海に試される。

生後2ヶ月くらいの犬は、甘噛みやいたずらが酷く、目の前のもの手当たり次第に口に入れたり噛んだりし続けている。

犬には、善悪の区別もないし、高いソファや家具など知るはずもない。

目に入るものはすべておもちゃのように見えて、好奇心のまま噛みつきにいく。

犬を育てる上で、怒ってはいけないというのがある。たとえ間違った場所におしっこをしたとしても、それを怒ったところで犬にはなぜ怒られているのか意味がわからないからだ。


でも、そんなことは分かっているつもりでいても、こう手当たり次第にソファのカバーにいたずらに噛み付く姿を見ていたら、「海!NO!」と叫んでしまった。

海は、急に怒った僕の顔を不思議そうに見ているだけで、そんな海を怒ってしまった自分の心の小ささにいやなきもちになる。

「犬には、良いも悪いも区別がつかないのだ」

そう思いながら、海によって自分の心の小ささが試されているような気になったのだ。

日曜日の昼下がり。

僕はご飯を作りながら、時々海と遊んだり、昼寝している海を眺めている。

Kは、落ち葉を掃きながら庭の掃除をしてくれている。

なんでもない日曜日の昼下がりは、今や我が家にとってとても幸せな時間だ。

来週の忙しい撮影を前に、ずっとこのままこうしていたいと思う。


28日の仕事が終わったら休暇がやってくる。忙しくハードだった1年間ももうすぐ終わると思うと、来週も頑張れそうな気がした。

週末のお出かけ。

海を抱っこして近所の散歩をはじめたばかりなのだけど、この週末、はじめて車に乗って伊東のカインズまでお出かけしてみた。

カインズは、カートに犬を乗せて店内を見て回れるので、社会性を身につけるのにももってこいだと思ったのだ。

先週末に奈良から家に車で運ばれてきた時に海は、はじめ1時間近く泣き叫んでいたのだけど、カインズに行くまでの車の中では、クレートに入ったままとても静かにしていた。

カートにトイレシートを敷いて、念のために海にもオムツをあてて来た。

海は店内に入るなり、シートにおしっこをして、オムツがズレていてそのままシートにおしっこがぶちまけられた。

店内には他のお客さんや犬たちも沢山いて、海は興味津々で臭いを嗅ぎまくっている。

途中、11ヶ月の柴犬とカート同士で近づき、はじめてのよその犬にびっくりしていた。

僕たちは、海のグッズや爪切り、他にも色々買いたいと思って買いに来たのだけど、結局海のことが気になり、早々にカインズを後にした。

でも、こうして家族でカインズなんかにも出かけるような週末が、これから僕たちの日常なんだと思える日になった。

海も1週間経って少しずつ、新しい暮らしに慣れて来たようだ。

海とのお出かけ。

犬は、生まれてから3ヶ月くらいまでで、社会性を身につけるそうだ。

外の世界のことを知り始め、好奇心も旺盛で、他者と自分との関係性をこの時期に学び始めるそうだ。

でも、半年を過ぎる頃から好奇心よりも警戒心が強くなり始めてしまうため、なるべく早い段階でいろいろなものや人、他の犬にも触れた方が良いようだ。

そうでるにもかかわらず、日本ではワクチンの2回目が終わるまで外に連れて行ってはいけないということになっていて、それが終わる頃には3ヶ月くらいになってしまうようだ。

海はまだ、1回目のワクチンしか終わっていないのだけど、抱っこをしながら近所を散歩してみることにした。(ワクチンを打っていないので、地面には降ろさないように)

肩からかけられる1本の紐がついたフェルトのカバンに海を入れて、抱っこして出かける。海は今、すでに5キロあるので、ちょっとした重さだ。風邪で木々が揺れる音に驚いたり、鳥の声を聞いているのがわかる。

近所の人を見かけたら、僕たち以外の人間を見て反応しているのがわかる。斜め向かいのおばさんに会ったら、大の犬好きのようで、海を抱っこしたがったのだけど、海は僕たち以外の人間になれていないため、僕に助けを求めて来た。

初めてのお出かけは、隣近所だけなのに、興味津々でありながらほんの少し怯えているのがわかった。

帰って来て甘える海

繰り返しお出かけするうちに、次第に慣れていくだろうか。

Kの歓迎会。

Kが新しい病院に就職して、1ヶ月以上が経った。

そんな中で、大人数での会食はできないものの、少人数で食事に行こうということになったようで、珍しく電車で病院に出かけた。

夜ご飯も食べ終えてのんびりと海と過ごしていると、Kが帰って来た。

Kは楽しかったようで、酒の席での話をとつとつ話し始めた。

男性上司と若い20代の男の子なんかと食事に行ったようで、しばらくして、何度かKがLINEをやりとりしているなあと思っていたら、急に話し始めた。

K「上司の人から、Kくんってこっちの世界の人ですか?ってLINEが来たよ」

僕「なんて返したの?あなたもですか?って返した?」

K「うん。でも、その人、結婚してるんだよね・・・」

僕「そうなんだ・・・そうやってこの地方で隠しながら生きていくの大変だったろうね」

K「うん・・・でも、そういう人きっとたくさんいるんだろうね」

僕「その人の写真ないの?狙われてるんじゃない?そのおじさんに?」

K「写真なんてないよ・・・笑」

きっと日本全体で見たら、結婚しているゲイはものすごい数なんだと思う。カミングアウトしているゲイなんか比べ物にならないほど多いのだろう。

人それぞれの生き方があっていい。それぞれの生き方で、幸せに生きて欲しい。

犬を飼うこと。

僕がまだ小さな頃、白いスピッツのポチが僕の乳母車を引っ張っていた写真があるし、その後小学入学時には、柴犬の八が家に来て、中学生の時にはヨークシャーテリアのトコが家に来た。

子ども心に学んだことは、「かわいい」というだけでは犬は飼ってはいけなくて、毎日毎日散歩をしなくてはいけないこと。それは雨の日や夏の暑い日にもなるべく行かなくてはいけないこと。そして、犬は病気もするし、自分の思うようには育たないこと。そして、長生きするけれども自分よりも早く亡くなること。

犬を一緒に暮らしたいと思いながらも、ずっと犬を飼わずに来たのは、そんな小さな頃からの経験があったからだと思う。ゲイである自分には親以外に家族もなく、自分のことだけを考えながら生きていく方が気楽に思えたこともあった。やがて僕にもKというパートナーができて、二人で一緒に暮らしていくうちに、自然と犬を飼ってもいいかなとようやく思い始めたのだった。

今、こうして家に海が来て、子どもの頃に味わったような気持ちとはまた違った気持ちで犬と向き合っている。

それは、「かわいい」というものではなく、この先10年以上この海を、何があっても僕たちが守ってあげなくてはいけないという強い気持ちだ。そしてそれはそれほど簡単なことではなく、少しずつ僕たちも学びながら成長していかなければならないと思っているところ。

海、はじめてのお留守番。

今日は、随分前から東京でのミーティングが決まっていた日。先週末に海が家に来て、まだ三日くらいしか経っていないため、留守にすること自体が不安だった。

僕は6時代のバスで出かけ、Kが病院に外出したのは8時。Kは出際に、「コング」という中におやつを仕込んで犬が長時間遊んでいられる道具を海に与えたところ、とても喜んでしゃぶっていたので、その隙にと出かけたようだが、階段を降りる途中に海の鳴き声が聞こえたらしい。

東京でのミーティングが11時過ぎに終わり、11:57の新幹線に乗り、熱海からタクシーを飛ばして家についたのは13時前。家の階段を登っていくと、鳴いている様子はない。でも玄関まで近づくと急に鳴き声が聞こえ始めた。

そーーーっとリビングのドアを開けると・・・海がギャンギャン鳴いていた。ケージの中は、ウンチまみれ。

こうなることは予想できたものの、あまりの惨状に笑ってしまった。それからお風呂に連れていき、一緒にシャワーを浴びる。毛についたウンチがなかなか取れにくくて、乾いたウンチは面倒だと感じた。

ウンチまみれであっても、帰って来た僕を見てギャンギャン鳴いている海は、ものすごく可愛かった。それから午後の半日はケージに入れずに過ごしたのだけど、海は僕の後を片時も離れまいと、ずっとつきまとっていた。

僕のいるキッチンに来ようと段差を乗り越えようとしている。

キッチンにいる僕のところに来ようとして鳴いている海

まっすぐな瞳

分離不安というものからいずれ解放できればいいと思うけど、今はまだ、分離不安の真っ只中。こんなに海につきまとわれる毎日も、後で楽しかった思い出になるといいな。

風の怖さ。

昨夜の熱海は、恐ろしいほど強い風が吹き荒れていた。

山の斜面にある我が家は、山の上から吹き下ろすような風を受けて、ものすごい勢いで木々が揺れていた。

夜中、あまりの風の強さと音に何度も目覚めて、「日本昔ばなし」のような風だと思ったのだ。なんというか、山の神様が怒って山ごと動いているような風の強さ。

朝起きると、庭の木々の大きな枝がいくつも折れていて、玄関にあった植物が階段のはるか下に投げ出されたように落とされていた。

熱海に来て、自然のそばで暮らしはじめてわかったことなのだけど、山の怖さを感じることが時々ある。そしてそれは、東京では感じなかったものだ。

人間の力ではどうすることもできない自然の力の脅威を、畏敬の念を持って感じることができる。

新しいしあわせ。

海が家にやってきた翌日、朝から海はギャンギャン鳴いていたのだけど、外に出して一緒にいたら安心したのか、その後は穏やかになった。

ケージから出して、おしっことうんちをして、そのあと遊んで、少ししたらまたケージへ戻す。本当はずっと外に出しておきたいけど、お留守番ができなくなってしまうようなので、ここはじっと我慢してケージで過ごすことも覚えてもらう。

兄弟やお母さんと離れて、育ててもらっていたブリーダー親子とも離れて我々を頼る以外ない海は、僕とKの顔色を常に伺っている。ご飯を作るために僕がキッチンに入るだけで寂しくなってしまうようで、顔が見えても悲しそうな声で鳴き始める。


海を脇目に、Kが例年に習って家のクリスマスツリーの飾りつけをしてくれた。海は、クリスマスツリーのところまでは階段差があっていけないようで、そんなKを心配そうに見ている。

黒いから写真の露出が合わない。笑

Kが海をあやしながら、一生懸命トイレを教えたり、クレートへの入り方を試行錯誤しながら教えている。僕は晩御飯の準備をしながら、そんな二人のやりとりを時々横目に眺めている。

ふと、「こんな幸せがまだあったんだ・・・」と思ったのだ。

海が来て、新しい毎日がはじまった。

海を迎えに。

四日市で泊まった朝は、奈良を目指して車で南下して行った。

お昼頃にブリーダーの家に着くと、中から海が抱っこされて出てきたのだけど、1ヶ月前に見たときに比べると倍くらい大きくなっていて驚いてしまう。

ブリーダーから、様々な注意事項を聞く。ご飯の量とか、2回目のワクチンのこととか、スタンダードプードルがなりやすい病気とか。この日初めて知って驚いたのだけど、生まれた時に2匹白いメスがいて、黒いオスは6匹いて黒いメスが1匹いた。そのうちの白いメスが1匹、原因不明の死を遂げていたのだ。子犬の時期は病気にもなりやすく、時々こうして命を落とすこともあるようだ。

海を抱っこして、クレート(持ち運べるかご)に入れる。車が走り出すや否や海は鳴き始めた。親や兄弟、育ててくれたブリーダー家族から離れる分離不安というもので、1時間近く鳴いていただろうか。しまいには鳴き止んで、諦めたのか静かになった。

サービスエリアで外に出してあげた。

奈良から熱海までは5時間くらい。途中2回休憩をしたのだけど、2回目の時に表に出してあげた。海は親元を離れて一人ぼっちで、見ず知らずのおじさん二人以外に頼るものもないまま、心細そうに見えた。

家について落ち着いてからご飯を食べさせ、眠る時にまたギャン鳴きが始まった。

小さい方のケージの隙間から、外に出ようともがく海

ブリーダーさんの言うことには、三日間くらい続くと思いますが(長い犬だと1ヶ月かかる)、そのうち鳴かなくなるからそれまでは何があっても檻の外には出さないこと。かわいそうと思って出してしまうと、鳴けば出してもらえると学んでしまうと言うことだった。

朝方また鳴き初めてかわいそうだったけど無視を続け、朝になって出してあげると、鳴いていたことなんて忘れているようでピョンピョン跳ねて喜んでいた。

こうして我が家に、海という新しい家族が加わった。

これから一緒に、たくさん楽しいことをしようね。