All the love in the world

はじめて大分に行ってKに会った時に僕は、「会ってご飯でも一緒に食べられたらいいかな…」くらいに思っていた。
東京と大分では距離があまりにもあり過ぎるし、つきあっていくことなど微塵も考えていなかったのだ。
結局、ホテルに二泊一緒に過ごして、大分空港まで送ってくれる車の中では、浜崎あゆみがかかっていて、それを聴きながら、
「これは、ちょっと無理かもしれない…」と、不安になったのを覚えている。笑
先日、引っ越しの荷物をKと一緒に片付けながら、昔のCDをかけていると、何気なくKが言った。
K「このアルバム持ってるよ…」
僕「ウソでしょう???」
K「うん。一曲目がエンヤだよね…あるよ」
僕「え?えええ?えええええ?」
僕はKのことを、邦楽しか聴かないと思っていたのだ。恐らく誰かからもらったとかに違いない…。
たまにこのアルバムのように、その時の時代の気分を閉じ込めたようなアルバムを聴くと、なんとも言えず昔のことを鮮やかに思い出すことがある。
このアルバムの中の、『All the love in the world http://youtu.be/yhg3lBGFeac』という曲が好きだ。
当時、映画の主題歌になったこの曲を聴くと、15年くらい前の、世界が自分たちのためにあったように感じていた夢のような時間を思い出す。
そのまま片づけをしていたら、All the love in the worldが流れはじめて、僕がこの曲が好きだと言うと、Kはすかさず、「何か映画の主題歌になったよね…」と言いながら、得意そうに曲を口ずさんだ。

トラブルが起きた時に。

8年ぶりくらいに引っ越しをして、正月の休みを使ってようやく片づいて来たのだけど、「引っ越しとは、これほど大変だったのか・・・」と改めて実感している。驚くことは、予測の出来ないトラブルが起こることだろうか。
◎引っ越し当日に、荷物をほとんど詰め込んで新居に来たら、ソファと冷蔵庫が大きすぎて上がらず、急遽方法を変えて、外からロープで吊るして上げた。普通ならば3万円くらいするクレーン車を頼むところだっただろう。(もうこのまま上がらないかと思って冷や汗が出た)
◎トイレを何気なく使っていたのだけど、暮れに旅行に出る直前にふと奥を覗くと、水(きれいな)がだだ漏れになっていた。(不在の間、家に入ってもらって無事に修理できた)
◎先日ここにも書いたけど、張り切って組み立てた洗濯機の上の棚が、サイズが合わなくてうまく洗濯機に入らず泣きたくなった。
◎OCNに予約をして、インターネットの工事をNTTにやってもらうことになり、仕事も半休を取り家で待っていた。すると、ひとりの工事人が現れ、配線をいじったあげく、突然、
「配線が困難なので、後ほど二人の作業員が現れます。そのあと僕も来れたら戻ってきます」
そう言い残して去って行き、1時間後に二人が現れ、家中配線を通す出口を探したあげく、
「線の出口が見つからないので、今回の工事はキャンセルさせてください」と言われて去って行った時には、開いた口が塞がらなかった。(未だにネットが繋がっていない)
トラブルが起こった時に人間の取る行動は以下のようなものだろうか。
→途方に暮れる。
→パニックになる。
→誰かを責める。
→泣く。
目の前で何か対処の出来ないトラブルが起こったとしても、そのことで自分の感情が嵐のように荒れたとしても、次に続く道がよくなることはあまり考えられない。むしろ、感情的になることで、悪くなることの方が多いかもしれない。
冷静に考えてみると、どんなトラブルが起こったとしても、そのトラブル自体によって、僕の人生のすべてを打ち消されたりすることはないということなのだ。
そして、今まで47年間生きて来て思うことは、大抵のことはどうにかなるということだ。
そう思えたら、ちょっとラクになれる。
そして、気持ちがラクになれると、自然と、解決の道が見えて来るのだ。

まったく違うふたり。

Kが、急遽週末に東京に来たのは、僕の新居を見るためであり、春から暮らす東京の家をチェックするためでもあった。土曜日は家にJFやXが来ることになっていたので、朝から買い物に出かけ、帰ってきてから気になるところを掃除しはじめた。
僕は、実はとても大雑把な性格だ。
だいたい物があるべきところに収まって整頓されていればまあよくて、細かな埃や汚れはそれほど気にしない。
Kは、僕とは全く違っていて、細かなところに目がいくようだ。
例えば、キッチンの水栓から、水の方だけほんの少し水漏れするのをいち早く気がついて、「大家さんに言って直してもらって!」と忠告してくれる。
職業柄、病院で検査をしているので、細菌の繁殖などには人一倍敏感で、水周りに直にボトルなどが置いてある状況も好まない。(Kの家では、すべてのボトルの口が引っ掛けられて不思議と宙に浮いている)
そして、まるで病院で検査をするかのように、僕の家の中のトイレもお風呂も洗面所も隈なくチェックして、1つ1つ丁寧に掃除をしはじめた。
僕は、この場所にこのお花でいいかな?とか、音楽はこれをかけようとか、お料理の品目を考えたりするのだけど、Kは、目を皿のようにして部屋の隅々までコロコロをかけたり、ステンレスを磨いたり、親の仇のように洗面所の水滴を拭いたりしている…。
そんな真剣なKの姿を眺めながら、まったく違う人間が、よくこうしてつきあっていけるよなあ…と思う。
まぁ、違っているから面白いのだろうけど。

Kのカミングアウト。その3

Kは、兄姉、そして、ご両親へカミングアウトをした後、お正月を実家で迎えた。
数日間ご両親と一緒に過ごすことで、ご両親はKのカミングアウトのことをいったいどんな風に受け止めているのか心配で、僕も気が気ではなかった。
正月が終わり、金曜日の夜に東京に来たKに、ご両親の反応を聞いてみた。
僕「それで、お父さんお母さん、何か言ってた?」
K「それが、怖いくらい何もそのことには触れないの…」
僕「え? 僕のことも何も言ってない?」
K「うん。まるで何事もなかったかのようなんだ…
でも、お父さんが、Kのことを話すと落ち込むからもう話さない…ってお兄ちゃんに言ってたんだって…」
僕「そうなんだ…そりゃあ、なかなか簡単には受け入れられないだろうし、理解出来ないかもしれないよね…」
大分の中でもかなり田舎の町に住むKのご両親に、息子がゲイだということを理解してもらうには、まだまだ時間がかかるのかもしれない。恐らく、ゲイなんて異常な者だとか、そんな人間、自分の周りにいるわけなどないと思っているだろうから。
Kはそんなことおかまいなしに、仕事場の周りの人にもカミングアウトをしはじめた…。
K「今日、上司に言ったんだ…東京に行くから病院をやめるって」
僕「それはいつか言わないといけないと思うけど、ゲイであることも言ったの?」
K「うん。言ったよ」
僕「あのさ、誰彼構わずに、自分のセクシュアリティのこと言わなくても大丈夫だよ。
第一みんな、驚くでしょ?」
K「うん。びっくりしてたけど、その人にはきちんと話しておきたかったの…」
僕がつきあいはじめた頃のKでは考えられないほど、数年のうちにずいぶん変わってしまったようだ。
カミングアウトに関しては、あっと言う間に、僕が追い越されてしまったような感じさえしている…。

忘れられない恋。

とんぺい焼き

お好み焼き

モントリオールから、JFが日本にやって来た。
JFは、52歳くらいだろうか。フランス系カナダ人で、カナダでは有名な敏腕弁護士さん。
Kとふたりで高島屋に買い出しに行き、簡単なつまみと日本酒を用意して、夕方、JFとXを家に招いた。
その後、外苑西通り沿いの広島お好み焼き屋『東』へ。
お好み焼きは、白人の場合好き嫌いが分かれる食べ物だと思う。前回アメリカ人の友人とお好み焼きを食べた時は喜んでくれたけど、フランス系のJFは、いまいちダメだったみたい。笑
JFは、僕とKのこれからの新しい暮らしの話を聞きながら、羨ましそうに、そして、まるで昔の自分の恋を思い出したようだった。
JFがまだ若かった頃、中国系カナダ人とJFは長いつきあいをした。
ふたりは一緒に暮らし、すべてか薔薇色に見える生活を長い期間経験して、やがてお互いの相違から別れることになってしまった。そしてそれは、泥沼のような別れだったと言う。
その後9ヶ月の間、JFは喪失感の中で泣きながら暮らしたそうだ。朝起きても涙が頬をつたい、夜眠る時も泣きながら眠りについた。
友人や家族たちの助けもあり、次第に回復していったものの、今でもその傷が残っているようなのだ。
JF「ただしさん、あなたたちを見ていると、私が若かった頃の恋愛を思い出します。私は彼との恋愛の後は、もう誰も心の底から愛することが出来なくなってしまいました…」
モントリオールでは、一緒にゲイバーやストリップ劇場に行って夜通し騒いだ底抜けに明るいJFにも、僕の知らないところに心の闇が潜んでいたのだ。
僕「別れてしまったのは確かだけど、でもJF、彼との間には、幸せな思い出もたくさんあるんでしょう?
かけがえのない思い出があるんだから、それだけでいいじゃん」
人間とは、なんて繊細な生きものなのだろう。
ひとりでは生きられず、誰かを好きになり、身を焦がし、時には酷く傷ついてしまう。
そしてその痛手はなかなか癒えることなく、笑顔の奥に悲しみを抱えながら生きているのだ。
JFが、いつか自由になって、次の恋愛に向かえる日が来るのを願っている。
★東https://m.facebook.com/okonomiyaki.azuma/

シューメーカーチェア。

久しぶりに椅子を買った。
WERNERのデンマーク製シューメーカーチェア。
元々は、靴職人が長時間座っているのに座りやすいように座面を削った椅子がデザインの土台になっているらしく、お尻にフィットする座面は、とても座りやすい。
なぜこの椅子を買ったかというと、玄関で靴を履くときに、毎回毎回腰をかがめるのがとても億劫に思えるからだ。
これは、僕が年をとってきたのもあるのだろうけど、そもそも西洋に似せて作られた日本のマンションの建築というのは、玄関から室内まで高低差がほとんどないため、靴を履いたまま室内で生活するにはいいのだけど、実際に日本のように、玄関で靴を脱いだり履いたりするのには適していないのだ。
どんな人も、玄関で靴を履くときに、よっこらしょっていう感じになるからだ。
ずっと玄関に低めの椅子を置きたかったのだけど、引っ越しにより少し玄関に余裕が出来たので、思い切って買ってみた。
木の触感も素晴らしく、玄関で靴を履くときに、毎回毎回惚れ惚れとしている。
そして、家に遊びに来てくれたお客さんにも、「あ、その椅子で靴を履いてみて!」というと、とても喜んで椅子を使ってくれる。
そんな姿を見ながら、本当にいい買い物をしたと思っている。

トロントから、台湾人のBがやってきた。

蛸のフライ

僕の昔からの台湾人の友人Rの友達で、どこで誰が見てもゲイだとわかるBは、ある意味インターナショナルゲイだ。
僕がトロントに遊びに行った時に、はじめて会ったのだけど、背が高く、歯は真っ白で、笑うと幼さの残る笑顔がかわいい。Bは、トロントの大学を出て、金融関係に勤めている。
今回、台湾の高雄に住むご両親に会うために帰って来たついでに、大好きな東京に寄ったそうだ。なんの前触れもなくいきなりLINEが来たので、時間を作って新宿でご飯を食べることに。
せっかく日本に来たのだから、『THE 居酒屋』がいいと思い、『鼎(かなえ)』へ。
『鼎』は、魚が美味しく、出汁巻き卵や蟹味噌、カキフライなど、どれを食べても美味しい老舗の居酒屋。連日サラリーマンで賑わっている。
Bの友達の台湾人と、若い日本人の子も一緒に来ていて、みんな何かを食べるたびに、「美味しい!」という感嘆の声が上がった。
Bは、あと2年したら台湾に帰るそうだ。ご両親が65歳を超えるので、近くにいてあげたいと言う。
B「僕の母は、とても保守的だから、未だに僕に女性と結婚しろと言うんです。先日も、知り合いの娘さんのお見合い写真を持っていて、僕にこの娘なら安心だと言って結婚させようとするんですよ…」
僕「えー!だってBなんか、見た瞬間にゲイだってわかるのに、お母さんたちには言ってないの?」
B「母には、どんなことがあっても絶対に言えません。もしそんなこと聞いたら、無理矢理結婚させられちゃうかもしれません」
僕「でも、いくらお母さんのためとはいえ、Bは、女性と出来るの?」
B「あそこを見ることさえ出来ないのに、出来るわけないでしよ!」
台北に行くと、石を投げるとゲイに当たるんじゃないかっていうくらいに町中ゲイで溢れかえっているのだけど、Bのような超オネエさんでありながら、両親に対しては完全なクローゼットだと言う人は意外と多いようだ。
アジア特有の親子の濃密な関係性は、強い絆と愛情に満ちている反面、決してその愛に背いてはいけないと思わせるほどの重たい鎖のように感じることがある。
自分の思うように生きたほうがいいよという僕に、最後まで「それはできない。僕は、父と母のために生きるんです…」と言うB。なんとも複雑な気持ちになったのでした。
★鼎
03-3352-7646
東京都新宿区新宿3-12-12 B1F
http://tabelog.com/tokyo/A1304/A130401/13000879/

毎日でも食べたいお昼ごはん。

前にもここに書いたことがあるかもしれないけど、三田のプロダクションに打ち合わせに行って、丁度ランチの時間になると、僕はたいてい『三味』に行く。
聖坂に面した小さな店には、お昼時に周りで働くサラリーマンたちが集まる。
お店は、おじいちゃん、おばあちゃんとその息子さんお嫁さんの4人でやっていたのだけど、この頃はおじいさんを見かけない。
メニューは、刺身、焼き魚、煮魚とその日の魚で限られているのだけど、この魚が本当に美味しいのだ。
僕はいつも、鯖の塩焼きにするのだけど、それに刺身を半盛りと納豆をつけてもらう。
ここの焼き魚がなんでこんなに美味しいのかと不思議に思って見ていると、あらかじめ焼いておくということをしないで、お客さんの注文でゆっくりと焼き始めるからだろう。
焼き上がった鯖を口に入れた時の幸福感と言ったら、言葉で説明しがたいのだけど、なんというか、胸のずっと奥の方で、『ああ、美味しい…』という思いがこみ上げてくるのだ。
刺身の蛸も、柔らかく噛み応えがあるのだけど、なんとも言えず美味しい。
そして、お腹いっぱいになって帰る時に、またこの店に来て、ランチを食べたいと必ず思うのだ。
僕はこんな、焼き魚定食のようなランチならば、毎日食べたって構わないと思う。
★季節料理 三味
03-3455-3030
東京都港区三田3-4-6
http://tabelog.com/tokyo/A1314/A131402/13038402/

新しい家。

昔、iPhoneが出た頃、タックスノットのタックさんが、フリック入力について言っていた。
「なんだか、新しい恋人とつきあいはじめた感じなのよね…。今までの恋人とは、やり方がいちいち違うの…」
僕が新しい家に住みはじめて、ようやく2週間くらい経っただろうか?(5日間くらいはいなかったのだけど)
新しい家は、新しい恋人に似ている。
何から何まで違うからだ。
ベランダ三方向に窓があるので、朝起きるとまずは、すべての窓を開けて風を通す。
リビングダイニングが、前は正方形に近かったのだけど、新しい家は細長いため家具の配置が変わり動線も変わった。料理の時にはその配置にまだ慣れない。
寝室が縦長になったので、ベッドサイドにテーブルを置かなくなり様々な本をベッドに持ち込むのをやめたら、すぐに寝るようになった。
以前はフローリングだったのに、今回はカーペットに。液体をこぼさないように…と、自然と暮らし方が丁寧になった。(ちなみに、日本ではフローリングが絶大な人気だけど、僕はカーペットの方が暮らしやすいと思っている。きちんと掃除すれば衛生的にも問題ない。それに、フローリングの素敵なホテルというのを僕は知らない)
前の家には廊下の壁一面に本棚があったのに、今の家には廊下もほぼないので、本をどうやってどこに収納するのかずっと頭を悩ませている。
お風呂は小さくなってしまったけど、水圧が強いので気持ちよい。(新しいマンションでは当たり前のことだけど、古いマンションにしか住んでいないため新鮮だった)
ゴミの分別の仕方までとても細かくやるようになった。(以前は、いつでもゴミ置き場にゴミを出せたし、掃除の方がきっちりと分けてくれていたのだ)
昔よりも飲み歩くことが減って来たように思う。キッチンで料理をしたり、リビングで本を読んでいるうちに眠くなるのだ。
前の家に比べていいことも沢山あるけど、前の家の方がよかったと思うこともある。例えば、静けさ。今の家は、道に近いため、車の音が聞こえてくる。
そして、そんな気になることさえも、暮らしているうちにいつの間にか慣れてきて、気がつけばそんなに気にならなくなっている。
新しい家は、新しい恋人に似ている。

春の準備。

引っ越しに伴って、ほんの少しだけベランダが広くなったので、新しくバラを数本購入した。
すべてオールドローズで、基本的には春だけの一季咲き。その代わり、その姿形は、何百年という長い間、人々に愛されてきたもので、香りが特に素晴らしい。
改良に改良を重ねて、一年に何度か大きく華やかに咲くようになったものの、ほとんど香りもないようなバラを、僕はもう育てたいとは思わなくなってしまった。
バラは、休眠期である12月から2月にかけて植えつけや植え替え、剪定、そして蔓の誘引をする。
毎年毎年、晴れた日を狙っては、寒さに手を震わせながら植え替えるのだけど、ここ数日16度や17度と暖かい陽気が続いていたため、ここを逃すまいと植えつけたのだ。
これから寒さは本番なのだけど、あと1ヶ月もすると春分の日を迎え、ゆっくりと春の訪れを感じる頃には、バラの枝についた芽は、少しずつ赤みを感じはじめてくる。
鉢の中の土を替えて、植え替えるのはとても面倒なのだけど、やがて訪れる春に咲き誇るバラの香りを夢見て、よっこらしょと重たい鉢を動かし、土を捨て、植え替えを終わらせた。
写真は、鉢を並べて一気に植えたのだけど、これから花の色や特性に従って、2つのベランダに配置し直す予定。
いつか、広い庭で、一日中様々な種類の植物の世話をするのが夢なのだけど、その夢が叶うのは、まだ少し先だろうか…。