土曜日の朝、熱海でファミレスで朝食をとっている時に、ヨボヨボのおじいさんが目についた。
そのおじいさんは多分少しボケていて、杖をつきながらやっとの思いで歩いている。
何度も何度もコーヒーやオレンジジュースを取りに来ては、コップを洗ったり、そのコップを新しいコップのある場所に置いたり、そうかと思えばオレンジジュースとお湯を混ぜ合わせたりしていた。
僕はそのおじいさんから目が離せなくなり、席を立つたびに目で追いかけていて、次は何をやらかすのだろう?と思っていた。
Kはそんな僕に、おじいさんをもう見ないようにと言っていて、引越しに関する話を僕にし始めていた。
僕はそんな話もまともに取り合わず、目でおじいさんを追いかけていたら、Kが突然怒り出した。
「もう、そんな態度なら、Kちゃんここでもう帰る」
「え?急にそんなこと言わないでよ。今日もまた家を見に行くんだし・・・」
「だって、ただしくん、まともに話し聞いてくれないんだもん。家だって何軒行っても決められないし・・・」
「だって、引越しってなかなかできないんだから、ちゃんと考えて納得いく物件を選ばないといけないでしょ?」
そんなやりとりをした挙句、少ししたらKも落ち着いてくれたのだけど、もうすぐ9年目になろうとしているのに、未だに僕はこんな小さなことでKを怒らせてしまうのだ。
Kが起怒ったのはきっと、痴呆の進んでいるおじいさんを、僕がずっと目で追いかけていたからだろう。
自分だっていつかはあんな風にボケる日が来るかもしれないのだ。おじいさんへの敬意が足らなかったと思って、自分の行動を改めて戒めたのだ。