ごめんね。海。

朝、海をピックアップする時間を決めようとトリミングサロンに電話をすると、係の人がやけに落ち着いて「今、お電話しようと思っていたところでした」という。

「今朝、海ちゃんのケージに行って見たところ、血だらけの痕跡がありまして、私ども確認したところ、指先から出血していて、毛玉を切る時にハサミかバリカンが当たってしまったようなんです。担当者は気づかなかったって言うのでそのままにしていたところ、海ちゃんが舐めてしまっているようで…」

僕は血の気が引いて行くのを感じながら震えていた。
「それで、どんな傷なんですか?」

「指と指の間の肉球のところを切っているようで、隣の獣医に診てもらったところ、2、3針は縫わないといけないと言ってます。処置は早いほうがいいと思うのでどうしましょうか?」

「すぐに縫って処置してください。そちらに何時にいけばいいですか?処置が終わりそうな時間が見えたら連絡してください」

「部分麻酔等ありますので、午後になるかと思いますがわかり次第お電話します」

ありえない出来事が起こった。ネットではトリミングサロンで切られたと言う話は載っているが、まさかうちの海に起こるなんて。

午後になり埒があかないので病院に電話をして獣医さんと話したところ、傷口は後ろ足だけではなく、前脚も2箇所刃物で切れたような痕があるとのこと。

怒りでいっぱいになりながらも、先生に今後の対応を聞いた。

「間違いなくトリミングの際の事故ですね。なんで気づかないのかわかりません」

「幸い筋肉や骨には異常は見られませんし、普通に歩いてびっこも引いてなかったので、大丈夫だと思いますよ」

果たして、海は責任者によって車で運ばれて来た。後部座席でエリザベスカラーをつけた海は、怯えていて、僕が車の中に手を伸ばせしても震えているのがわかる。

海を抱き抱えて家の中に入り、首輪屋エリザベスカラーを外して海を抱きしめて嗚咽のように泣いた。

「ごめんね。海。こんな目に遭わせて…ごめんね。ごめんね。痛かったね。痛かったね。もう大丈夫だからね。ごめんね」

激しい悲しみと怒りが込み上げて来て、責任者に怒鳴っていた。
「なんでこんなに無邪気な犬を、こんな目に遭わせるんですか?あんたたち、人間のやることじゃない!」

その後、責任者が完全に自分達の過失をであると話している間、僕は念のために話している内容を録音しておいた。何かあった時に問題になるのを防ぐ為に。

傷口の写真は怖くて最初見られなかったけど、後ほど冷静になってよく見て見た。あまりにも痛そうな傷跡を見ながら、海を抱きしめて何度も泣いた。

言葉が喋れない犬にこんな酷い仕打ちをするなんて、血の通った人間の為せる技とは思えない。

こんな酷い目に遭わせてしまった自分を責め続け、胸が押しつぶされそうな気持ちのまま、海とふたりでベッドに入った。

自分の中に、怒りがこんなに湧いたのは久しぶりのこと。この負の感情をどうやったら手放すことが出来るか、布団の中で悶々としていた。

赦すということが、人間にとっていかに難しいか、今日はつくづく噛み締めている。

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