誇り。

仕事先で、僕にしてはとても珍しく、震えるほど怒りがこみ上げて来て抑えることが出来ないできごとが起こった。
僕の考えたコピーとヴィジュアルのアイデアで進んでいたキャンペーンの広告の製作の話し合いをしている時に、いきなり先方が言い出したのだ。
「そしたら、ここから先はこちらで引き取りますので。こちらにも専属のアートディレクターがいますので…」
僕は、話の内容が読み取れず呆気にとられながら、フツフツと込み上げてくる怒りをどうしたら良いかと考えあぐねていた。
先方の話が一通り終わった時点で僕が口を開いた。
「あのー、この広告のコピーを考えたのは僕です。
そして、ヴィジュアルアイデアを考えたのも僕です。
僕の考えたものを、どうしてここでそちらに渡すことが出来るのでしょうか?
今まで、そのような仕事のやり方はしたことはありませんし、これからもするつもりはありません」
先方は、急に事の重大さに気づいたのか、焦り気味な口調になり、その後しどろもどろになったが、最後までなんとか僕を封じ込めようと必死なのがわかった。
営業は、冷や汗をかいていたと思う。
僕自身はこんなことでこの仕事を外されたとしても、全く構わないと思っていた。
僕自身にとっては、もはや失うものはたったひとつを除いて何もないのだ。
僕の考える、たったひとつの失ってはいけないものとは、自分で考えたアイデアに対する誇りだ。
それは、クリエイターにとっての魂のようなもの。
たとえその場がどうなろうとも、自分自身の誇りを守れたことで、僕は晴れ晴れとした気持ちでその場を後にした。

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