Kの面接。

東京に行くことを決めたKは、いま働いている大分の病院を辞めた後、仕事先がまだ決まっていない。
僕は、まずは東京での仕事がきちんと決まってから、その後に東京に来た方がいいと思うのだけど、「3月いっぱいで退職して4月から東京」という期限を自ら決めたようで、それに向かって急に求人情報を探し出し、いきなり東京で面接があると言って仕事の後の夜の便で東京にやって来た。
面接を考慮して入社試験の時のスーツで現れたKは、手には黒いカジュアルなトートバッグを握りしめていた。(病院での仕事では、スーツを着る機会もなく、普段着のまま勤めていたのでいわゆる面接用の服など持っていないのだ)
この日のために急遽休みを取った僕は、朝起きて、朝ご飯を作り、洗濯をして、Kを起こし一緒にご飯を食べ、スーツの上から着るコートを出し、ネクタイを選び、鞄を選んで試着させて、グローブトロッターの小さめのハードなカバンを選び、「これをすべて着てから面接に行くように」と言った。
K「これじゃあ、カバンの中に爆弾でも入っているみたいに思われるよ・・・」
グローブトロッターの焦げ茶のカバンが、Kには少しかっちりとし過ぎたようで、僕は笑いながら革のソフトなブリーフケースに変更した。
面接が終わる頃、面接場所近くの駅に行ってKと待ち合わせをした。新宿に向かう途中、面接の手応えを聞く僕に、「ううん・・・どうなんだろう。東京は求人も多いから、難しいかもしれないね・・・」とまるで他人事だ。
K「なんで東京に来るんですか?」って聞かれたよ。
僕「で、なんて答えたの?」
K「パートナーが東京にいるんです。って答えた」
僕「え?ほんとに言ったの?」
K「うん。そしたら、なんか向こうがちょっと慌てて、それ以上そのことは聞いてこなかったよ」
僕たちは、いくつか面接に備えて質疑応答をシミュレーションしていたのだけど、この「どうして東京に来るのですか?」の質問はたぶん聞かれるだろうね・・・と話していたのだった。
普通、無難な道を選ぶ人は、「彼女がいるので・・・」などと適当にごまかすのかもしれない。でもKは、はじめから、「パートナーと一緒に暮らすために東京に来るって言うの」と言っていたのだった。
いつのまにか僕の知らないうちに、Kは僕以上にオープンになりつつまるみたいだ。
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