車で送り、車で迎えにいく。

Kが、病院で一緒に働いている人たちと食事に行くというので、朝は8時前に熱海駅まで車で送って行き、夜は10時半頃熱海駅に迎えに行った。

僕は10:30まで飲まずに家で待っていたのだけど、海と待っているうちにソファでうとうと寝てしまい、KからのLINEで慌てて飛び起きた。

コロナ禍で同僚と一緒に飲む機会もほとんどなかったから久しぶりの食事会だったようだ。

車で帰る道中、ほろ酔いのKはとても楽しかったようで、他のメンバーが話していたことを話してくれる。

「パートのおばちゃんがずっと、女医さんが相手に寄って態度を変えるっていう話してた…」そんな話をしながらKはケラケラ笑ってる。

家族を車で送って行って、車で迎えに行く。

そんな家族がいることを幸福に感じた一日だった。

熱海の夏。

窓の外では、蝉が鳴いている。

夕方にはひぐらしが鳴き、早朝にもひぐらしが鳴くのを熱海に来て知った。

梅雨明けした熱海は連日晴れ渡り、昼間は暑くなるので朝と夕方に海の散歩には行くようにしている。

それでもふと、昼間に温度計を何度か見てみたのだが、大抵27℃とかせいぜい28℃。

ニュースでは東京では猛暑が続くと言っていたのだけど、どうやら熱海と東京では気温の差があることがわかった。

週間天気予報を見比べたところ、最高気温で3℃から4℃、最低気温で1℃から2℃違うことがわかった。

東京で夏を過ごしてきた僕にとって、今のところ熱海の夏は「あれ?こんなに過ごしやすいの?」といった感じだ。

東京の暑さは、ビルや車の排気ガス、地下鉄などの都市熱だとよく言われているけど、確かにそうかもしれないと思える。

自然の豊かな場所に引っ越してきた今の僕たちは、子どもの頃の夏休みのような気持ちのいい開放感を毎日感じている。

海の不調。

朝ごはんを食べた後に、Kは中庭で洗濯物を干していて僕はキッチンで食器を洗っていた。

海は朝起きた時からおとなしく、リビングの窓辺で丸まって寝ているようだった。

しばらくして食器を拭きながらふと海を見ると、寝ている海の体の周りが水浸しになっていた。

「海!どうしたの⁉︎」

僕が叫ぶと海はびっくりして飛び起きて自分のおしっこに気がついた様子。

僕はすかさず海を抱いてお風呂へ一直線。Kは間も無く仕事に出かける時間だけど濡れてしまったリビングの窓辺を掃除してくれた。

昨日海を長浜海岸に連れて行き泳がせた後、海は家に入る時におしっこをしただけで、その後は家でもおしっこもうんちもせずにいたのだ。

海が2ヶ月で家に来た時は、気がつけばおしっこをしていたのに、その間隔がどんどん広くてなってきていて今では回数がかなり減ってきた。

それにしても、ほとんど20時間くらいおしっこを我慢していたのかと思うとかわいそうで仕方なかった。

それに、鼻水が少し垂れているようで、もしかしたら海で風邪を引いてしまったのかもと思った。

その後軽く散歩に連れて行くも元気は戻らず、家に帰って来てもずーっと玄関で寝そべったまま。

心配で心配で、あまり具合悪いようなら病院に連れて行こうか?とKと話していたのだけど、午後になり少しすると休んだせいか、またいたずらをするくらい元気が戻ってきた。

犬も人間と一緒で、いつも元気でいるとは限らない。犬が体調を崩した時に、なるべく早く察知してあげるのが僕たちの役目なのだけど、言葉が喋れないからどこが痛いのか、どんな風に苦しいのかわからないのが歯痒く思う。

その後、夕方の散歩までにはすっかり元気を取り戻したようで安心したのだけど、これからもいつも海の体調をもっとこまめに気にかけてあげなくてはと思ったのだった。

海には、僕とKしか頼れるものはいないのだから。

長浜海水浴場へ。

熱海には3つの海水浴場があって、今年は土石流災害のため3つとも海の家の営業はなくなってしまった。

それでもどこの海にも海水浴客は訪れていて、僕たちは熱海の中でも南熱海と呼ばれる多賀の長浜海水浴場を目指した。

駐車場は地元民のため半額の500円。海に着くなりテントを張って、すぐに海を連れて海の中に入って行く。

興奮した海は飛び回っているけど海中に入るのは未だに怖いと思っているようで、足が立たない深さになると必死にしがみついてくる。

今回は宮古島の時のようにライフジャケットを着せずに海を泳がせてみた。

僕が海を抱いて少し離れたKのいる方向へ泳がせる。

海は一生懸命に泳いでKの所へ行こうとするけど、バシャバシャ激しい犬掻きの音を立てて手足を動かしていて今の所泳いでいるという感じにはなかなか見えない。

それでも必死に僕やKにしがみつくように泳いでくる様は本当にかわいく、ちゃんと泳ぎ切った後に抱きしめたくなる。

暑さも穏やかな午前中に綺麗な海で海水浴をした後、家に帰り海を洗ってからドライヤーで乾かす。

ランチは冷やしたワインを飲みながらサラダをスパゲッティを作って食べた。

熱海に住むということは、思い立ったらすぐに海に泳ぎに行けるということ。

今までは海に行くとなると1泊か2泊かと身構えていたのだけど、今の生活では朝海に行けばお昼には帰ってこられる。

真っ青な海が高い山の上から臨める伊豆半島には、自由で気持ちのいい風が吹いている。

よく遊んでよく眠る。

梅雨が明けた週末、僕たちは大室山の麓にある「さくらの里」のドッグランを目指した。

伊豆半島の海は快晴の空を映して真っ青になっていた。

まだ暑くならない午前中のドッグランにはゴールデンレトリバーが2頭いて海と一緒になって追っかけっこをしていた。

海を心ゆくまで走らせた後は、ハンディというホームセンターで念願の草刈機を買って、スーパーのアオキで食料品を買い込んでから帰宅した。

ランチに買ってきたお寿司を頬張りレモンサワーを飲む。

ご飯を食べたら眠くなって、海のベッドに横になる。そのうちに片付けを終えたKが僕の横にきて横になり、すぐに海がKの隣に来て横になった。

暑い夏の昼下がり、僕たちは3人で川の字になって昼寝をした。

外には蝉の声が響いていて、日差しは強烈で木々のコントラストがくっきりしている。

時々目を覚ました僕は、海とKが寄り添って寝ている姿を見ながら、「なんて幸せなんだろう」と何度も思ったのだった。

床屋さん。

熱海に引っ越して来てからは、熱海の床屋さんに行っている。

その床屋さんは外国人女性の水着のカレンダーなんかがかかっているようなお店なのだけど、いつもカレンダーを見ながら、「これが男だったらどんなにワクワクするだろうか・・・」と思っている。

床屋さんはとても喋り好きで、僕の髪を切りながらおしゃべりが止まらない。そして地元の評判や噂話をよく知っている。

床屋さんは湯河原に住んでいるので、今回の土石流災害で被害を受けた伊豆山の下を車で通りながら通っている。

僕は床屋さんに、今回の災害に関するその後の被害状況を知りたくて色々と聞いてみる。

15日16日で予定されていた今年の熱海のお祭りは中止になったとか、熱海ビーチラインは30キロ走行が義務付けられているけど誰も守っていないとか、盛り土をしたのは「新幹線ビルディング」という会社らしいとか、静岡県副知事の会見は、副知事のカツラが気になってしまうとか・・・。

おしゃべりすぎる床屋さのことが前は少々鬱陶しいと思っていたのだけど、こうして熱海の色々な噂話を聞いていると、なんだか自分も地元民になって来たような気がして悪くないとさえ思えて来た。

ジェノヴェーゼ。

ジェノヴェーゼを初めて食べた時に、「世の中にこんなに美味しいものがあったのか!」と思ったのを覚えている。

それはゴルゴンゾーラを食べた時も同じで、イタリア料理にまつわる食材や料理が僕はとりわけ好きなのだろう。

バジルがたくさん手に入った時には、ジェノヴェーゼを作る。

パスタでジェノヴェーゼソースにすることが最も多いけど、ちょっと料理にアクセントが欲しい時なんかにも使い勝手がいいからだ。

チーズは入れずにオリーブオイルで蓋をしておけば、冷蔵庫内でかなり長く保存できる。

<ジェノヴェーゼの作り方>
バジルの葉 100g(枝が入っても構わない)
松の実 20g
ニンニク 1かけ
オリーブオイル200ml
塩 ふたつまみくらい
胡椒少々

全てをフードプロセッサーなどにかけて攪拌して完成。
煮沸消毒したガラス瓶や琺瑯などに入れて、上からオリーブオイルを注いで蓋をする。
食べる時は必要な分だけすくい取り、パルミジャーノレッジャーノと塩を少し足して使用する。

<ジェノヴェーゼのリングイネやスパゲッティ>
パスタ1人前には、ジェノヴェーゼ50g・パルミジャーノ大さじ山盛り1・塩ひとつまみ・オリーブオイル大さじ1くらいを大きなボウルに入れて混ぜ合わせておき、硬めに茹で上がったパスタをボウルに加えてから和える。お好みでインゲンやジャガイモを一緒に茹でて加える。

山百合。

家の斜面に山百合が咲き出した。

蕾の状態が1ヶ月以上続いて、一体どんな百合だろう?と楽しみにしていたら山百合だった。

日本の山百合は西洋に渡り「カサブランカ」など豪華な園芸品種の元になった百合で、百合の中の百合とも言えるだろう。

純白にオレンジ色の斑点のある花弁は彫刻的で、香りは遠くからわかるくらい強く甘い。

1ヶ月前くらいだろうかまだ蕾の頃に折れてしまったこの百合を、かわいそうだからと取って来て玄関で水に入れて置いたら、蕾はどんどん大きくなり立派な花を咲かせている。

器が割れた時に思うこと。

先日、お猪口を上の棚にしまおうと、重ねた2つのお猪口を持った時に、ふと手が滑って下に落としてしまった。

すると、お猪口は無事だったのだけど、下にあった浅めのどんぶりが割れてしまった。

家の器やグラスはペアか偶数で揃えているので、一つが割れて使えなくなると中途半端になってしまう。

探してもう一度買い揃えようと思っても、既に販売されていなかったり、お店が遠くて買いに行けなかったりもする。

熱海に引っ越して来てから、クラスを一つ割り、どんぶりを一つ割った。小皿とお猪口を一つずつ欠けさせてしまった。

大切に使っているつもりが、洗ってしまう時などふと他のことを考えていたり、ふたつのことを同時にしようと思っていると不注意になってしまうようだ。

その度に自分では酷く落ち込んでしまうのだけど、「形あるものはいつか壊れる」と、なんとかそう言い聞かせてきた。

僕が大切な器やグラスを割ってしまった時には、Kはいつも穏やかなままでいてくれる。

外出先などで何かをこぼしたり、落とした時も、Kは僕を責めることはなく気遣ってくれるし、僕もそうでありたいと思っている。

大切なものが壊れた時や、不意に事故が起こった時に、その人間のやさしさや本質が感じられるものだ。

パッションフルーツ

先日宮古島に行った時に『アトリエ和毛』に立ち寄り、帰り際にテーブルの上にラフに置いてあったパッションフルーツをいただいた。

「木にたくさんなっていて、この時期どんどん落ちてくるんです」

パッションフルーツ自体、僕は今までマンゴーや他の果物と一緒に紛れて入っているのを食べたくらいで、自分が果物屋さんで買い求めたことはなかった。

熱海に持ち帰りパッションフルーツの食べごろはいつなのか調べたところ、果実がシワシワになって来た頃が酸味がほどよく抜けて良いと知った。

それから1週間以上リビングに並べて置いてあったのだけど、ヨーグルトを買って来たのでそろそろ食べようかと思い真っ二つに切ってみた。

厚い表の皮の中には薄い皮があり、その中にカエルの卵のようなタネとジェル状の果汁のようなものが見える。これをスプーンですくってヨーグルトの上に載せて食べてみる。

ほどよく酸味があり、それでいて自然のほのかな甘みが感じられた。

食べるところはほんの少ししかないけど、ひとすくい口に運んだだけで南国の空気を感じられた。