はじめての一人暮らし。

実家を出て一人暮らしを始めてから、20年くらい経っただろうか。
29歳になってはじめて6歳年上のNとつきあい出して、一番はじめに住んだ場所は、原宿駅にほど近い千駄ヶ谷三丁目だった。
原宿駅に歩いて向かう途中、珍しく昔暮らした家のそばを通ってみた。
近所の店は様変わりしていて、雑貨屋さんが出来てコンビニが増え、人通りが少し多くなっていた。
懐かしさを感じながら歩いていると、地道に貯めたお金で引っ越し先の家電や家具を買い、小さな家にはじめて暮らしはじめた頃の記憶が鮮やかに蘇って来た。
一人暮らしをはじめたきっかけは、僕がつきあい出したNが妻帯者だったので、毎回二丁目のお店やホテルで会わなければならないことがストレスになって来たからだった。
僕の手料理を美味しそうに食べてくれるNの顔や、喧嘩をしたこと、Nが事故に遭って顔中ミイラのように包帯で巻かれて帰って来たことなど、次々に昔の記憶が蘇り、気がつくと目から涙が溢れ出していた。
この家を出たのは、10年間に渡るNとの関係が終わった時で、今までの生活を忘れて生きるためだったのだ。
Nはその後亡くなり、時間も十分に経ったように感じられていたのだけど、僕の心の中には、当時の幸せだった思い出がそっくりそのまま残っていたのだ。
僕を車で降ろした後は、ドリカムの歌のようにウインカーをつけながら走り去っていく車を見ていたこと。
Nが歩いて帰るのを、窓から手を振りながら見送って、Nがいつも「バイバイ!バイバイ!」と言って、手話の『I LOVE YOU』を作ってくれたこと…。
原宿駅に向かう道を歩きながら、懐かしさでいっぱいになり、泣きながら歩いた。
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