職人。

今回の撮影では、10年くらい前に一緒に仕事をしたSさんと久しぶりに仕事をした。
Sさんは、とても無口で寡黙な人。放っておいたら一日中一言もしゃべらなかった…なんてこともありそうなくらい静かな人だ。
今回、スチール写真の撮影を、久しぶりに4×5インチのフイルムでやりたいとSさんは言っていた。ここ10年くらいほとんどすべての撮影がデジタル化されている中で、僕にとっても久しぶりのフイルム撮影だった。
フイルムの撮影はデジタルと違って粒子があり、焦点の合ったところから、周りのボケまで、ふんわりとした独特の世界観を表現することができる。それでいて、デジタル写真に慣れすぎている人から見ると、なんだかゆるいようなピントが合っていないような感覚になることもあるようだ。
Sさんの撮影は、とても丁寧で時間がかかる。先日も家の中の撮影をした際に、屋根の庇がシャドーとなってテラスに映り込み始めたら、それがまっすぐに見えるまで待つことになった。
普通のカメラマンだったら、そんなこと気にせず撮影をして、後からレタッチでちょこっと直せばいいや。くらいに思うことだろう。でもSさんは、1時間の光待ちを僕たちに告げた。
それは、Sさんの意志だ。
今やCGの技術は驚くほど進んでいて、撮影した後になんでも修正できるし、削ったり、足したり、なかったものまではめ込んだり、全体の色やトーンを全く変えることだって出来るのだ。
Sさんは、そんななんでも出来てしまう安易さに決して陥ることなくまるで時代のすべてに抗うかのように、洋服の色に拘り、光ったものの映り込みのために障害物を除いたり、どこまでもとことんアナログに拘り続けていた。
そんなSさんと一緒に仕事をすることが出来て、僕はSさんを見ながら背筋の伸びる思いがした。
99%の人々が行く道ではなく、たとえ真逆であっても自分の信じる道を行こうとするSさんは、職人であり、侍のようにかっこいい。

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