走る海。

宮古島にはドッグランは一つしかないようだけど、大きな広場のある公園がいくつかあって、ドッグランに行けない日にはそんな広場で海と遊ぶようにしている。

普段の散歩ではせいぜい早歩きくらいしかしないけど、20mのロングリードをつけて海を放つと、全身で喜びを表しながら鹿のように飛び跳ねるように原っぱをかけていく。


僕たちが別の方向に走ると、吠えながら追いかけてきて先回りをする。自分の方が早いんだよとでも言うかのように。

20mもリードがあるとかなり自由に走り回れるので、しばらく走り回ると息を切らせてしゃがんで休んでしまう。

自由に走り回る海を見ながら、広々とした自然のある離島に越してきて、本当によかったと思うのだ。

宮古島熱帯植物園。

宮古島には熱帯植物園があって、ワンちゃんも入ることができるというので、海を連れて行ってみることにした。

場所は大体島の真ん中にあるホームセンター「メイクマン」を上に上がったところ。

入場無料で中に入ってびっくりしたのだけど、植わっている植物がまるで東南アジアやオーストラリアに来たような見たこともない植物だらけなのだ。


ここでは宮古馬も飼育されていて近くで馬を見ることもできる。

まだ暑くならない天気のいい日に、ピクニックするにはとてもいい場所だ。

植物の手入れがとても丁寧にされているのは、沖縄県から補助が出ているのだろうか?と思うほど、豊かな環境だった。

さとうきび畑のおじいと立ち話。

海の散歩をしていると、畑作業をしているおじいやおばあが声をかけてくる。

「大きい犬だねえ・・・」「高そうな犬だねえ・・・」「熊かと思った!」

時々暇なのか長話をしたがるおじいが一人いて、自分が若かった頃の話をしはじめる。

「俺はさ、若い時に親にも反対されたんだけど、農家をやりたくなくて、焼津港から船に乗ってマグロ漁をしながら世界一周したんだ」

「へー、おじいすごいですね・・・そんな昔に世界一周なんて」

「スエズ運河は渡れなくて他の運河を渡ったんだけどさ・・・イタリアもサルデニアに行ったさ・・・」

「あ、僕もサルデニアには行ったことあります・・・トラーパニがマグロ漁してますね」

「みんな反対したんだけどさ・・・俺は押し切って行ったさ・・・」

おじいはそんな話をしながらニコニコ笑っている。

宮古島の人は移住者の僕たちにもすぐに話しかけてくる人が多い。

ただ、おじいの話は長くて、同じ話を何度もするし、なかなか解放してくれないのが今の悩み。

夜中の猫の声。

夜寝ていると、時々近くで猫が盛っているような鳴き声が聞こえる。それは盛りがついた猫が相手を求めて泣いているような鳴き声。

でも、何度もその鳴き声を聞きながら、今まで一度たりとも家の周りで野良猫を見かけたことがなかったのだ。

猫はもしかしたら夜中だけ家の周りを徘徊しては、朝になるとどこかに帰っていくのだろうか?

そのうちにあまりにも猫の姿など見えないことがおかしいと感じたKが、ネットで鳴き声を調べ始めた。

その結果、鳴き声の主はおそらく孔雀なのではないかという結論に至った。

孔雀の鳴き声はたくさんのパターンがあって判別しづらいけど、ほとんど猫のような声で泣いている音録が見つかったのだった。

孔雀は普段は人間を恐れているため藪の中に隠れているけど、人気のない夜中にはきっと僕たちの家のそばまで徘徊していて、人知れず自ユニ鳴き声をあげているようだった。

夜中の孔雀はまだ見たことはないけど声の主がわかったので、これで一安心して眠れる。

解体のはじまり。

先週は1週間、大工さんが来ることがなく、見積もりを作っているとのことだった。

休み明けの今日8時に、大工さんたちはものすごい勢いで現れて、廊下にドアで塀を作り、天井や床を解体しはじめた。

時々家が壊れてしまうのではないかというほどの音を立てながら、解体作業は進んでゆく。

天井を取っ払って出来るだけ高くして解放感のある部屋にしたいと言うと、一生懸命方法を考えてくれる。

僕達がリフォームをお願いしている大工さんは、大手のリフォーム業者さんとは違ってとても寡黙な職人肌でなかなか見積りも上がってこなかったりするけど、着実に少しずつ美しい施設になるようにリフォーム工事を進めてくれている。

水道の配管、電気工事、壁はどうするか、天井はどうするか、床はどうするか、電気の位置はどこにいくつ必要か、次から次へと決めなければいけないことが出てくる。

焦らずに、一つひとつ僕たちの理想形に近づいていけますように。

トゥリバー。

宮古島のパイナガマビーチのそばに、トゥリバーという場所がある。

トゥリバーは、埋立地で白い砂浜があって伊良部島に続く伊良部大橋が見える。

それに目をつけたのか、ヒルトンが8階建てのホテルを建築中で、この辺り一体はいずれ与那覇前浜のようなリゾート地になることを目論んでいるのがわかる。

僕たちはここを、時々海を連れて散歩に行くことがある。

人があまりいないので、海のリードをロングリードにしても迷惑をかけないからだ。

でも、手すりから見える海はいつも荒れていて、ここに間違って落ちたらものすごい勢いで流されてしまうだろうなと思う。

地元の人はこの場所はヘドロのように澱んでいるのを知っているから、ここで泳ぐことはないと言っていた。

ヒルトンは白い砂浜を敷き詰めて美しいビーチを作るつもりだろうけど、いったいどうなることやら。

宮古島はずっとリゾート開発が盛んで、今後この島の美しい自然がきちんと守られていくのか、心配してある人はとても多くて、僕もその中の一人になってしまった。

宮古島の自然を守っていくために、僕たちに出来ることがあれば力になりたいと思う。

花を愛でる人。

夕方、門のところで海の散歩に出かけようとしていたら、向こうから野菜を買ったであろうおばちゃんが、電動車椅子で歩いて来た。

そして僕たちの家の前に差し掛かった時にこう言ったのだ。

「この花たち、ほんとにかわいいねえ…元気がもらえる」

不意に言われた言葉がうれしく、明るい気持ちになった。

県道の大木がなくなった場所に、勝手に自分たちで植えた小さな草花を、この道を通りかかったおばさんが誉めてくれるなんて、なんでうれしいことだろう。

花はなんの理由もなく咲いているのだけど、たったそれだけで周りの人に確かに力を与えてくれているのだ。

公正証書遺言。

僕たちゲイカップルは、この国では結婚がまだ認められていないから、たとえば僕が病気や事故で倒れた時に、パートナーであるKを家族と認めるか認めないかは病院の判断によってしまう。また、僕が先に亡くなった時に、Kに遺産を残してあげることは出来ない。

こうした不安をすべて解消してくれるのは、今の法制度の中でやるのは「養子縁組」しかないのだけど、「公正証書遺言」を作っておくと、法的に遺産を残すことが出来る。

でも僕たちがそれを作るには、行政書士に頼んだら、公証役場に行って手続きをするため10万円から20万円近いお金が必要になるのだ。

男女の夫婦であればこんなお金もかからないし心配する必要もないものを、なぜ僕たちだけがこんな理不尽な目に遭わなければならないのか、本当のところ僕は納得がいかない。

でもどんな手を使ってでもKを守らなければならないと思ったら、お金を払ってでも公正証書を作っておいた方が良いかと思い、現在行政書士に相談をしているところ。

裁判での本人尋問においては、僕たちだけが公正証書を作らなければならないなんて平等ではないと言っていたのだけど、結局パートナーを守ることが出来なかったら、死んでも死に切れないではないか。

これからの若い人たちがこんな理不尽な目に遭わないためにも、一日でも早い同性婚の実現が必要なのだと思うのだ。

ブーゲンビレア

家の門の裏側に、引越しだて来た時から鉢に植ったブーゲンビレアが沢山置かれていた。

僕が察するに、花屋さんで綺麗に咲いているブーゲンビレアを買って家に持ち帰っては、面倒なのでそのまま植え替えることもなく放置していて、置き場に困って門の裏に置きっぱなしにし、また次にも綺麗に咲いているブーゲンビレアを見て衝動買いをして…を繰り返していたような気がする。

全部で5鉢もある大きなブーゲンビレアは、それぞれ鉢の底から根を出していて、ちょっとやそっとでは動かすことができずどうしたものかと考えていた。

今日は奮い立って、なんとかかわいそうなブーゲンビレアを植え替えようと、Kと2人必死で鉢を動かしてみた。(ずっと今までブーゲンビリアだと思っていたのだけど、こちらに来てビレアと書かれていて正確な名前を知った)

ブーゲンビレアは棘のある植物で、大きな枝の棘は凶暴で、半袖を着ていた僕は腕のあちこちを切られてしまった。

それでも、地中に深く張った根をなんとか切り崩し、無事に5鉢すべてのブーゲンビレアを救出することになり成功した。

どのブーゲンビレアも鉢の中いっぱいに根を張り、枝葉をすっかり落として元気がなくなっていたのだけど、まずは大きな3鉢を穴を掘って植え付けることができた。

これからゆっくりと根付いてくれたら、今以上にもっと大きく成長して、沢山の花を咲かせてくれるに違いない。

本の問題。

熱海の家から運んだ本は、ダンボール16箱になっていた。

それらのダンボールは引越ししてからそのまま、開けることなく廊下に積み上げられたままだった。

引越しの荷解きが少しずつ進み、荷物も片付いて来たので、思い切って本のダンボールをすべて開けて、本棚にしまってみようとやりはじめた。

この日のために、熱海にいる時に買ったまま熱海では開けることなくそのまま宮古島に運ばれた本棚を組み立てて、上から順番に本を読む並べていく。

途中で、すべての本が並ぶスペースはないと思ったのだけど、とにかくすべての本は取り敢えず出し終えてそれぞれなんとかしまうことが出来た。

あとは、これ以上増やさないように、買ったら捨てるようにするつもり。