身近なロミオとジュリエット。

友人というか、弟のように思えるFが、5年以上つきあっている彼女のご両親と食事をすることになり、急遽援軍としてその食事会に参戦した。
なぜ参戦なのかというと、Fは彼女とつきあう前から彼女のご両親とは仲良くさせてもらっていたのだけど、実際に彼女とつきあいはじめたことを知った時から、彼女のご両親は娘とFとの恋愛を決して許さなかったのだった。
その間、Fは直接会ってどんなに彼女をたいせつに思っているのかを直訴したり、Fのご両親まで出て来て彼女のご両親と会ったり、友人を連れて会いに行ったり、ご両親に交際を認めてもらうために、それこそあの手この手と涙ぐましいまでの努力を続けて来たFだった。
しばらくしたのち、お父様は少しずつFを受け入れはじめたような兆候を見せ始めたのだけど、お母様は頑なにFとの交際を認めず、Fの存在すら目に入らないかのような状態が5年経った後も続いていたのだった。
お母様が娘の交際を許さなかった原因は、
Fが、FtMだからだろう。
恐らく、セクシュアルマイノリティの存在など身近に感じたこともなかったであろうお母様には、まさか、自分の可愛がって育ててきた1人娘が、トランスジェンダーと交際をするなんて考えもしなかったのだ。
僕たち周りの友人たちは、あんなに仲良く愛し合っているように見えるお似合いのFカップルを、なんとしてでもご両親に認めて欲しくて、まるで、『ロミオとジュリエット』を応援するかの様な気持ちでいたのだ。
5年間のお母様の無視のような状態が過ぎ、この先も許されることはないかに見えた矢先、先にニューヨークに訪れていたFと、娘さん一家は旅先のニューヨークで会うことになった。
そこでなんと不思議なことに、お母様の態度がころっと変わったのだった。
旅先の開放感、人生にはなんでも起こりえるというポジティブな空気がニューヨークにはあったのかもしれないし、見るに見かねた神様が、Fにそっとギフトを贈ってくれたのかもしれない。
そんなことがあり、東京へ帰ってきてしばらくしたのち、娘さんのご両親とFとの食事が急遽決まったのだ。(そこへ、なぜか、僕と妹のGが隣の席で偶然ワインを飲んでいるという設定…)
実際にお会いしたお父様は、とても知的な方で素敵な人だった。
そして、アーティストのように情熱的なお母様も、とても華やかで楽しい人だった。
何よりも僕が一番うれしかったことは、緊張しながらも、幸福そうに顔をほころばせていたFを見守ることが出来たことだ。
Fと彼女の笑顔を見ながら、僕たちまでこの上なく幸福な気持ちに包まれたのだった。
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