兄からの電話。

会社の携帯に兄からの着信が残っていた。
兄から電話があるなんて、1年に1回あるかないかだろうか・・・。僕たちは、仲の悪い兄弟ではなく、兄には子どもが3人もいてそれぞれ風邪引いた受験だ入学だ卒業だと、常に自分の家族のことだけで手一杯で忙しいからだ。
何かあったのかと夜に電話をしてみると、
兄「実は、歯があまりよくなくて、というか、正確に言うと歯茎がよくなくて、インプラントを入れないといけないみたいなんだ。お前、インプラントに関して詳しいかなと思って電話したんだけど・・・」
僕「僕はインプラントは1本もやったことないよ。歯茎もいい状態だけど、どうしたの?歯医者行ってなかったの?」
兄「歯医者には定期的に行っていたんだけど、その場しのぎの治療をするだけで、結局肝心の歯周病や歯茎の治療は後回しになっていたようなんだ・・・それも、新しい歯医者に行ってわかったことなんだけど・・・」
僕「お父さんが晩年歯が悪くて苦しんでいたけど、お兄ちゃんはお父さんに似たのかな・・・?」
兄「そうだな。お前は歯もしっかりしているところはお母さんに似たんだろうな・・・」
結局、インプラントは歯医者によっても様々で、兄がかかろうとしている所は1本30万からという価格を言われたらしい。それを何本もやって、歯茎の手術もしなければならないようで、かなり意気消沈しているのがわかる。自分の通っている歯医者がいい歯医者なのかどうか、評判を調べてくれと言うので、後ほど調べておくと言って電話を切った。
兄弟は、一番身近な存在でもある。小さな時からずっと一緒に暮らして来たのだ。その声を一言聞いただけで、調子がいいのか何か悩みがあるのかがわかるものだ。長男で、いつもは僕に弱みなど見せることなどない兄だけど、ほんのたまに、小さな頃のままの傷つきやすい兄をそっと見せる時がある。母はきっと、そんな子どもたちの姿を何度も見ていて、そのたびにやさしく守って来たのだと思う。
歯医者のことを調べて、メールを送ると、兄から返信が来た。
「ありがとう。お前も早く寝ろよ。おやすみなさい」
  
それはまるで、兄が隣で寝ているような、小さな頃のままの親密さがあった。

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