世界一好きなお弁当。

京都は、実は僕が10年間つきあって、昨年亡くなってしまったNとの思い出の地でもある。
Nは京都の大学を出たので京都に特に思い入れがあり、一年に何度もふたりで京都に出かけては、様々な美味しい料理を食べ歩いたものだった。
今回、Nが亡くなったことを知り、僕がみんなより一足先に京都に入ったのは、ふたりで行った思い出の京都を、僕一人で歩きたかったから。
駅からタクシーでいつもの京都ホテルに荷物を預け、真っ先に『河久』に向かった。
『河久』は、生前Nが大好きだった洋食割烹のお店。何度か足を運ぶうちに、僕もいつの間にかこの店の料理に魅せられてしまったのだ。
京都に来て、『菊乃井』や『桜田』などの正統派京料理を続けて食べていると、ちょっと和食じゃないものが食べたくなることがある。
そしてそんな時、『河久』の鴨ロースや鳥の手羽を食べるとホッとする美味しさを感じるのだった。
大将は話好きで、京都のことにとても詳しいので話していても勉強になるし、息子さんが今は若旦那になっていて、長く通っている僕のことをたいせつにしてくれる。若旦那は僕のそばにつきっきりでいて、ずっと僕に話しかけてくれるのだ。
ゆっくりとお弁当を食べながら、若旦那とNの話になって、Nがここのお弁当がどんなに好きだったかを思い出したら、涙がこぼれてきた。
Nはいつも東京に帰る時に、『河久』に立ち寄って、僕とふたり分のお弁当を買って、新幹線の中で食べながら帰るのが好きだった。
「うまいな!うまいな!」と僕に微笑みながら、本当に美味しそうにお弁当を食べる人だった。
「ああ、このお弁当を、Nに食べさせてあげたいなぁ…」
そう思いながら、世界一好きなお弁当を食べ続けた。
★河久http://www.kawahisa.com

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