ペイン・アンド・グローリー


ペドロ・アルモドバルの新作、『ペイン・アンド・グローリー』は、スペインの巨匠が、自分の生い立ちから監督としての成功、そしてその後を表現した素晴らしい作品だった。

大人になってからの監督役を、アントニオ・バンデラス。そのお母さん役を、ペネロペ・クルス。

タイトルにある通り、これは過去に取り残されてそのままになっている痛みや赦せない出来事というのが一つの大きなテーマであり、監督として世界的な成功や名声を手にした後も、アルモドバルが苦しみや悩み、痛みを抱えて生きて来たことがわかる。

この映画は70歳の巨匠が、自分の人生を省みて、貧しかった生い立ちや母との関係、性の芽生え、成長、そして成功、後悔、許しなど、自分自身の人生を表そうとした作品。

深く、しみじみと愛おしい。

⭐️ペイン・アンド・グローリーhttps://pain-and-glory.jp

ストーリー・オブ・マイ・ライフ わたしの若草物語

先週末は、東京都の自粛要請が解除されてはじめて、劇場に映画を見に行くことができた。前回観た映画は、3月14日だったので、もう3ヶ月も映画館から遠ざかっていたのだ。

『ストーリー・オブ・マイ・ライフ わたしの若草物語』は、何も期待しないで観に行ったのに、見ている間中とても楽しく、見終わって幸福な気持ちになった映画。

シアーシャ・ローナン、エマ・ワトソン、ティモシー・シャラメ、ローラ・ダーン、メリル・ストリープ・・・なんて豪華な俳優陣だろう。そして脚色と監督は、レディ・バードのグレタ・ガーウィグ。

19世期に書かれたルイーザ・メイ・オルコットの原作は、その当時、女性が小説を書くなんて誰も信じなかったような時代。女性は男性と結婚することによってしか、幸せにはなれないと信じられていたような時代。

長女のエマ・ワトソンは、女優を夢見ている。次女のシアーシャ・ローナンは、一家の大黒柱のような女の子で、意思が強く、物語を描くことに没頭している。三女は、将来的世界的な絵描きになりたいと思っている。四女は、ピアノに優れ、優しく思いやりのある性格。

裕福ではないものの、4人姉妹と両親が寄り添って暮らす温かな家族のありように、現代に生きる僕たちも何故だかほっとさせられる。4人姉妹のそれぞれのキャラクターが生き生きと描かれており、やさしく聡明な母親の生き方も彼女達に影響を与えている。

主人公のジョーをはじめ少女たちは、成長していく過程で、常に選択肢の前で迷い続けている。

たとえば、お金を取るか、愛を取るか。

彼女たちの迷いは、何百年かたった僕たちの人生においても、同じように目の前に立ち上がってくる。

グレタ・ガーウィグによる、新しい解釈の若草物語。ぜひ、劇場で楽しんで欲しい作品。

⭐️ ストーリー・オブ・マイ・ライフ わたしの若草物語https://www.storyofmylife.jp/sp/

先に愛した人

台湾のゲイ映画『先に愛した人』は、台湾の湿度と雑踏に包まれた、素敵な映画だった。

一人の男性が亡くなり、その奥さんが中学生の息子を連れて若い男のアパートを訪ねるところからお話がはじまる。

死んだ男は、その若い男と付き合っていたようで、その保険金の受取人が、息子ではなく若い男に書き換えられていたというのだった。

そこから話は、息子の視点で語られていく。

お父さんがゲイで、若い男と駆け落ちして帰らなくなった上に死んでしまう・・・そこへ奥さんが出てきてがなりたてる・・・日本のゲイ映画で、こんな映画があっただろうか?

台湾のゲイシーンが、日本よりも遥かに進んでいるように、台湾のゲイ映画も、日本のゲイ映画よりもずっと進んでいると思った。

アジアの情念的な、演歌的な、ちょっと作りすぎなところもあるけど、映像を見ながら切なくて涙が頬をつたった。

⭐️先に愛した人https://www.netflix.com/jp/title/81045891

アイ・アム・マイケル


マイケル・グラッツェというアメリカのLGBTアクティビストの実話に基づいた映画ということで、Kと二人楽しみに観たのだけど、まず感想から言って、辛くなるばかりの酷い映画だった。

このブログでは、基本的に好きな映画のことしか書かないようにしているのだけど、今回に限り酷い映画であるが書き留めて置こうと思う。

ジェームズ・フランコ扮するマイケルは、その昔一世風靡したアメリカのゲイマガジンXYマガジンの編集に携わり、SNS上でも影響力のある存在になっている。

マイケルには年上で安定しているパートナーがいて、彼との関係を続けていくために3Pなどもやりながら暮らしている。

保守的な環境であったり、宗教上周りから拒絶されている若者や、いじめや差別、自傷行為や自殺問題などを考えているうちに、自らの育った環境や、亡くなった両親との関係が揺らぎはじめる。

パニック障害になり自分の死を意識しはじめた時に聖書に出会い、自分自身の性的指向をだんだんと拒絶しはじめ、キリスト教徒隣、異性愛者に改心しようとするという話。

今まで周りにいた全ての関係性を絶って、自分の性的指向を変えようともがく姿がとても可哀想に思えた。

この映画が教えてくれることは、性的指向は、やはり自分の意志では変えることができなかったのだということと、恐ろしいまでのホモ・フォビアだ。

これほどのアクティビストでさえも、自からの性的指向を受け入れることは難しいものなのだ。

⭐️アイ・アム・マイケルhttps://www.netflix.com/jp/title/80161640

アーミステッド・モーピン 小説家の知られざる物語


このところ、映画館にもずっと行けていないので、家でNetflixやamazon primeでテレビドラマや映画を観るのが楽しみになっている。

どういうわけか、ゲイやLGBTQに関係するものばかり見たいと思うもので、つくづく自分がゲイ1000%だなあと思うのだ。

アーミステッド・モーピンは、アメリカのとても有名な小説家のようで、残念ながら僕は彼の小説を読んだことがないのだけど、このドキュメンタリーはとても見応えのあるものだった。

アーミステッド・モーピンは、由緒あるとても保守的な家で生まれ育ったため、自分の性的指向を自覚しながらも、いつまでも周りに言い出すことができずにいた。

彼の育った生い立ちや、LGBTQに風当たりの強い時代背景を見ていると、今よりもずっと生きづらい時代であったことがわかる。そしてそんな中で、自ら少しずつ性的指向を認め、周りにも少しずつ認められていく過程を、まるで自分のことのように見守ってしまった。

静かだが、心に残る素晴らしいドキュメンタリー。

⭐️アーミステッド・モーピン小説家の知られざる物語https://www.netflix.com/jp/title/80182949

シークレット・ラブ 65年後のカミングアウト


Netflixオリジナルのドキュメンタリー作品『シークレット・ラブ 65年後のカミングアウト』は、65年間家族のように暮らしながら、親戚や周りにカミングアウトできずに生きてきた二人のレズビアンカップルのお話。レズビアンの話だけど、ゲイである僕も完全に感情移入できた素晴らしい作品。

1940、50、60、70、80、90年代、アメリカではまだまだ同性愛ということを公表するなどあり得ないことだったようで、周りには自分たちは家賃がやすくなるからとか、実は親戚なのだと言いながら、ずっと二人の関係をひた隠しにしながら生きてきたテリーとパット。

二人は、次第に年をとり、テリーの病変が見つかったこともあり、娘のように育ててきた姪にカミングアウトすることに。そしてそこから、二人の生活は少しずつ変わっていく。

もしも今までに、『愛』なんて見たこともないし、聞いたこともないと思っている人がいたら、このドキュメンタリーを見ることをお勧めする。

ここに描かれているのは、紛れもない『愛』だ。

二人が自分たちのことをひた隠しにしながら生きていることを知る手紙が出てくるのだけど、ここで僕はたまらなく泣いてしまった。

若い頃のはち切れそうな二人の映像や写真が、彼女たちの人生がいかに輝いていたかを雄弁に物語っているが、年老いてゆくふたりの生き様も美しい。

あっぱれ。ライアン・マーフィー。

⭐️シークレット・ラブ 65年後のカミングアウトhttps://www.netflix.com/jp/title/80209024

ジェンダー・マリアージュ

先日ここに書いたように、アメリカの同性婚に関する映画『ジェンダー・マリアージュ』のオンライン上映会が、marriage for all japan によって行われた。

これは、東京レインボープライドのプライド週間において、当初アメリカから原告のゲストをお招きして上映会をする予定だったもので、新型コロナの影響で中止になるかと思っていたのだが、ZOOMを使っての上映会になった。

ZOOmで300人近い人数が見ていて、サーバがおかしくならないのか?など心配はしていたが、最後までなんとか上映できた。画面の解像度がzoomのせいなのか、実際の映画よりも荒れて劣って見えたことと、映画の上映している間中、下に時間経過のバーが出ていたことが今後の課題だろう。

『ジェンダー・マリアージュ』という謎の邦題がどこからきたのかわからないけれども、これは、『AGAINST 8』という原題で、カリフォルニア州で同性婚を認めないという8号の法案に関して、抗った実際の原告と弁護士たちのドキュメンタリー映画。

僕はこの映画を、3回以上見ているのだけど、原告の不安な気持ちや、社会にはびこるホモ・フォビア、罵声を浴びせる人々の存在を知ると、ちょっと恐ろしくなるの。

それでいて、原告たちがまっすぐに法廷に立ち向かっていく姿を見ながら、同じように国を相手取り東京で戦っている僕たちは何度も励まされ勇気をもらった。

映画の最後に、カリフォルニア州の役所に行き、その場で簡易的な結婚式を挙げるカップルが何組も出るのだけど、そんな姿を見ながら、いつか僕たちも渋谷区の区役所で、同じように結婚届を出して、みんなの前でキスをすることができたらいいなあと改めて思ったのだった。

一緒に鑑賞していただいた皆さま、ありがとうございました。

アップリンクのオンライン映画。

新宿二丁目にある僕の行きつけのお店『Bridge』には、映画好きが集まっていて、さまざまな新しい情報や意見交換がされている。

その中で話題になっていたのは、渋谷のアップリンクがオンライン映画をはじめていて、60作品見放題で2980円というのだ。

コロナ騒動でこの週末は映画館も閉鎖され、僕もスーパーでの買い物以外はほとんど家の中で過ごす羽目になったのだけど、家でオンラインで映画を見ることにした。

グザヴィエ・ドラン監督の『わたしはロランス』、『氷上の王ジョン・カリー』など、ここの映画館でやっていた映画を僕もかなり見ているのだけど、ドキュメンタリーなんかは見ていないものも多く、Kが前々からスペインに行きたいと言っていたのを思い出して、まずは『サグラダ・ファミリア』のドキュメンタリーを。

アントニオ・ガウディがどうして選ばれたのか、自然の中にある造形を模していくことへのこだわり、生きている間には完成できないとわかった時に、ガウディがとった行動など、なかなか興味深く、日本人の石工がいるのにも驚かされた。

いつものリビングにある大きなソファーで2人で毛布にくるまって見ていたら、いつの間にかふたりとも深い眠りに落ちていったのだった。

⭐️アップリンククラウドhttps://www.uplink.co.jp/cloud/features/2311/

ビッグ・リトル・ファーム 理想の暮らしの作り方


奇跡のようなドキュメンタリー映画が、世界には時々あるものだ。『ビッグ・リトル・ファーム』は、まさに奇跡のような映画で、「こんなことって、本当に起こるんだ?!」って、ちょっと信じられないようなストーリー展開に、すっかり飲み込まれていった作品。

ジョンは、カリフォルニアのサンタモニカでテレビ番組を作っている。モリーはネットでナチュラルな食材にこだわったお料理をアップしながら暮らしていた。

その二人の人生が大きく全く違う方向に転がっていったのは、ジョンが仕事で偶然取材した捨てられた犬たちを殺処分する場所。そこで黒くて愛くるしいトッドという犬に出会い、一緒に暮らすことになった。

しかし、そのトッドが夫婦が不在の時に、8時間でも鳴き続けるようで、結局アパートを追い出される羽目になってしまう。でもその出来事こそが、二人にとって、新しい人生をスタートさせるための贈り物だったのだ。

200エーカーの土地を手に入れた二人は、師匠や仲間たちに支えながら、本来作り上げたかった大自然の多様性が成し遂げる、循環型農場のい実現に向けて日々奮闘することになる。

8年間をゆっくりと丁寧に追った彼らの毎日には、自然に対する驚きと、不思議が余すところなく現れてくる。

僕のような東京で暮らす人間であっても、大きな宇宙の中の小さな星で生きている、ほんの小さな存在でしかないのだと気づかせてくれる。

大自然の中で、宇宙の真理に導かれていくように暮らしている彼らの毎日を、とても羨ましいという気持ちで見守った。

できるなら、この映画がずっと終わらずに続いてくれたらいいのに・・・と思いながら幸せな時間を過ごしたのだった。

⭐️ビッグ・リトル・ファームhttp://synca.jp/biglittle/

ジュディ 虹の彼方に

日本での公開前から主役のレニー・ゼルウィガーの演技が評判になっていたけど、見事にゴールデングローブ賞もアカデミー賞も受賞した。

楽しみに見に行った『ジュディ 虹の彼方へ』は、全盛期のジュディ・ガーランドではなく、晩年のジュディにスポットライトを当てている。ところどころで幼少期の話が挟まれ、彼女の人生全体をとてもわかりやすく浮かび上がらせている。

 

ジュディ・ガーランドといえば、アメリカでは言わずと知れた、比類なきゲイアイコン。ジュディが映画『オズの魔法使』(1939)で演じた少女ドロシーにちなんで、ゲイは自分たちのことをしばしばフレンズ・オブ・ドロシーと呼んだそうだ。

ジュディ・ガーランドがなぜそれほどまでにゲイやLGBTQに指示されるのか、僕も詳しくは知らないし、日本ではほとんど知られていないことだと思う。

実際のジュディのお父さんがゲイであったり、2番めのヴィンセントミネリがゲイであったり。4番めのマークヘロンもゲイであったり、それにも増してショウビジネスの世界でゲイに囲まれていたからとも言われている。

また、『オズの魔法使い』の世界が、昨年のMETガラで話題になったテーマ『CAMP(華美で楽しく不自然なくらい作り込まれた世界)』を作り上げていて、この世界観が多くのゲイに共感されたとも言われている。

レインボーフラッグはこの歌にちなんで作られた訳ではないようだけど、レインボーフラッグ以前に『虹の彼方に』はあったわけで、ゲイやLGBTQの人々は、まだ差別やヘイトクライムが続く時代に、この歌に身を寄せるように生きていたのだと思う。

 

レニー・ゼルウィガーってわからないほど、圧巻のステージと歌声で魅了された。映画を見終わって、昔見た『オズの魔法使い』を、もう一度Kと一緒に見てみたいと思った。

⭐️ジュディ 虹の彼方にhttps://gaga.ne.jp/judy/