景であり、この神宮外苑という都内でも稀な広大な緑が残されている場所だからだろう。
神宮前の猥雑な界隈も含みながら、外苑の森はこの町に静けさをもたらし、美しい空気を守り、木々を育て、日陰を作り、虫を住まわせ、鳥を呼び、人を和ませてくれる。
僕が、この町を東京の中で最も愛し、この町から離れられずにいるのは、この外苑の森があるからだろう。