バス停のおじさん。

渋谷駅のバス停に、おじさんはいる。
時々、渋谷の駅から、家に向かって明治通りを走る池86番のバスに乗る時に、そのおじさんはバス停でガードマンのようなことをしている。
おじさんと言っても、年は55歳くらいから定年後の65歳の間だろうか。ガードマンのようなと書いたのは、おじさんは半ば、ガイドなような案内役もつとめているからだ。
渋谷と池袋を繋ぐ池86番のバスは、昔、副都心線がなかった頃は、山手線と平行に走る線で、僕のようなJR嫌いの東京人にとってはとても乗車頻度の高いバスだった。
副都心線ができた後に、本数もかなり減ったようだけど、今でもこのバスは、原宿を通って渋谷に行く便利な路線で、乗客数もとても多い。
その日も、家に帰ろうかと思い、地下鉄をやめてバス停に向かうと、おじさんがいて、ニコニコ笑顔で僕に話しかけてきた。
「次のバスは59分発になります。今は二駅前にいるので、こちらに来るのはギリギリになります」
制服を着たおじさんは、そんなアナウンスをするのは恐らく自分の仕事ではなくて、バスが来た時に、停まっている車に声をかけてどかしたり、交通渋滞を避けるためのガードマンなのだろうけど、このおじさんは、他のガードマンの人とはちょっと違うのだ。
いつもここからバスに乗っているのか、おばあさんも自然におじさんに話しかける。
「なかなか来ないわねぇ…遅れているのかしら…」
おじさんは、そんなおばあさんにもやさしく答えていた。
「今、二駅前を出たところです。間も無く到着しますよ」
それは、他のバス停では、二駅前のサインが出るところもあるのだけど、おじさんに答えてもらったおばあさんは、何かそのあともおじさんと立ち話をしていた。
時々、僕が今、この地球で生きていることは、果たして、誰かのためになっているのだろうか…と思うことがある。
忙しいようで、なんとなく過ごしている毎日は、もしかしたら誰の役にも立っていないのではないのかと。
渋谷駅のバス停のおじさんは、誰かのためになっている。
その笑顔と、温かな心配りを目にすると、そんなおじさんがとても素敵に見えるのだ。

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