競合プレゼン。

急に、新規の競合作業を頼まれた。
僕に仕事を頼んだ上司は、
「プレゼンは一週間後なんだ、よろしく!」
と言った後、言いづらそうに、
「僕は、明日からニューヨークに遊びに行くんで、全部やっといてくれるかな?」
と、申し訳なさそうに言った。
一緒に仕事をすることになったのは、3年目のコピーライターのKO。実は、前からかわいいと思っていたのだ。
はじめての打ち合わせの時にKOは、僕に向かって言った。
「あのー、同期のY知ってるんですね!
Yから聞きました。
僕とYは、研修の時に同じ班で、Yの全然包み隠さないおかまキャラに、こいつスゴイなと思ったんです」
そこまで聞いて、「あ、バレてるんだ…」と思い、KOに対してドキドキする代わりに、かえって仕事がやりやすくなったような気がした(笑)。
KO自身のセクシュアリティには触れて来なかったけど、ゲイに対して偏見はなく、むしろちょっと面白いと思っている今時の男の子な感じだった。
打ち合わせをしながら思ったことなのだけど、かわいいなあと好感を持っている子との打ち合わせは、思いの外楽しく、このままいくらでも打ち合わせをしていられるような気分になっていたのだ。
1週間後のプレゼンまでに、アイデアをなんとか振り絞り、ストーリーを組み立てて、KOと一緒にプレゼンをすると、クライアントはところどころでゲラゲラ笑った。
ちょっと抜けている僕と、しっかり者の今時のKOのちぐはぐな感じが、もしかしたら好感を持たれたのかもしれない。
そして翌日の夕方に、競合プレゼンに勝つことが出来たことがわかった。
今までにも僕は、大きな競合作業を沢山こなしてきた。中には、大きなキャンペーンだったり、巨大な額を動かすような仕事もあった。
そんな時には決まって、
「どうしてもこの仕事を勝ち取らなければならない…
なんとしてでも、どんな手を使ってでも、週末の休み中頭を使って、相手の思いつかないようなアイデアを思いつかなければ…」
そんな風に気負ったものだった。(僕の勤めている会社のクリエーティブにいる以上、誰もがそんな風に自分を追い込みながら生きているのだと思う)
でも今は、できる限りの努力をした後は、どこか運を天に任せるようになったのだ。
「なんとしてでも勝ちたい。いや、勝たなければ…」
という必死な願いから、
「結構楽しい企画が出来たし、勝てたらラッキーだな…」
という、ちょっと他人事のような余裕が出来るようになったのだ。
すると、以前にも増して、競合の仕事を掴むことが出来るようになった。
今までの人生を振り返ってみると、こういうことは意外とあることに気づいたのだ。
「何かを手に入れようと、必死になって願うと、決して手に入らなかったものが、ふと力を抜いて、手に入ったらラッキーだな…くらいに思ってその願い自体さえ忘れてしまっていると、気づいたらそれを手に入れていた」
というようなことが、起こるのだった。
人生とは、なんと不思議なものだろうか。

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