forget me not

洗濯が好きだ。
よほどの雨でもない限り、ほとんど毎朝洗濯をする。
潔癖性ではないのだけど、どうやら、洗濯物籠の中に、洗っていない物が入っているのが気になるみたい。
パジャマも、ピローケースも、シーツも、ベッドで肌に触れる物はすべてリネンなので、洗濯するとすぐに乾くし、洗いたてのリネンの心地よさを想像したら、洗濯したくてうずうずする。
陽の光を浴びながら、洗濯物を干す時は、なんとも言えない幸福を感じる。
洗濯の合間に、ベランダの植物の具合をチェックする。この時期は、成長のスピードが早く、毎朝何かしら新しい発見がある。
この所の寒さのせいで、バラの開花が遅れているけど、ようやく花びらが微かに覗き出した。クレマチスも、バラと足並みを揃えるかのように、花びらが見え始めた。
ジューンベリーの足元に、ひっそりと咲いている忘れな草を見つめた。英名は、forget me not その名前ゆえ、広く愛されている花。
誰かのことを、忘れていないだろうか…

リンカーン

スピルバーグだし、超大作だし、アメリカの歴史もよく理解出来ていないので躊躇したけど、主演男優賞を取り、作品賞にもノミネートされたので、今週末に行かなかったら、きっと一生観そうもないと思い観に行った。
何も知らずに観に行ったら、リンカーンの生涯ではなく、アメリカで、長い南北戦争が終わる頃、真の意味での奴隷制度廃止に持ち込むまでの28日間に焦点を当てて描かれた作品だった。
公平、平等、自由、正義を謳い、黒人奴隷の解放を摑むまでの話なのだけど、リンカーンの仕事を描きながら私生活の苦悩や葛藤にも重きを置いている。
本来ならば、人間誰もが法の下では『平等』であるはずなのだけれども、長い歴史の中で時間をかけて、黒人が『平等』の権利を勝ち取り、その次に女性が『平等』の権利を勝ち取り、今では、同性愛者が『平等』の権利を勝ち取ろうとしている。
150年前のアメリカの人たちは、その後、アメリカの大統領に、黒人が選出されるなど思いもよらないことだろう。
(同じように、同性愛者の結婚も、やがて世界中で認められて、そのうち映画が作られるのかもしれない。本当にこんな時代があったのか???と…)
★リンカーン http://www.foxmovies.jp/lincoln-movie/sp/#/home

ハッシュパピー バスタブ島の少女

地球の温暖化により、海面が上昇し、やがて地球上から消えて無くなるバスタブ島で暮らす6歳の少女ハッシュパピーの目で見た世界のお話。
ハッシュパピーの母親は彼女を置いて出て行ったきり、酒好きで、エキセントリックで暴れん坊の父親と二人で暮らしている。沢山の動物たちに囲まれて、湿地の魚やザリガニやワタリガニやワニや鳥が彼女の食糧だ。
先生からは、『人間は、昔、オーロックスという巨大な動物たちの格好の餌になっていたが、氷河期が来て、オーロックスが絶滅して生き延びることが出来た』という神話のような話を聞いたり、『このバスタブ島がやがて無くなる時が来る。それでもあなたたちは、生き抜かなければいけない』などと教えられる。
この映画の主題をあえて言葉にすると、
『目の前の、信じていたものがある日突然無くなることがある。不死身だと思っていた愛する父親も、不死身では無かったと知る時に、6歳の少女ハッシュパピーは、現実とどう向き合い、理解して生き抜いてゆくのか…』ということだろうか。
6歳の少女の目で見る自然の世界と、大人たちの世界が、手持ちのカメラのような揺れるフレームに収められ、それがファンタジーなのか現実の世界の話なのか、境界が分からなくなる不思議な実験的映画。
★ハッシュパピー バスタブ島の少女 http://www.bathtub-movie.jp/sp/

カルテット! 人生のオペラハウス

大好きな、マギー・スミスが出ていると言うので、『カルテット!』を観に行った。名優ダスティン・ホフマンが、はじめて監督およびプロデュースをした今作は、期待を上回る出来だった。
人生の晩秋を迎えた音楽家たちが、集まって暮らす老人ホーム。その老人ホームの存続のために、もう一度かつての大スターたちが、ジュゼッペ・ヴェルディ作リゴレットのカルテットを歌うという話。
ヴェルディと言えば、老人の音楽家たちのために私財をつぎ込んで『憩いの家』というものをミラノ郊外に建てたことで知られているが、この映画も、『憩いの家』が元になっているのだろう。
イギリスののどかな田舎の田園風景に、老人たちの暮らしが微笑ましい。マギー・スミスは、昔は大スターだったというだけあって、ビッチな役柄で、まるで年老いたゲイそのものだった。
全編を通じて、音楽が中心に構成されている。ソプラノのデイム・ギネス・ジョーンズを始め、本物の音楽家が多数出演、椿姫の『BRINDISI』や、トスカの『vissi d’arte』、リゴレットのカルテットなど、大好きな曲のオンパレード。
人生には、過去の出来事に対する感情をなかったもののように封じ込めることで、なんとか今の人生を送って来れたようなことがある。
過去の負の感情と折り合いをつけることは、人間にとって、とても難しいことだ。でも、もし、「人を赦す」ということが出来たら、世界はまた違ってくるのかもしれない。
ダスティン・ホフマンは、単なる老人映画を作ったのではなく、今回この映画で、人間が抱えて生きる感情や誇りを丁寧に描き出している。
★カルテット!人生のオペラハウス http://quartet.gaga.ne.jp/

なんじゃもんじゃの木。

桜が終わると、外苑では雪を思わせるような真っ白な
『なんじゃもんじゃの木』が咲き始める。
高校の頃から、外苑の道の所々で見かけていたけど、
この植物は、あまり他で見るケースは少ないように思う。
調べてみると、この「ひとつばたご」という名前の植物が、
なんじゃもんじゃと名付けられた由来が、
この外苑のなんじゃもんじゃの木だったらしい。
鮮やかな緑に、プロペラ型の白い花をたくさん咲かせ、
間もなくすると、辺り中に花びらを、真っ白な雪が降るように散らす。
伊豆の修善寺にも、
確か大きななんじゃもんじゃの木があったように思うけど、
この花でさえ、咲いているのはきっと2週間あるかないか。
季節はとどまることなく、流れ続けている。
ゆく春も、夏の気配も、見逃すことのないように。

LADIES&GENTLEMEN

伊勢丹に、12月に本格的なビストロ&カフェが出来て話題になっていたけど、週末はいつも混んでいて入れずにいた。
今日は昼間に新宿にいたので、ようやく3階のメンズ館寄りの『LADIES&GENTLEMEN』に行くことが出来た。
伊勢丹でちょっとお茶をしようと思ったら、いつもメンズ館八階にある『rejiig』に行っていたけど、これからは、この本館三階の『LADIES&GENTLEMEN』もいいかもしれない。
ただ、評判の割に、食事は普通だった。いい値段取るのだからもう一工夫欲しいところ。ステーキやハンバーグがまだいいかもしれない。パスタは勧めない。ケーキは、サダハルアオキらしいけど、僕には関係ないかな…(^_^;)
一番いいのは、カフェとしての居心地のよさ。そして、店内のポートレイトが素晴らしい。ドイツ人のカメラマンらしいけど、世界にもこれらのプリントは、枚数がそんなに無いらしい。
伊勢丹の今回の大改装で、アートという軸が全館を通じて感じられるけど、このビストロカフェもその一つ。家のそばにあったら、いいなあと思えるようなカフェ。
★LADIES&GENTLEMENhttp://tabelog.com/tokyo/A1304/A130401/13150191/

あるもの。ないもの。

生きていると、色々なことがある。
多くのものを得たことは確かだけど、
多くのものを失ったことも確かだろう。
時には、失ったものや、ないものに思いを馳せるのも、
人間らしくていいと思う。
でも、それに焦点を当てすぎると、人生が息苦しく、
暗澹たるものに思えるから不思議だ。
出来ればどんな時でも、
今、自分の周りにあるものや、自分が得たものに、
感謝出来るような心でありたい。
それが、時にはとても難しいことなのだけれども。

路上のGマークの謎。

謎のGマーク

Rが見つけた、到着と出発の絵が逆な上海空港

台湾人のRが、僕と道を歩く時に、いつも下を見るので、どうしたのかと聞くと、
「地面のいろいろなところに、緑か赤で、Gと書いてあるサインがあるけど、Tは、そのGの意味を知ってるか?」と僕に問いかける。
確かに、今まで注意したことはないけど、東京の町中至る所の地面に、Gという文字が書いてある。
「これは、後でgoogleで調べることにしよう」Rはそう言って、その謎を突き止めた。
それは、ガス管のある場所を示しているようだ。だから、Gなのだ。
Rは、一事が万事そんな感じで物事を見ている。
R「台北のモスバーガーと、東京のモスバーガーのロゴの色が、東京は緑だけど、台北は赤なのはどうしてなのか、Tは知ってるか?」
僕「その違いに気づきもしないし、僕にとってはどっちでもいいよ。台湾が赤が好きなんじゃないの?」
R「新幹線で、駅に着く時に、いつも流れるあの曲を知りたい…昔、聴いた曲だと思うけど、Tは知ってるか?」
僕「山口百恵の曲だと思うけど…」
一緒に過ごしていると、Rはまるで、好奇心旺盛な子どものように、質問攻撃を浴びせてくる。
それが時々鬱陶しいのだけど、見方を変えると、とても面白い視点を持っていると思える。
今度はいつ会えるのか分からないけど、また会った時に、Rが貯めていた様々な謎や疑問を解き明かした報告をしてくれるに違いない。

25歳の旅人。

家のそばで咲いていた斑入りのツルニチニチソウ

先日もここに書いた、台湾の友人Rが、明日台北に帰るので、一緒に新宿二丁目の『いまゐ』で、和食を。ここは新宿近辺で僕が一番よく行く割烹料理屋さん。
彼の両親の話から、友人の話。僕の父の亡くなる時の話や、僕の前の恋人、そして、今の恋人の話など、話は尽きない。
Rはほとんど日本語を話せないけど、英語で内容が込み入っていても、彼とは何故か分かり合える。前から知っているような家族に似た感覚があるからだろう。
今は台湾での兵役を終えて、夏からまたカナダの大学院に戻るまでの間、一ヶ月以上をかけて世界中を旅行している最中。
トランク一つで、ハッキリとした予定も決めずに、所々で友人の家に泊めてもらったりしながら成り行き任せの旅を楽しんでいる。
そんな25歳のRを見ていると、何も持たず、何にも縛られず、お金のことなど気に留めず、自由に生きている姿が、僕には羨ましく思える。
歩きながら彼が急に聞いて来た。10年後あなたは何をしていますか?
僕「そうだな…次の仕事のことを考えていると思う…Rは?」
R「僕は、柴犬か、秋田犬がいたらいいな…」
R「アパートで暮らしていて、犬と一緒で、恋人はいてもいなくてもいいかな…」
僕「どこに住んでるの?」
R「多分、カナダか、アメリカか、アジアは、年をとったら暮らしてもいいかな…Tも遊びに来てくださいね」
外交官になるという夢に胸を膨らませている彼の見つめている未来は、眩いばかりに光が差し込んでいる。
★いまゐhttp://s.tabelog.com/tokyo/A1304/A130401/13130365/

ブルーノのしあわせガイド

このところ、イタリア映画が色々と公開されている。『ブルーノのしあわせガイド』は、昨年イタリア映画祭で上映したようだけど、僕は旅行で見逃していた。
髪が白髪になりかけたブルーノは、昔は学校の教師をしていたが、今は執筆業の傍、個人的に生徒を自宅で教えている。
勝手気儘に生きる独身のブルーノと、15歳の若者ルカは、もともと個人教師と生徒の関係だったが、ひょんなことから二人で同居生活を強いられる羽目になる。
このブルーノが、とてもいい役者で、不思議な味を出している。
仕事にも、お金にも、女にも執着することなく、その日の気分で気ままに生きていて、そんな暮らし方に共感してしまう。
誰の人生も、同じ状態が永遠に続くことなどないように、ブルーノの生活も、ルカが入り込むことによって変化が起こり始める…
こんな、特に事件も起こらないなんでもないイタリア映画を観ている時が、僕にとっては至福の時だ。
★ブルーノのしあわせガイドhttp://www.alcine-terran.com/bruno/