ありがとう、トニ・エルドマン

カイエ・デュ・シネマ、スクリーン・インターナショナル、サイト&サウンドなどの各国の映画誌が、2016年のベスト映画にしたという『ありがとう、トニ・エルドマン』は、ところどころ大笑いして時々泣ける、父と娘の不思議なドイツ映画だった。
ユーモアがあり、子どものように無邪気な父親ヴィンフリートは、遠くルーマニアのコンサルタント会社で働く娘イネスのことが心配でたまらない。イネスは仕事のことばかりで年老いた自分の母親に会うことさえしないし、たまに帰郷しても仕事の電話ばかりしていて家族と話すこともない。
ある日、遠くブカレストで離れて暮らす娘の元へ父親が突然尋ねてくる。父親は娘が心配なあまり、娘の仕事や友人たちの世界に現れる。突如別の名前『トニ・エルドマン』として・・・。
父親が、時々へんてこな入れ歯をつけたり、仮装したり変装したり突拍子もないことをする人なのだけど、その純粋で不器用な愛情と、仕事のことばかり考えていておよそ幸せからはほど遠く人生が狂いはじめているのにそれに気づかない娘との対比が素晴らしい。
映画を観ていると、自分が若かった頃に父や母に心配されていた日々のことを思い出した。
人生には、かけがえのないたいせつなものがすぐそばにあるのに、若い時には多くの人はそれに気づかず、ただ忙しく慌ただしく過ごしているうちに年を取り、たいせつなものはなんだったかがわかり、自分の人生の終わりが近づいてくることを知るのだろう。
笑いに満ちていて破滅的で、せつなくも美しい父と娘の物語。
☆ありがとう、トニ・エルドマンhttp://www.bitters.co.jp/tonierdmann/index.html

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です