ゲンちゃん。

ゲンちゃんがお店をやめて、13年くらい経っただろうか。
ある時期ゲンちゃんのお店は二丁目では飛ぶ鳥落とす勢いのあるお店だった。新千鳥街にある小さな店にはガチムチの男たちが溢れ、ゲンちゃんは身体を鍛え、時にはハーネスを身につけてお店に立つ日もあった。
トイレには、海外のゲイ雑誌を切り取ったエロい写真が貼りつけられていて、トイレに行くと帰ってくるのに時間がかかった。
ゲンちゃんは、ある日突然倒れた。大きな病気だったのだ。飲み過ぎていたのかもしれないし、ストレスも極限に溜まっていたのかもしれない。その後、ゲンちゃんは仕事をすっぱりと辞めて、隠遁生活と言ってもいいような静かに暮らす日々を送っていた。
久しぶりに会ったゲンちゃんは、身体を鍛えていて、高級なスーツに身を包み、とても元気そうに見えた。間も無くもう一度お店をオープンさせるらしい。
「前の恋人とも昨年末に別れて、自分も身体を鍛えはじめて、次のステージに動いて来た感じがするんだ」
そんな風に話すゲンちゃんは、新しいことに挑戦する期待に胸を膨らませていた。
昔、僕が長くつきあっていたMと一緒に修善寺や京都に旅行した話をした。Mが亡くなったことを先日知らせた時にも、やさしいメールをもらっていたのだ。
人生とは、本当に先の読めないものだと思う。身体を壊し、もう二度とお店に立つことはないと思っていたゲンちゃんが、もう一度お店をオープンするのだ。
ワクワクするような笑顔を見ながら、僕もとてもうれしくて、何度も乾杯を交わした。
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