祈りのもとで 脱同性愛運動がもたらしたもの

友人のAさんが見たと言って教えてくれた映画「祈りのもとで」は、90年代から現在に至るまでアメリカ国内において同性愛を矯正しようとした団体「EXODUS」に関わった指導者や関係者を中心に追ったドキュメンタリーだった。

AIDSが猛威を振るっていた時代のアメリカでは、同性愛は罪悪であるため矯正しようとする団体が存在した。

キリスト教の強い信念により自分のセクシュアリティも改心できると信じ込み、実際にゲイとビアンのカップルが改心して夫婦となる。やがて二人は指導者となり次々にメディアに取り上げられゲイやビアンは治るということを世間に吹聴して行った。

彼らのような指導者をはじめ、医師や研究者なども加わり団体は次第に巨大化していく。この映画は当時の記録とその後の彼らの人生を丁寧に追ったドキュメンタリー。

キリスト教を信じる者の多いアメリカにおいて、同性婚がたとえ国で認められたたとしても「同性愛は罪悪である」という考えを持ち続けている人は多く存在しているようだ。そんな信心深い家庭で育った同性愛の子どもたちは、恐ろしいほどの罪悪感に苦しめられることだろうと思う。

「性的指向を変えることはできるのだ」という宣言のもと、巨大化していった団体の成れの果てがしっかりと描かれている。

⭐️祈りのもとで(脱同性愛運動がもたらしたもの)https://www.netflix.com/jp/title/81040370

イン・ザ・ハイツ

ニューヨークのブロードウェイで観たミュージカル「イン・ザ・ハイツ」が映画になって公開されるというので、Kと二人静岡まで見に行った。

ミュージカル映画というと、近年見応えのある作品が連発しているけど、この「イン・ザ・ハイツ」、その中でも突出していると言っていいくらい素晴らしい作品だった。

ニューヨークの168丁目近辺にあるイン・ザ・ハイツという中米の人々の多く暮らす地区のお話。

主人公を中心に一人一人の物語が丁寧に展開されていき、最後にはオーケストラのようにそれぞれの物語が厚みを持って広がっていく。

圧巻のオープニングから引き込まれ、全体を通して映画を見たというよりも、音楽の中で物語にどっぷり浸かったような体験だった。これこそミュージカル!

⭐️イン・ザ・ハイツhttps://wwws.warnerbros.co.jp/intheheights-movie.jp/

スーパーノヴァ

ずっと見ようかどうしようか迷っていた映画「スーパーノヴァ」をやっと見ることができた。

「スーパーノヴァ」とは、超新星という意味らしい。

ピアニストのサムを演じるのは、「シングルマン」のコリン・ファース。恋人役の作家タスカーを演じるのは「プラダを着た悪魔」に出ていたスタンリー・トゥッチ。

この映画を見ながら、僕は一人で何度もむせび泣いた。

長い間連れ添って来た二人に忍び寄る不吉な予兆に震え、これからの未来をどうやって二人は生きてゆくのかと我がことのように震えながら見守った。

愛しているがゆえに人生において難局を迎えている二人が愛おしかった。

今年一番心動かされた素晴らしい作品。

⭐️スーパーノヴァhttps://gaga.ne.jp/supernova/

世界に嫌われる男 ピーター・タッチェル

新宿2丁目のBridgeのマスターMが勧めてくれたドキュメンタリー映画「世界に嫌われる男 ピーター・タッチェル」は、こんな人いたんだ・・・と思うような、命がけの活動をし続けているアクティビストだった。

オーストラリアの労働者階級に生まれたピーターは、やがて自分のセクシュアリティに目覚め、渡英する。

ほどなく同性愛者の人権問題で立ち上がり、キリスト教に真っ向から反旗を翻したり、やがてウガンダの人権侵害に抗議、ロシアのW杯に赴きLGBT差別を国としてあげるロシアに対して平等と公平を求めて闘い続けるようなアクティビストになってゆく。

映像の中では様々な場面でピーターが暴力を振るわれる映像が出てくるのだけど、実際にこれらの暴力によりピーターは後遺症を患ってしまう。そしてそんなになってまで、貫こうとする正義感と勇気に圧倒された。

我々を助けるために、日本にも来てくれないかな・・・。

⭐️https://www.netflix.com/jp/title/81422831

フランクおじさん

新宿二丁目のBridgeのMが、「とてもよかった」というのでAmazonで見た映画「フランクおじさん」は、せつなくもリアルなゲイを描いた映画だった。

サウスカロライナ州の田舎町で過ごす大家族は、お爺さんお婆さんとお父さんお母さん、そして兄弟姉妹で暮らしている。

家族の大切な誕生日パーティーなどの時だけ、お父さんの兄であるフランクおじさんが帰ってきて大家族で過ごす。

ニューヨークで教授をしているフランクおじさんを、主人公のベスは大好きなのだけど、家族の中では少し浮いているようにも見える…

ニューヨークとそれ以外の田舎町との違いを浮かび上がらせる。それは、ニューヨークの多様性や寛容さに対して、田舎町の保守性や異質なものに対する不寛容さであったりする。

幼い頃に自分がゲイであるということに気づいたフランクおじさんの人生が浮かび上がり、涙が頬をつたった。

脚本もよく出来ているし、何より俳優たちが一人ひとり素晴らしい演技だ。

君の心に刻んだ名前

台湾のLGBTQ映画で、台湾史上最高の観客動員数を誇ったという映画「君の心に刻んだ名前」を、ネットフリックスで観た。

せつなく、胸が痛くなるような素晴らしい青春映画だったのでここではストーリーに触れないけれども、多感な高校生が自分の同性愛に気づいてゆく中での葛藤や純粋な恋心を見事に表現した作品だった。

この映画を見て、自分の高校の頃のことを懐かしく思い出した。体操部の先輩が好きだったり、サッカー部の先輩が好きだったりしたけど、決して誰にも言うことはできずに自分を押し殺して生きていた高校時代。

もう一度生まれ変わるとしたら、ゲイとしては生まれて来たくないとずっと思っていたけど、不思議なことに今となっては、もう一度ゲイで生まれて来てもいいかもしれないと思っている。

自分のセクシュアリティのことを、人に言えずに苦しんだ青春時代でさえも、今となってみればそれはそれで人とは違った愉しみもあったように思うのだ。もう一度青春時代をゲイとして生きるのも悪くないと思える。この映画を見てそんなことを考えた。

⭐️君の心に刻んだ名前https://www.netflix.com/jp/title/81287844

フェアウェル

オークワフィナは「クレイジー・リッチ」でぶっ飛んだ友達役をやって印象に残っていた女優。この映画によってアジア系で初めて、ゴールデングローブ賞の主演女優賞を獲得した。

制作は、このところヒットを飛ばしまくっているスタジオ「A24」。わずか4館の上映から始まり、それが全米トップ10入りするまでに拡大したという話題作。

オークワフィナ演じるビリーは、NYで暮らす中国系移民。親戚や祖母は中国で暮らしており、大好きだった祖母に癌が見つかり、余命わずかだという宣告を祖母本人には知らせずに、家族が祖母にとって幸せな時間を過ごさせてあげようと画策する。

この映画の興味深い点は、全て白昼の元にさらけ出して、本人に余命を伝えることを良しとする欧米の考え方と、本人には知らせずに、気遣いながら楽しい時間を過ごさせてあげようとする、どちらかというと家族の思いを優先するアジア的な考え方を対比させながら、観ている我々に考えさせるところ。

笑いながら、じっくりと考えさせられた素晴らしい作品だった。

⭐️フェアウェルhttp://farewell-movie.com

TENET

「ダークナイト」「インセプション」「ダンケルク」と、大作を次々と世に送り出して来たクリストファー・ノーラン監督の「TENET」は、頭の中で時間軸を逆行して考えながら見る不思議な映画だった。

冷戦下、第三次世界大戦の危機が迫り、核兵器により地球が滅亡するという最悪の事態を回避するため、命がけで任務に取り組む主人公。

物理学を応用し、タイムトラベラーとなり次空を駆け抜けながら進む物語は、頭の中がこんがらがる感じがするけど、見ている時は十分に楽しめるエンタテインメント作品。

見終わって、わからなかった部分が幾つもあるのだけど、もう一度見ようとは思えないのは、見ている時に手に汗握り、見終わったらクタクタに疲れていたから。

でも、時空を超えた計算が負に落ちない方、探求好きの方は、何度でも繰り返し見ることをお勧めできる。

⭐️TENEThttps://wwws.warnerbros.co.jp/tenetmovie/index.html

行き止まりの世界に生まれて


アメリカでもっとも失業率が高く惨めな町と言われているイリノイ州のロックフォード。そこで暮らす3人の少年たちの成長を追ったドキュメンタリー映画「行き止まりの町で」は、アカデミー長編ドキュメンタリー賞とエミー賞をノミネートされている。

この映画は、淡々としたロックフォードの若者の生活を追いつつも、アメリカという巨大な国が抱える問題をまざまざと見せつけている。

人種の間にある隔たり、アジア人の生きづらさ、白人であっても生まれた境遇、父親の暴力の影響など、根底にあるのは格差社会の問題だ。

丁寧に12年間、3人の少年の成長を追った素晴らしいドキュメントフィルム。

⭐️行き止まりの世界に生まれてhttp://www.bitters.co.jp/ikidomari/

ブックスマート 卒業前夜のパーティーデビュー

見ている時はKと二人大笑いして、見終わった後には胸がスカッとした。

映画「ブックスマート」は、今時のアメリカの高校生の卒業前夜のたった一日を描いた映画なのだけど、絶妙なキャスティングとよく考え抜かれたシナリオに唸らされた。

生徒会長のモリーと親友のエイミーは、勉強一筋で高校生活を生きてきた。やっとのことでイエール大学という有名大学入学が決まり、卒業式の前日に、勉強もせずにパーティー三昧だった周りの同級生を見回すと、勉強一筋だった自分たちには、やり残したことが膨大にあるような気になってしまう。

多様な人種やセクシュアリティにも配慮されており、現代高校生の生き様がとてもうまく表現されている。細部にまで作り込まれている素晴らしい脚本とキャスティング。

⭐️ブックスマート 卒業前夜のパーティーデビューhttps://longride.jp/booksmart/