33年目のカーディガン。

「カーディガンの修理が出来上がりました」
洋服の修理屋さんから電話をもらって取りに行ったのは、以前にもここに載せたことのある青いカーディガン。
僕が、高校時代に好きだった洋服屋さんは、六本木にあったエミスフェールというお店と同じ系列店で青山にあったハリスというお店で、このカーディガンはハリスで買ったのだった。
このカーディガンを着て、チノパンを履いて、ブレディのバッグを持って、オールデンの靴を履いて、原宿を歩いていた時に写真を撮られて、POPEYEという雑誌に載ったこともあった。
33年経って、今でも同じ服を着て同じブランドの鞄を持って同じブランドの靴を履いているのだから、人間なんて、年月ではそう変わらないものなのだと思う。こんな風に美術学校の学生時代の頃から、鮮やかな服が好きだったのだ。
このカーディガンの両方の袖の裾がほつれて、修理屋さんに持っていって見積もりの電話があった時に、ちょっと金額に驚いたのだ。
「9000円に、消費税になります」
「えええ!そんなに高いんですか?」
「珍しい色なので、中の余っている部分から糸を引っ張り出しますので…」
「わかりました。お願いします」
1万円あれば、今やカーディガンなんてファストファッションで2つ3つ買えそうな額だけど、修理して戻って来たカーディガンを持った時に、「やっぱりこのカーディガンなんだよな…」と思った。
このカーディガンを着て、いったいどれくらい沢山の旅をしたことだろうか。
このカーディガンを着て、浪人時代の憂鬱な時を、仲間たちと過ごしたのだ。
今となってはこのカーディガンは、世界にひとつしかないものなのだ。

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