せつない東京。

Kと一緒に久しぶりに行く東京、東京でどこか行きたいたいところはある?と聞いてみたところ、

「一緒に住んでいた家の周りに行ってみたい」と答えた。

Kにしてみれば、故郷の大分を離れて東京にやってきてはじめて一緒に暮らした北参道界隈は、東京での自分の家であり思い入れのある場所になったのだと思う。

日曜日、副都心線で北参道に向かい、家までの道のりを歩いてみる。

「あ、あの建物壊されてる…この道はほとんど変わってないね…」

僕たちが暮らしていたのはほんの1年前のこと。今でも通りを歩いていると、ここにまだ住んでいるような気がして、家に行ったら家具や何もかもそっくりそのまま残っていて僕たちを出迎えてくれそうな気がする。

大家さんの呼び鈴を鳴らすと、大家さんが出てきてうれしそうに話してくれる。

僕たちは熱海の和菓子を差し出して、ほんの少し熱海の立ち話をする。大家さんは僕たちがゲイカップルだと知っていても入居させてくれたし、花火の時には屋上を開放してくれたりとても良くしてくれたのだった。

その後、長く暮らした神宮前二丁目を通りながら懐かしいキラー通りを歩く。コンビニもなくなってしまったし、古くからあった角のマンションが消えているのに驚かされる。

雑貨屋さんやイタリアンがあったマンションもなくなってしまった

かれこれ25年近く暮らしてきた外苑前近辺は、1年経つとビルの建て替えも多く、急速に変わっていくのがわかる。

北参道から外苑前を歩きながら、今まで感じたことのないような胸が締め付けられるようなせつなさを感じていた。

一人暮らしをはじめた頃のこと。
6歳年上の恋人との生活。
10年のつきあいが終わり、数年後に亡くなってしまったNのやさしさ。
恋人のいないまま飲み歩いていた40代はじめの生活。
やがて出会ったKとの穏やかな毎日。

ずっとずっと外苑前や原宿や千駄ヶ谷の中で暮らしてきたのだ。その町から遠く離れ、これから先はそんなにちょくちょくは戻って来られないだろうなと思う。

Kもなんだかしみじみとしていた。Kもきっと、はじめて東京へ出てきて暮らしたこの町を歩きながら、せつない気持ちでいたのだと思う。

自分の暮らした町をこんなにも愛していたなんて、僕たちはとても幸せだと思う。

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