叶わぬ恋。

「今までに、叶わぬ恋をしたことがありますか?」と聞かれたので、遠い昔の僕の「叶わぬ恋」のことを書こう。
美術大学に通う僕がはじめて人を好きになったのが、5歳年上のMさんだった。大阪出身で一重まぶた、色が白くて、鷲鼻のため鳥のような印象を受ける人。やさしくて、真面目で、控えめな性格を好きになった…。
僕はずっとずっとMさんとできる日を夢見ていたのだけど、その頃Mさんは年上の人とつきあっていた。その人との関係は既に長く続いていたようだ。
恋人がいる人とわかっていながら、自分の情熱を抑えることが出来ず、一緒に飲むこと、食事をすることを望んだ。
酔っ払った帰り道、僕の車で家まで送って帰ることがあった。はじめてMのマンションに上がった時に、胸が高鳴ったのを覚えている。
リビングでTシャツ姿の彼と別れ際に抱き合った時に、Mの汗の臭いを嗅ぎながら、この臭いが好きなんだ…と思ったのを覚えている。
時々ドライブをしながら色々な音楽を聴いた。ある日、羽田空港まで、Mの出張のために彼を送っていった時に、「今つきあっているやつと別れて、Tと一緒になろうと決めたよ」と言ったことがあった。
でも、それが現実になることはなかった。
Mとその人との関係はそのまま続いたし、僕は手に入らない恋愛に、行き場を失っていた。
結局、Mの大阪勤務ということと、僕の就職やなんやかやでMとは疎遠になってしまった。
今までの僕の人生を省みて、あの頃ほど、「手に入らないものが欲しい」と、誰かに恋い焦がれたことはない。
僕が就職してしばらくして別の人と長いつきあいを経験して、その後別れて、ある日地下鉄の乗り換えで歩いている時に、10年ぶりくらいに偶然Mに出会った。
その後、彼の出張ついでに一緒に飲むようになって、今では時々LINEでメールのやり取りをするような「友達」になってしまった。
人とつきあう難しさや、それこそエッチのことまで話すことが出来るような古くから知っているような「友達」になったのだ。
今になって思うと…「叶わぬ恋」は、その時はつらく苦しいけど、人生の醍醐味のようにも思える。
「恋に落ちる」と言うように、人が誰かに恋する時は、予期せず突然やって来る。まるで落とし穴に落ちるように…。そしてそれは、何者にも抗えない力だ。
僕に言えることがあるとすると、「叶わぬ恋」をしている人は、今のそのどうしようもない「叶わぬ恋」を、そのまま諦めることなく思いっきり生きて欲しいということくらいだ。
いつか、時間が経って来し方を振り返った時に、あの「叶わぬ恋」をしていた時は、自分にとってなんて輝いていた時だったのだろうと思える日が来るに違いない。
「叶わぬ恋」。ああ、なんと甘美な言葉だろうか…。
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