苦労は、いつか、笑い話に。

「野菜が沢山出来たから持っていくわ」と母から電話がかかって来て、急遽会うことに。
手には重たいのに、持ちきれないくらいの紙袋を下げて、待ち合わせの改札に15分くらい前に来たようだ。せっかちな母らしい。
「トマトが沢山なったから、あなたトマト好きだから…それと、茄子ときゅうりと大葉と…
今朝、唐揚げも揚げたし、ジャムも作ったのとサラダも持ってきたから…」
中華料理のコースを食べながら、とりとめのない話をする。僕が茄子の料理では焼きなすが一番好きだなあ…と言いながら、ふと焼きなすが好きだった父のことを思い出して、父の話になった。
僕「お父さん、焼きなすが好きで、毎日のように晩酌で焼きなすがあったよね…」
母「でもあの人、お酒ばかり飲んで喋ってばかりで、全然ご飯に手をつけなくて全部冷めちゃって、結局何にも食べないで酔っ払って寝ちゃったり、苦労させられたわ…」
僕「お母さん、なんであんなエキセントリックな人と結婚したの?本当に苦労ばっかりだったよね…」
母「そうね…本当に変わった人だったわね…笑」
今となっては笑い話になってしまうほど、父はエキセントリックだった。
家では色々な種類の生き物を沢山飼っていたのだけど、何かが亡くなるたびに父が悲嘆に暮れ、家中がお葬式のようになったり…
ある時は、どこか飲み屋で喧嘩になり、背中を刃物で切られて帰って来たり…父は武道の達人だったのだけど、曲がったことが嫌いでたとえ相手が怖い人たちでも折れることがなかったのだ。
やさしさと激しさが常に表裏で同居しているような人で、蝶よ花よで育ったおっとりしている母とは、まるで違う星の人だったのだ。
昔、苦労したことが、笑い話になる日が来るなんて思わなかったけど、父の話をひとしきりしながら二人で沢山笑えたのも、今の母が幸福だからだろう。
時々、あのエキセントリックだった父に会いたいと思うことがある。
今となっては、あの尋常でないやさしさを懐かしく感じる。

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