和歌山に来たのは、Nのお墓参りを兼ねてのことだった。
Nとは、僕が29歳から10年間つきあった人で、10年間で別れた後、数年後に病気で亡くなったのだった。
4月5日はNの命日。桜が咲く頃になるとNの太陽のような笑顔を思い出す。
昨年もKと一緒にお墓参りに来たのだけど、今年は海を連れてのお墓参りになった。
線香をあげて、墓前で両手を合わせる。
Nに完全に愛されていたこと。
Nを心の底から愛していたこと。
その記憶は薄れることなく、誰も奪うことはできない。
誰かを愛して、誰かに愛されていたという確かな記憶は、僕の生命をいつも温かく包んでくれている。