王様と私

渡辺謙がトニー賞にノミネートされたという『王様と私』を観るのが、今回のニューヨークの一つの楽しみだった。
『王様と私』自体は、5年くらい前にロンドンで観ているのだけど、ミュージカルというのは演出家や役者、美術や衣装が違うと、全く別のものになるのだと今回改めて思い知らされた。
リンカーンセンターにある劇場は、舞台に向けて傾斜がついていて、とても一体感のある素晴らしい劇場だ。この劇場で、古くは『カルーセル』、『南太平洋』『WAR HORSE』を観ているのだけど、今回はその『南太平洋』の時と同じ演出家だという。
『王様と私』自体は、WEST MEETS EASTが主軸になっており、そこに、奴隷制度や女性の人権など、しっかりとしたテーマがからんでくる。
はじめ、王様としての渡辺謙が少し威厳がないように思えたのだけど、それはもしかしたら、今回の『王様と私』の演出家の狙いかもしれない。
威厳のあるユルブリンナーで有名な映画の王様とは違って、人懐こくユーモアの感じられる王様に演出されている。
そして後半に行くに従って、王様のキャラクターがぐっと立ち上がってきて、その孤独と温かさを感じられるようになってゆく。
トニー賞を受賞した、ケリー・オハラは堂々とした演技と歌で観客を魅了していたし、第一夫人は見事な歌唱力で助演女優賞を受賞した。
どんなにブルーレイや4Kなどの映像が進化したとしても、決して作ることの出来ないものが、生の芝居にはある。
人間が、ギリシャやローマの時代から何千年も、同じように芝居を観てきたことは、なんでなのだろうと思わずにはいられなかった。
俳優たちの見事な演技に引き込まれ、素晴らしい美術と衣装に魅了され、美しい音楽とともに涙した至福の時間を味わうことができた。
最前席を用意してくれたMに、この場を借りて、心から、ありがとう。
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