熱海への引っ越しを考えはじめてから、もう数軒家を内見に行った。
そんな中で、「ここに住むのもいいかもしれない」と思うような物件にも出会った。
東京を離れることが現実味を持ちはじめた今、千葉で暮らす今年80歳になる母に、引っ越しすることを早めに言わなければという思いから、電話をかけると、
「あら、熱海いいわね。あなたが小さい頃夏によく行ったわね…」
軽く了承したような声だったけど、その後1時間もしないうちに電話が鳴った。
「やっぱり、熱海は遠いから…
お母さんなんだか寂しいわ…
お父さんにはまだ言えないわね…
なんというか分からないし…」
電話を切って、僕も母のことを考えた。
「母の身に何かあった時は、どれくらいの時間で駆け付けられるだろうか?」
「父と母のどちらかが病院や介護施設に入ってしまったら、どれくらいの頻度でそこへ行けるだろうか?」
新しい環境に移る時には、良いことも、不安なこともある。頭の中にぐるぐると色々なことが浮かんだ
でも冷静に考えてみると、熱海から東京駅まではおよそ45分だから、時間にすると今住んでいる渋谷区からとそれほど変わらないのだ。
そう思ってもう一度母に電話をかける。
それでも母の声は、やはり少し寂しそうだった。