婚姻届を提出にいく。

今日は会社を休んで、朝から何を着ていこうかと思いめぐらせ、Kと僕の洋服を選んだ。
Kは、成人式で買った一張羅のスーツを着ることにして、僕はKと合わせるために紺のブレザーを選んだ。
靴は僕は茶色オールデンを履き、Kは僕の黒のオールデン。マフラーも僕は水色のにしてKは浅葱色のマフラーにした。
渋谷区役所へ向かうタクシーの中で、Kは手を伸ばしてきて僕の手を握りしめた。婚姻届を出しに行く日なんて、きっと人生の中でも一度くらいしかないだろう。
区役所には早めに着いて、Kが保険証などの所用を先に済ませて、やがて弁護士さんや渋谷区役所の友人たちが集まってきた。
僕たちが婚姻届を出すことは、取材は入らないものの、あらかじめ渋谷区役所側には伝えておいたのだ。
3階の受付に行き、端っこの席に通された。周りの人たちにあまり目立たないようにとの区役所側の判断のようだ。
区役所の人は、婚姻届を細かくチェックして、届け出の日にちなどの足りないところはボールペンで書き足した。
一旦書類を奥へ持っていき、帰ってきた職員さんは僕たちにこう言った。
「男性同士の婚姻は認められていませんので、不受理届けを発行させていただきます」
「わかりました。それでは、よろしくお願いいたします」
僕たちは、不受理届けを郵送にしてもらうことにして、区役所への提出はあっさりと終わった。
渋谷区役所の外で記念撮影を撮りながら、僕は心の中どこかで言いようのない淋しさを感じていた。
一生に一度の婚姻届のつもりで、僕とKはやってきたのだ。不受理だとわかっていても、男女の結婚に対して僕たちの関係が劣ったもののように感じられたであろうことが淋しかった。
僕たち以外にもう誰も、こんな淋しさを味わって欲しくないと思った。

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