愛しいもの。CH25。

Yチェアの作者であり、デンマークが世界に誇るデザイナー、ハンス・J・ウェグナーの作品に、CH25がある。
Yチェアはテーブルと一緒に使われることを想定して作られている椅子だけれども、CH25は、イージーチェアと言って、リビングなどで寛いで過ごす椅子であり、ソファの存在により近いものだ。
ある時、この椅子の美しさに惹かれ、寝ても覚めてもこの椅子のことが頭から離れず、まるで恋に落ちたかのようになってしまったことがある。
写真集やカタログを何度も眺め、溜息をつき、お店に行って実際に触ってみたり、座ってみたり。
真横から眺めて、後ろから眺めて、前から眺めて、その完璧な美しさに、もう僕の頭の中は、この椅子のことで頭がいっぱいになってしまったのだ。
そんな日々が続いたあとに、やっとのことでこの椅子を手に入れた。
僕が木の椅子が好きなのは、お風呂から上がった時や、暑い時などに裸で椅子に座ることもあるからだ。座った時に、金属の椅子の脚が自分の足に触れると、冷やっとするのが嫌いなのだ。
箱から出されて、自分の部屋に運ばれたCH25は、お店で眺めていた時の美しい姿そのままで、僕の部屋にそっと馴染み、なんとも言えない安心感と温かさをもたらした。
この椅子が家に来て、もう10年くらいになるだろうか。
疲れて帰ってきて腰掛けても、朝の慌ただしい時に歯を磨きながら眺めても、休日に紅茶でも飲みながらのんびりと座っていても、つくづく素晴らしい椅子だと思うのだ。
そして、こんなに美しい椅子をデザインしたハンス・J・ウェグナーの仕事を、改めて尊敬してしまう。これこそ、真のデザイナーの仕事だと。
この椅子を見るたびに、触れるたびに、座るたびに、人生をともに生きる伴侶のような、何ものにも代えがたいものを手に入れたような幸福感を感じている。

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