Kの家族。その2

初日の朝食は、子どもたちが食べられそうな鶏肉のそぼろ丼にした。
そぼろ丼に温泉卵を乗せ、ピーマンの炒め物を添えて味噌汁を。

Kは朝からご家族と一緒に出たっきり、ビーチ屋景勝地を1日係で案内する予定だった・・・
でもお昼すぎに電話があり、今から帰ってくるとのこと。

結局家族の間でちょっとした言い合いのようなものがあり、みんなでいったん宿に戻ってきた。
その後、一部のご家族は他の宿に移動して2つに分かれて行動するようになった。
12人での旅行は家族とはいえなかなか難しいのかもしれない。

結局その後もご家族で食事に行き、ご両親とはきちんと挨拶できないまま。

Kは家族の揉め事に翻弄されて疲れてしまったよう。

僕は明日の朝ごはんの準備を粛々と進めたのだった。

Kの家族がやってきた。

お盆の時期にかけて、Kのご両親とご兄姉のご家族がやってきた。なんと総勢12名。

初日はご両親と叔父様叔母様は別のホテルをとり、2日目はみんなでうちの客室に泊まるようだ。

僕はこの日に備えて朝食のメニューを考えて、仕込みを済ませた。

僕としてはシーツもきちんと客室のシーツを使いたかったのだけど、Kがその後の予約状況を見て、クリーニングに出したら戻ってこないかもしれないから足りなくなるのは嫌だから客室のシーツでなく僕たちのシーツを使うと言って聞かなかった。

お兄さん、お姉さんはそれぞれ子どもが二人ずついて、大人たちは僕の存在夜間系を知っているけど、子どもたちには伝えていない。

だから僕はあまりご家族の前には出ないようにして客室への出入りもKが一人でこなしている。

まdご両親とはきちんと挨拶ができていないのだけど、少しずつ距離を縮められたらいいかな・・・と思っていることろ。

夏が戻ってきた。

7月はずーっと晴れていて天国のような宮古島だった。

それが、8月1日から台風がやってきて、島中の木々に殴りかかり、葉っぱを吹き飛ばし、花々を掻っ攫っていった。

その後、天気はずっと不安定で、梅雨時のように急な土砂降り担ったり、曇り空ですっきりしない敵が続いていた。

それが、台風がやっと遠かったのか、ようやく海も落ち着いて、平穏な夏がまた戻ってきた。

あれほど荒れていた海も、今は凪いでいて美しい。

海と一緒に行く散歩でも、こんなに美しい海を見られるだけでなんて幸せなんだろうと、毎回思うのだ。

宮古島の夏は、暑いけど天国です。

静かなワンちゃん。

久しぶりにワンちゃんが泊まりに来た。

ボーダーコリーだけど、鳴き声がまったく聞こえないくらい吠えないワンちゃんだった。

海は犬の気配を感じていちいち吠えそうになるのだけど、そのワンちゃんは躾が行き届いているようでとても静かだ。

ご家族はワンちゃんも家族として一緒に暮らしていらっしゃるようで、明日はサップをワンちゃんも一緒にやるとのことだった。

これだけお利口なワンちゃんなら、海での遊びも楽しいだろうなあ。

うちの海はサップなんか乗せたら狂ったように吠えるに違いない。

スーパーの棚。

台風は過ぎ去ったのでスーパーに買い出しに行ってみると、見事に空っぽの棚が並んでいた。

台風の時には10日分以上の買い物を済ませておいた方がいいということは昨年学んだばっかりだったのだけど、やっぱり今回の台風でも同じことを考えさせられた。

これは、台風が去っても今回のように沖縄本島に向かって行った場合、宮古島に物流が入ってこない状態がまだまだ続くからなのだ。

沖縄本島の海が静かに収まって、その後になってようやく物流が食料を中心に始まる。

だからそれまでの間、家族が問題なく食い繋いでいけるような食料を確保しておかなければならないのだ。

幸い僕たちは宿をやっている関係で食糧をいつも多めにストックしてある。よほどの停電がない限りはそれらを食べていけるのだけど、ふと入ったスーパーの棚がやっぱり空っぽだったことに少なからず驚かされた。

沖縄の人たちは台風の時にどうするのか、身をもって知っている。自分の家に準備をしておいて、あるもので食い繋いでいく。こんな時にないものを求める必要はないのだ。

台風の後の庭。

台風は、庭の一番大きく育っていたバナナの木を薙ぎ倒して行った。

海の塩分を多く含んだ雨は植物の葉を茶色に枯らし、強い風は全ての葉っぱを根こそぎ吹き飛ばしていった。

台風の前は、家の庭が天国のように多様な花々が咲き乱れていたのだ。

でも台風が去った後の庭は一体どこから手をつければいいのかわからないくらいに荒れ果てていた。

でもそんな中、急に咲き始めた花もある。

玉すだれという花で、球根になっていて自然に増殖する植物だ。

なぜだか宮古島のこの辺りに自然に生えていて、雨の後に真っ黄色の美しい花を咲かせる。

荒れて何もかもボロボロズタズタになった庭で、急に咲き始めた真っ黄色の美しい花を見て、小さな勇気をもらったような気持ちになったのだ。

今年一番のピンチ。

実は今日チェックインのお客さんが1組いらっしゃった。でもそのお客さんは本当に宮古島に来られるのかわからなかった。飛行機は飛んでいるようだけど、宮古島にちゃんと着陸できるのだろうか?

そんなことよりも僕たちはAZZURRA始まって以来、最大のピンチを迎えていた。台風の土砂降りで客室のドアが2つとも閉まらなくなってしまったのだ。

客室のドアはアメリカの天然の赤杉を使っているため、水に濡れると膨張するのだ。昨年も膨張して閉まらなくなってしまったことがあり、その時も大工さんに修理してもらったのだ。それが今回は2つとも全く閉まらない。

朝から僕とKは二人がかりでドライヤーを持ち出してドアの膨張している部分に熱風をかけ始めた。何度も何度も表と裏から、それでもダメだと思い一番膨張しているところを集中的にやったり、今度は全体に満遍なくなど、不安に押しつぶされそうになりながらドライヤーを当て続けた。

2時間くらいやっただろうか、それでも何度試しても一向にドアは閉まらないどころか、1ミリも収縮していないように思われた。

僕は1時間くらい経つ頃に不安になり大工さんに電話をかけた。「お忙しいとは思いますが、客室のドアが閉まらなくなってしまいました。お客さんが今日夕方にいらっしゃるので、なんとかそれまでに応急処置をお願いできないでしょうか?」

お昼過ぎに大工さんが親子で現場を抜け出してやってきてくれた。そして、難しい決断だと言いながらドアを外して丁寧にドアの1辺をカンナで削り始めた。そして1時間くらいかかっただろうか、ドアがきちんと閉まったのだった。

「あんまり削りすぎると今度は乾いた時に隙間が開き過ぎちゃうから、この辺りがいいと思います」ものすごい職人肌の大工さんで、食事もせずにドアを修理してしてくださった。

こうして無事に、夕方に神戸からのお客様をお迎えすることができた。

このご恩は一生忘れませんと心の中で誓ったのだった。

家でのんびりと。

台風は自転車のようなゆっくりとした動きなので、ずっと宮古島は影響を受けている。

雨はそれほど強くはないものの、風が強く危ないので外には出られない。

空港もずっと閉鎖されていて飛行機も飛べない状況のようだ。

僕たちは昼間からワインを飲んだりチーズを食べながら、なんだか怠惰な暮らしを楽しんでいる。

冷凍庫の中に冷やしておいたパッションフルーツを取り出して食べてみる。

シャーベットのようでとても美味しい。こんなにパッションフルーツが美味しいのならばもっとたくさん買って冷凍にしておけばよかったとちょっと後悔した。

台風の前では、人間にできることなんて何ひとつもないんだ。

ルートを何度もみたところで、外れてくれと願ったところで、台風の速度もルートも我々がコントロールできることなんて何もない。

ただ台風をそのまま受け入れて、余計な心配はせずに今日を楽しむに限る。

台風は、海を整理し、人間にも自分や身の周りを整理する時だと教えている。

そんなことを宮古島出身の人が呟いていた。

夜の3時ごろだっただろうか、冷房が止まり停電に入った。

停電は宮古島では7000軒くらいに広がり、結局14時間くらい経った後夕方に電気が回復した。

昨年の台風でも12時間の停電があったので、僕たちは停電することも視野に入れながら過ごしていた。

冷凍庫はパンパンにしていたし、冷蔵庫にも魚などの腐りそうなものは先に食べてあった。

停電になったら冷蔵庫も冷凍庫も一度たりとも開けないようにした。

こうすることによって庫内の温度が上がりにくく、12時間程度なら冷凍庫内のものも溶けずにほぼそのままの状態でキープできるのだ。

調べたところによると、54時間くらいは大丈夫と書いてあったけど、そこまでの停電はちょっと難しいかもしれないとも思う。

幸い宮古島はそれほど暑くなくて、28度くらいだったので湿気はあるものの平気で過ごすことができた。

台風を一つ一つ経験するたびに、自然の驚異的への備えや対処の仕方を学んでいく。

時間があるので、自分の中の整理することも考えてみることにしよう。

台風の時に沖縄の人たちのすること。

沖縄の人たちは台風の時には昼間っからお酒を飲み始めて夜までずっと楽しく家で騒いでいると聞いていた。

僕は昔そんな話を沖縄料理屋さんで聞きながら、「そんなものかなあ・・・?他にやることないのかなあ?」くらいに思っていたものだった。

でもいざ沖縄に住むようになって、台風がきた時に僕たちのできることって、やっぱり家の中で引きこもっていることしかないことが身をもって分かったのだ。

外は雨というよりも風があまりにも強いので、散歩をすること自体が命に危険がある。車の運転なんてもってのほかだ。

場所によっては停電になってしまうので、それを見越して停電になった時に食料をどうやって食べるか、何を食べるか、考えておく必要がある。

結局僕たちは家の中にいながら、カップラーメンなんかを食べながらワインを飲んで過ごした。

外は風が強く、一人で家の中にいたらとても不安になってしまうくらい家に吹き付けてくる。

時々家の庭や隣の畑に海を散歩させるくらいで、僕たちはずーっと家の中でのんびりと過ごしたのだった。

大自然の脅威の前では、人間がいくら心配しても、願っても、なんの役にも立たないことを思い知ったのだった。