はっさく。

今月のはじめに和歌山にお墓参りに行った帰り道、畑の沿道ではっさくを売っていた。
中を見ると大きなはっさくが4つで200円と書いてある。小さな貯金箱のようなものに200円入れて、カバンの中にはっさくを入れて少し重かったけれど持ち帰った。
帰って来てはっさくを家のリビングで取り出すと、何とも言えない清々しい香りがして、Kを呼んで手に持たせては、香りをかがせたりしていた。
小さな頃、母がはっさくをむいて食べさせてくれたことを思い出す。分厚いはっさくの皮をむくのも、中の甘皮をむくのも面倒くさく、自分では食べたがらなかったのだろう。
いま改めて考えてみると、子どもの頃に食べて以来、はっさくというものを食べた記憶がない。それはきっと、果物屋さんでもグレープフルーツのようにメジャーではなかったのだろうし、あったとしても敢えて自分で買おうとはしなかったのだろう。
朝、ご飯の後に、思い出したようにはっさくを食べてみようと思った。子どもの頃のかすかな記憶では、はっさくとは甘いものではなくて酸っぱいもののイメージがあり、味にはまったく期待をしていなかった。
はっさくをまっぷたつに割り、前にここにも書いたグレープフルーツナイフを使って食べやすくカットする。
そうして口に運んだはっさくは、程よい酸味がありながら、ほろっと苦みがあり、けれどもしっかりとした甘みが口いっぱいに広がった。こんな豊かな味わいは、自然しか作り出すことは出来ないだろうと思われた。
「おいしいね」 
「おいしいね」
Kと僕は、何度もそう言って、はっさくを口に運んだ。

ナツメグゼラニウム。

大濠公園の周りを、散ってゆく桜と咲き始めた八重桜を眺めながら散歩をしていた時に、素敵なお花屋さんがあった。
そこで、大好きな香りのよいゼラニウムを見つけて、「あ、これ買おう!」と即決したものが送られて来た。
ペラルゴニウム属のゼラニウムはとても種類が多いのだけど、その中でもハーブに分類されるセンテッドゼラニウム(ハーブゼラニウムとも言う)は、葉っぱに何とも言えない清々しい香りを持っているものがある。
ローズゼラニウム・アップルゼラニウム・パイナップルゼラニウムなどで、この斑入りの葉が美しいゼラニウムはなんと、ナツメグの香りがするというナツメグゼラニウム。
花は地味でかわいいのだけど、このゼラニウムの魅力は美しい斑入りの葉っぱと、触ると爽やかに匂い立つ香りだ。ナツメグゼラニウムは僕のベランダに、爽やかな香りと輝きを運んできてくれた。

手打ち蕎麦 やぶ金

天ぷら

鴨焼き

せいろ

天神の『天ぷらひらお』で天ぷらを食べたいとKが言うので向かったのだけど、TOHOシネマズが入っていたはずのビルが全館閉店となっていた。仕方なく天神で天ぷらを食べられるお店を探すと、『手打ちそば やぶ金』を見つけた。
『やぶ金』は、賑やかな天神のど真ん中にありながら、風情のある昔ながらの一軒家を改造しているおそば屋さん。庭には山吹が咲き乱れ、一歩中に入ると、日本家屋ならではのゆったりとした空間が広がっていた。奥の席からは中庭まで見えて、ここは京都何じゃないか?と思うくらい和の雰囲気。
福岡の日本酒をいただきながら、天ぷらをもらい、蕎麦味噌をつまむ。やがて鴨焼きが運ばれて来て、美味しい日本酒片手におそば屋さんならではの開放感で満たされる。
福岡でおそば屋さんと言ったら、まっさきに『赤間茶屋 あ三五https://tabelog.com/fukuoka/A4001/A400104/40003973/』が思いつくけど、年末に行った『蕎喰いまとみhttps://tabelog.com/fukuoka/A4001/A400103/40000112/』など、美味しいそば屋さんがいくつもあるのはうれしいところ。
蕎麦は少し太めだけどしっかりとしたコシがあり、そばつゆは、標準的な甘さだった。そば湯を飲みながら、改めておそば屋さんという幸福をかみしめた。
★手打ちそばやぶ金
092-761-0207
福岡県福岡市中央区大名2-1-16
https://tabelog.com/fukuoka/A4001/A400104/40000050/

cafe liver

以前にもここに書いたことがあるのだけど、福岡の、ニューオータニ近く那珂川沿いの清川に、『café liver』はある。
ドアを開くと、天井が高くだだっ広いスペースが広がっており、心地よい音楽が流れている店内からは、窓の外にゆっくりと流れる那珂川の水面が見える。
その美しい景色は、ちょっとした映画を見ているようで、今の時期は木々の新緑と八重山吹のオレンジが美しい。(余談だが、僕が山吹が咲いてると言うまで、ずっと山吹のことを、木香ばらだと信じてお客さんに話していたらしい・・・大笑いしてしまった)
福岡滞在の空いた時間に、ふと『café liver』に行きたくなるのだけど、ワインやビールを飲みながらのんびりと川の流れを見ていると、とても幸せな気持ちになる。
僕「もう夕方の便で東京に帰るんだけど、そのソファの一角に住み着いてもいいかな?」
マスター「ここに住みたいって言う人、続出してるんです・・・」と答える。
このごろは福岡に来るたびに、Kとふたりで福岡で暮らすことを話している。どの辺に住むのがいいか。一般的には、薬院なんかが人気のようだけど、歩いている感じだと僕はどうやら、大濠公園の周りや赤坂、警固なんかが好みのようだ。仕事はどうするか・・・。
僕「家を買って、Kに働かせてそのお金で僕はのんびり暮らすことにするよ」
K「だめ!ただしくんは掃除のおばちゃんをやって、Kちゃんに楽させてあげて!」
そんな話をしながら、しばしふたりで福岡で暮らすことを夢見ているのだ。
★café liverhttp://cafeliver.com
http://jingumae.petit.cc/banana/2653587

食・心 旬ぎく

お造り

オケラのような『まじゃく』

ヒラマサの煮魚

以前、福岡のホテルオークラの前の道を散歩していた時に、美味しそうなお店がポツポツあることを知り、今回はその中の一つ『食・心旬ぎく』に行ってみた。
常連はアラカルトで食べるようだけど、僕たちは8000円と5000円のコースがあるところ、5000円のコースにしてみた。(コースの違いは食材とのこと。5000円は煮魚がブリだけど、8000円は金目鯛とか)
魚料理を中心に組まれた9品は、福岡ならでは。先付けの鯛の子にはじまり、桜海老の茶碗蒸し。
ヤリイカ、鰹、長崎の真鯛のお造りは新鮮で、焼いた太刀魚には生麩が添えられている。
そして海老というかオケラのような『まじゃく』は、姿は気持ち悪いが甘味のある有明海の珍味。
ヒラマサの煮魚に、天草大王(地鶏)、鯵寿司と続き、品数量ともに、「本当にこれで5000円なの?」と思ってしまった。
東京だったらきっと1万円を越える品々だろう。
いいなあ。福岡。
住んでみたいなあ…。
⭐︎食・心 旬ぎく
092-262-2428
福岡県福岡市博多区須崎町4-19 ブライトンハイツ 1階
https://tabelog.com/fukuoka/A4001/A400102/40006553/

うどん平

ごぼう天うどん

肉うどん

山かけ冷麺

久しぶりの九州を楽しみにしていたのは、僕よりもKかもしれない。「お昼はKちゃん何食べる?」と聞くと、「平(たいら)がいい!」と言う。
『平』とは、『うどん平』のこと。(庶民的な恋人を持ってよかった)
タモリさんが好きということがネットで広がり、僕たちも随分前に食べて感動したのだけど、それ以来何度か平に行っても、いつも長蛇の列で諦めていたのだ。そこで今回は並ぶのを覚悟で早めに向かってみた。
オープン30分前に着くと、僕たちの前には既に30人くらい並んでいたのだけど、食べてもうどんなのですぐに順番が回って来て、食いしん坊の僕たちはふたりで3つのうどんを注文した。
麺は平たい麺でコシがなく、例えていうならば「どん兵衛をもう少し太くして厚みをつけた感じ」。伊勢うどんほどブヨブヨではなくこれがなんとも美味しい。
そして何よりも、ここのお出汁の美味しさ。醤油の色は香りづけ程度で、それでいてしっかり塩気が効いていて甘みがほとんど感じられない。
讃岐うどんのようなコシで勝負するうどんもいいけど、お出汁の効いたこんな温かいうどんが僕は好きだ。
今回はじめて食べた山芋をかけた冷たいうどんも、この平たいうどんととても良く合っていた。
また食べに来たいな。『うどん平』。
⭐︎うどん平
092-431-9703
福岡県福岡市博多区博多駅前3-17-10
https://tabelog.com/fukuoka/A4001/A400101/40000480/

ラ メゾン ドゥラ ナチュール ゴウ

ウニとズワイガニ、カリフラワーのブリュレ

椎茸と車海老、春菊のリゾット

甘鯛と蕗の薹、菜の花とホタルイカ

福岡の西中洲で、素晴らしいお店を見つけた。
その名も『La Maison de la Nature Goh ラ メゾン ドゥラ ナチュール ゴウ』。
名前からするとフレンチなのだけど、日本の割烹料理とフレンチの食材や技法を合体させたような料理なのだ。
大将は13年前、まだ西中洲には飲み屋しかなかったような時代に、路地の奥まった隠れ家のような場所にお店をオープンさせた。
店内はカウンターメインのオープンキッチンの部屋と壁を隔てたテーブル席メインの個室や半個室の二分割になっている。
前菜、魚、肉料理と続くコース料理は6品で、6000円と8000円の2コース。はじめてのお客さんは6000円のコースをすすめられる。
最初は、カリフラワーのクレームブリュレの上にウニとズワイガニが乗ったアミューズで、いきなり心を掴まれる。
「何これ?和食みたい…」
前菜はまるで八寸のようで、季節感を感じさせる。
そして、このお店の看板商品となっている、大分の椎茸と大分の車海老を使った春菊のリゾット。
椎茸の旨味と、車海老の甘み、春菊の苦味が、フレンチの繊細なソースのおかげで渾然一体となって味わえる。
続く甘鯛と蕗の薹、菜の花とホタルイカも、過ぎてゆく春を一品の中に詰めたような美味しさ。
鹿児島の和牛赤身と玉ねぎのグリル、そしてスウエーデンの蕪のソースは、誰が食べても美味しいと喜ぶであろうお料理だった。
このお店に、似ているお店を挙げるとすると、京都の『よねむら』か、それか先日行った『とくを』だろうか?
いずれにせよ、こんなお店が東京にあったら、季節の変わり目や誰かのお祝いにしょっちゅう利用したくなるに違いない。
帰る時も、姿が見えなくなるまで見送ってくれる大将の礼儀に、まるで京都に来ているような錯覚に陥ってしまった。
⭐︎ラ メゾン ドゥ ラ ナチュール ゴウ
092-724-0955
福岡県福岡市中央区西中洲2-26
https://tabelog.com/fukuoka/A4001/A400102/40000160/

誰もが、手をつなげる世の中に。

僕は朝方、何度か目覚めてしまうことが多いのだけど、Kは朝までほとんど熟睡している。
眠れない時は息づかいを感じながら、「どうしてKはこんなに熟睡出来るのだろう…?」と考えることがある。(きっと何も心配することがないのだろう…)
ごくたまに、Kがふと一瞬目覚めてしまう時がある。僕がトイレに立った時に音を立てた時とか、眠れなくてスマホをいじっていて手が当たっちゃった時とか。
そんな時Kは、すかさず右手を伸ばして来て、僕の左手を探して捕まえる。
それはまるで、誰もいない真っ暗闇の宇宙の中で、たったひとつだけ自分が知っているものを捕まえるかのように。
捕まえられた僕の左手は、そのままなんとか居心地のいい場所を探して、またKが眠りに深く堕ちてゆくまで、じっとそのまま手をつないでいる。
ふたりで手をつないでいると、どこからどこまでが自分の手なのか、わからなくなってしまうことがある。
僕は、その感覚が好きだ。
飛行機に乗っている時にも、ふたりで手をつなぎたくなる時がある。
離陸する時とか、ちょっと触っていたいと本能的に感じるのだろう。
僕たちゲイや、ビアン、トランスジェンダーなどすべてのセクシュアルマイノリティが、周りを気にせず、手をつなぎたい時に、いつでも手をつなげるような世の中になったらいいなあと思う。
これから愛する福岡に、ふたりで手をつないで向かいます。

窓の猫。

朝、家を出て会社に向かう道沿いにあるマンションの部屋には、晴れていると必ず猫がいる。
飼い主はまだ寝ているのか、遮光カーテンからこちら側の窓にへばりつくように座って、日光浴をしている。
猫は寒がりだからだろうか?
先日用事があって午後早めに家に戻ったら、その時も猫は窓にへばりついたまま日向ぼっこをしていた。
マンションの部屋だけで暮らす猫の世界において、この窓側がきっと、この猫の特等席なのだろう。
窓のこちら側には、もっと広い世界があるのにな。

PAPIER LABO.

先日、渋谷からのバスに乗ってぼんやりと外を眺めていたら、小さなお店を発見したので行ってみた。
その名は『PAPIER LABO.』
千駄ヶ谷小学校の交差点にあるイトキンの隣、その小さなお店は紙を扱っているらしい。「らしい」と書いたのは、お店の中に入っていろいろ見たのだけど、未だに何屋さんなのかわからないから(この千駄ヶ谷小学校の周りって、近年どんどん雑貨屋さんが増えている)。
ノート、封筒、ポストカード、小さな鉛筆削りがあるかと思えば、活版印刷の書体ががあったりする。きっと、紙や紙の周りの文具類にまつわるものが大好きな人がはじめたお店だろう。
このお店の商品が生活になくても、きっと何も人生は困らないのだと思うけど、あればあったで生活にほんの少しユニークさが生まれるような感じなのだ。きっとオーナーの好きを形にしているお店なのだろう。
こういう、せっぱつまっていない「余白」みたいなお店って、なんだかほっとする。
★PAPIER LABO.http://papierlabo.com