Mのあしあと。

10年間ともに生きたMが逝った後、実は、息を殺すように生きていた。
どこへ行っても、何を見ても、何を聴いても、何を食べても、Mのことを思い出していた。
映画も観る気が起きず、頑張って観たとしても、観ているうちにMのことを考え出してしまい外に出てしまったり、そんな毎日だった。
友人たちに知れ渡り、二丁目にもMの訃報が流れて少しした後に、バーで会った人に言われた。
「とてもいい人だったよね…」
僕は言葉もなく、目の奥から熱いものがこみ上げて来た。
しばらく経ったのち、偶然パーティーで、Mの好きだったバー『キヌギヌ』のシンスケに会ったので、知っているかもしれないと思いながらMの訃報を伝えた。
シンスケは、僕の目をじっと見たまんま黙っていた。
その後、Mを知るビアンのSから、シンスケから聞いたのかBridgeに泣きながら電話が入ったそうだ。
「Mさん、亡くなってしまったの?本当に?」
そして今日、偶然隣り合わせた若い友人に、知っているかと思いながらMの訃報を伝えたら、その友人の目から涙が溢れ落ちた。
「オーケストラに決まった時にもお祝いしてもらったんですよ…」
僕が10年間ともに生きて、51歳にして亡くなってしまったMは、様々な人の中に、彼なりのやさしさを遺していた。
Mの話を聞くたびに、今でも彼が生きているように感じることがある。
今でも僕のそばにいて、おおらかな笑顔で微笑んでいるように。
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