たいせつな人の傷。

成田エクスプレスを降りる時に、棚の下段に置いた重たい方の僕のオレンジのトランクをKが持って来てくれるだろうと、僕はKの少し軽い紺のトランクを中段から取って先に電車を降りた。
少しして降りる人の後からKが降りて来た。
エスカレーターに向かって歩いていたら、突然Kが叫んだ。
「ただしくん、手が切れたみたい」
見ると、Kの右手の甲が、荷物を取り出す時にトランクの上の金属に擦ったようで、縦に皮膚が剥がれ出血していた。
成田空港で薬局を探して絆創膏を買い、トイレで血を洗い流してKの手に絆創膏を貼りながら思った。
「僕の手だったらよかったのに・・・」
金属に擦られて手が切れたとしても、僕のゴツゴツした手ならば、傷ついていても大して目立たない。それに比べてKの手は、手タレなように綺麗な手なので、傷を見るたびに後悔している。
「僕がオレンジのトランクを取ればよかった」と。
自分のたいせつな人が傷つくのならば、自分が傷ついた方がよいと思う。
父や母も、僕たちを育てながら、そんなことを何度も思ったに違いない。
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