我が家の紅葉。

我が家の前には、55段の階段があり、右左に折れ曲がって続いている。

そして家の前には栗、クヌギ、どんぐりなどの大木があって、大きなもみじも二本天を仰ぐように枝を広げ、樹々の向こうには山々が連なっている。

家のもみじ

この家に決めた理由は、その樹々に囲まれて暮らす窓からの景色が美しかったから。

緑色だったもみじの葉っぱは、今や錦繍のように複雑な色で染まってきている。

最終の新幹線。

日曜日、午前中はKと一緒に湯河原まで買い物に行きランチを食べ、午後からは東京で撮影があり、撮影が目黒で終わったのは22時を超えていた。

東京に泊まるならば、どこかホテルを取れば今ならGO TOキャンペーンで安く泊まることができる。迷うところだけど僕は一目散に品川駅を目指し、最終の新幹線に乗った。

Kは医療の仕事をしていて朝が早いので、「先に寝ていていいからね。タクシーで帰るから」と伝えてレモンサワーを飲みながら、ほんの35分くらいで熱海駅に着いた。

最終の新幹線は人もまばら

熱海駅の改札を降りると、Kが車で迎えに来てくれていた。

僕「寝てればよかったのに・・・」

K「いつも一緒です」

寒い中、わざわざ車で迎えに来てくれたことがありがたく、とても嬉しかった。

町内会の清掃。

熱海に引っ越してきてから、右隣と右斜め前、そして右隣の隣にも挨拶に行った。彼らはだいたい60代から70代。

左側には山がありその向こうに一軒家があるけど、そこは高齢のおばあさんが痴呆症とのことで何度行っても人のいる気配はないので諦めた。

熱海の町も日本の多くの町が抱える問題と同じで、高齢化が進んでいる。

家の呼び鈴が鳴ったので誰かと思って出ると、お隣のおじさんだった。

「こんにちは。先日お話しした町内会の清掃の件なんですが、年に2回くらいみんなでやってるんですよ。もし可能ならご参加願えないかと思って・・・」

「あ、もちろんいいですよ。またその時期になったら教えていただけますか?」

「よかった!ここはもう僕たちのような老人ばっかりだから、若い人が来てくれてみんな喜んでるんですよ。ほんと良かった」

清掃の件はKが階段の下で道路を掃いている時におじさんに誘われていたようですぐに承知したのだけど、Kが意外とご近所さんと挨拶をしたり立ち話をしているので少し驚いている。

ご近所のおじさんおばさんは、僕とKのことをどう思っているのだろうか?とも思う。清掃をしてお話しする機会があったら、何も包み隠さずに僕たちの関係を言ってしまおうと思っている。

そこまで詮索してくる人がいるかはわからないけど、僕たちはもう、このままで生きて行くのだ。

熱海の住民は、ゲイカップルのことをどう思うのだろうか?

虫や獣との生活。

熱海の山に住むということは、自然の中に住む贅沢を享受するということ。それと当時に虫や獣とともに暮らすということでもあった。

この家を見に来た時に驚いたことは、蜘蛛の大きさだった。まるでスパイダーマンに出て来そうな大きな蜘蛛がそこら中に巣を作っていたのだ。

暮らし初めてわかったことは、日本家屋のそこかしこの隙間から、様々な虫が家の中に入ってくること。

一番多いのは、ヤスデで、ヤスデを見かけるのは毎日のこと。ヤスデはおとなしく、嫌なことはその臭いくらい。ゲジゲジは大きくて気持ち悪いけど、人間に悪いことはしないというのも学んだ。時々、ムカデを見ることがあって、これは人間に害があるので用心しなければならない。(虫の写真は、とても気持ち悪いのでここでは割愛しておきますね)

庭には夜になるとイノシシが出てくるようで、近所の庭はイノシシに荒らされて、植えたばかりの球根や植物を食べられてしまうと言っていた。一度夜に帰って来た時に、草陰で獣が動く音がしてちょっと怖かったこともあった。

翌朝見たら、植えたばかりの山椒の苗木の根元を掘り返していた。僕が新しく植えた木が、獣にはわかるのだろう。

都会での暮らしとは全く違う山の中の暮らしは、こうした不便なことやちょっと怖い虫や獣との共生があるのだけど、今のところそうした何もかもひっくるめて、毎日が楽しい驚きに満ちているのだ。

熱海の紅葉。

今週は、二泊三日で東京で仕事をして木曜日に熱海に帰り、土曜日からまた二泊三日で東京に滞在する。

熱海に引っ越したのに、ゆっくりと落ち着いて熱海で過ごす暇もなく、新幹線で行ったり来たりを繰り返している。幸い、GO TOキャンペーンのおかげで東京のホテルがとても安く、おまけにクーポン券までもらえるのでちょっと得した気分。

家から熱海駅に行くには、山から降りてバス停でバスを待ち、バスで15分くらいして熱海駅に着く。帰りもすぐにバスがあるわけではなく、1時間に2本くらいのバスをのんびりと待つ。昨日は来宮駅まで一駅乗って、それからバスで5分くらい乗って山道を登り帰ってきた。

暖かい今週でも、2・3日家を空けると紅葉が進んでいるのがわかる。引っ越した我が家にはもみじの大木が2本あって、そのもみじがゆっくりと紅葉してゆく様を見ているのは、なんとも贅沢なものだ。

庭のもみじ


忙しい毎日の中でも、熱海の空気を吸うとホッとする。遠くに海が見えて、山々も少しずつ紅葉してゆくのが見える。

東京の暮らしでは味わえなかった日常が、ここにはあるのだ。

離れて感じる東京の町。

7月の終わりから続いていたCMの3連作のうちの第1作の撮影が、今日行われた。

撮影時間は朝の7時から。熱海からではどうしても現地に行くのが8時になってしまうため、前日に東京の青山のホテルに泊まることにした。今日は撮影を深夜までして、今度は銀座のホテルに泊まる。

現場では様々なトラブルも起こったものの、とても綺麗な映像が撮影できた。クリエイティブの作業の責任者なので、今回の作業は自分でも思った以上に心労の重なる作業だったけど、なんとか無事に撮影まで漕ぎ着けることができた。

撮影が終わって深夜の銀座の町を歩きながら、「東京にはもう自分の家はないけど、あったかいなあ」と思ったのだ。

それは昨日、青山を歩いていても感じたこと。僕は熱海に住み始めたら、たとえ住み慣れた青山に来ても東京の町はよそよそしいんじゃないかと思っていたのだ。なんというか、もう帰る場所ではなくなってしまった他人の町のような感覚。


でも、そう思っていたのとは裏腹に、いつもと変わらず高校時代から僕が過ごした住み慣れた温かな空気がそのまま感じられた。

家などなくなってしまったとしても、東京は自分の町であることに変わりはなかったのだ。

ご近所づきあい。

引越しの荷解きも、荷造りと同様、結局ほとんどKがやってくれた。

僕はテーブルで仕事をしながら、時々Kが何をやっているか確かめる。

朝、外に出ていくKを見ていたら、階段の下に降りて箒で落ち葉を拾い集めていた。

少ししたら斜め向かいの家のおじさんと世間話をしているのが聞こえた。

「落ち葉を拾うのは大変ですねー」

僕たちは、右隣とその隣、そして右斜め向かいのご近所には挨拶に行った。

僕たちの関係を聞いてくる人はいなくて、「若い人が来てくれてうれしいわ」というような言葉が聞けた。

もしかしたらご近所さんは、僕たち男二人で住んでいることを訝しがっているのかもしれないけど、今のところそんなムードは漂ってこない。

ここが山の中で、空き家も多いので他の家のことなど詮索しないからかもしれない。

田舎に住むと、人間関係が煩わしいなどと移住の本などに書いてあるが、今のところ幸いゲイカップルを詮索する人たちもいなくてホッとしている。

海が見える暮らし。

我が家からは、周りの木々が落葉している間、ほんの少し遠くに海が見える。

でも、家の周りを歩いていると、ところどころで海が遠くに見える。

山の上なので、海から水平線までの幅が大きく、あんなに高くまで海が続いているのが不思議に感じてしまうこともある。

遠くに海が見える毎日は、自分がまあるい地球の上に暮しているということを思い出させてくれる。

子犬を見学に、奈良へ。

生後25日くらいのスタンダードプードル。

スタンダードプードルは日本ではまだ1000頭くらいしか飼育されていないようで、なかなかいいタイミングで子犬を見つけるのは難しそうだ。

子犬を手に入れるには、保護犬などを除くと大きくは2通りある。一つはペットショップで手に入れる。もう一つはブリーダーという人から手に入れる。今回僕たちは、ちゃんとしたブリーダーから手に入れようと思い、全国のブリーダーの中からスタンダードプードルを飼育しているブリーダーをチェックして時々覗いていた。

そんなある日、引っ越し準備をしながら覗いていた夜に、奈良のブリーダーに子どもが生まれたのを発見した。それも掲載当日に。

僕は、ちょっと仕事で疲れていたのと酔っ払っていたせいもあり、「この子犬にしよう!」とKに声をかけ、その中から一番おっとりしていそうな黒い子犬をいただきたいとメッセージを送った。すると間も無くブリーダーからメッセージが入り、ブリーダーとのやりとりが毎日のように始まったのだ。

そして引っ越しも済み、仕事も少し落ち着いてきたので、生後1ヶ月近く経った子犬を見学に行くことにした。

自宅を出たのは10時。京都まで新幹線で行き、奈良のブリーダーの家についたのは15時。奈良までは思った以上に遠くおよそ5時間かかった。

ブリーダーにいろいろな質問をしながら、大型犬を飼う注意点なんかを聞くことができた。実際に成犬を見ると、中に人間が入っているんじゃないか?と思うほど大きくて驚いた。

子犬はとてもかわいく、子犬を抱いているKがとても幸せそうに見えた。

犬を飼うことは、僕の中でももう少し後で良いかなと思うところもあり、実際には迷っている部分もあったのだけど、こうして子犬を実際に見ることで、「ここで思い切って飼ってしまってもいいかも」と思えたのだ。

人生、まずはトライしてみて、不都合があればその都度考えていけばよいではないか。まずは初めて見ること。こうして間も無く我が家には、新しい家族が加わることになった。

初の新幹線通勤。

仕事の打ち合わせが東京であるので、Kに車で熱海まで送ってもらい、新幹線に飛び乗った。

熱海からは新幹線こだまの自由席。熱海から品川は40分くらい(夜は35分くらいの時もある)。ぼんやりしているとすぐに品川に着いた。

仕事の前に、原宿に行き、今まで住んでいた家の明け渡しをして、そのまま銀座と赤坂で打ち合わせを終えた。

赤坂見附から家に帰ろうと思ったら、今までは銀座線を渋谷に向かって帰っていたのに、これからは銀座線を銀座方向に向かうのだと思い、愛する青山や外苑前も遠くなるな・・・と思った。

新幹線で戻る途中、Kが迎えにきてくれるというので熱海駅で待ち合わせ。夜になってしまいスーパーに行くのも面倒なので、駅で静岡の野菜と鯵の干物を買った。

久しぶりに家で作る白いご飯と鯵の干物、小松菜の煮浸し、だし巻き卵、なめこ汁。こんな料理が心底美味しかった。今まで引っ越し期間は外食や買ってきた食事が多く、朝はパンが続いていたのだ。

「人間の体は、新幹線の速度に対応できているのだろうか?」と思う。40分くらい新幹線に乗っていてもそれほど疲れない気もするけど、1日働いて往復新幹線で帰ってくる頃には、細胞レベルで疲労感がある気がしたのだ。

それをしてでも、帰ってきて山の空気を吸い込むと、この山々に囲まれた暮らしを始めて、とても良かったと思えるのだ。