おみおくりの作法

先々週末からシネスイッチ銀座で始まった映画『おみおくりの作法』は、映画評が良いのかテレビで取り上げられたのか、いきなり大ヒットになっていた。ちょっと期待して観に行ったのだけど、素晴らしい短編小説を読んだような読後感が残った。
ジョン・メイは、ケニントン地区の民生課に勤めている44歳。仕事は、ひとりきりで亡くなった人の葬儀をすること。身寄りを探したり、誰も身寄りのない人の場合は故人の生きた痕跡を探し、故人に合わせて葬儀の音楽を選んだり、弔辞を書いたりする。
ジョン・メイは、風采の上がらない男だけれども、毎日きちんと身だしなみを整え、規則正しく出勤し、故人の尊厳を守る仕事を実直にこなしてきた。それは、とても地味で、誰からも評価してもらえないような仕事かも知れないけれども、ジョン・メイは彼自身の信じる生き方を貫いて来た。
そんなある日、ジョン・メイの家の目の前に住む顔も知らないアルコール中毒の男ビリー・ストークが、突然ひとりきりで亡くなる。ビリー・ストークの足跡を辿るジョン・メイの新しい旅が始まる…。
『職業に貴賤はない』と僕は思っている。
あるのは、自分の仕事に対する捉え方だけなのではないだろうか。死という人間の尊厳を最後に扱う仕事を、この上なく尊い仕事だと捉え働くことも出来るし、誰もがやりたがらない酷い仕事だと捉え働くことも出来る。ジョン・メイの生き方は、真珠のような輝きを放っていた。
この映画が気づかせてくれることは、アル中で周りの人を傷つけてきてハチャメチャに生きてきたと思えるビリー・ストークの生きた足跡でさえ、まるで物語の主人公のように趣がありドラマティックで美しく感じられること。そして、どんなに凡庸に見える人の人生でも、多くの人の人生に影響を与えているに違いないと思わせてくれることだ。
★おみおくりの作法http://bitters.co.jp/omiokuri/

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です