叔母の襲来。

朝7時頃電話がなって、何かと思ったら叔母だった。

「ただしくん、熱海に遊びに行こうと思うんだけど・・・今日・・・」

「え?金曜日ならいいけど、今日なら仕事調整して休みにするね(ってなんとかなるかな・・・)」

10年くらいちゃんと会ってなかったこともあり断りづらく、叔母の思うように調整することにした。

叔母は、横浜に住んでいるので新横浜で新幹線に乗るときに連絡をもらうようにしていたのだけど、待っていても連絡がこないので、とりあえず急ぎ熱海駅にタクシーを飛ばす。

金曜日ならKが電車で行くと言っていたので車が使えたのだけど、今日は車がないのだ。それに、新横浜からだと30分もかからないため、熱海についてから電話が来たら待たせることになってしまう。

しばらくすると、叔母から電話があって、この後11時10分の新幹線に乗ると言う。そのつもりで待ちながら電車の時間を見ていると、新横浜発のこだまは15分になっている。おかしいなあ・・・と思っていると叔母から電話が。

「ただしくん・・・おばさん、広島行きに乗っちゃったみたいなの・・・車掌さんに聞いたら、次は名古屋だって・・・おばさん、新幹線なんてほとんど乗ったことなかったから・・・」

「え???おばさん、のぞみ乗っちゃったんだね!こだまに乗らないと熱海には止まらないんだよ・・・とにかく名古屋についたら電話してね」

時計を見ると、名古屋に行ってこだまで折り返して戻って来ても、まだまだ3時間以上かかることがわかった。僕は熱海駅で時間を潰すこともないと思い、もう一度タクシーで家に戻り、14時半にもう一度熱海駅に叔母を迎えに行った。

久ぶりに会う叔母は、かなり老けこんでいて、一瞬わからないくらいだった。それもそのはず、叔母は81歳。この10年間で年をとっていたのだ。叔母は我が家の階段を、手すりを捕まりながら慎重に登った。ところどころで咲いているお花たちを愛でながら持って来たカメラで写真を撮っていた。

僕が一番恐れていたことは、Kとのことを聞かれること。叔母は自分に子どもがいなかったこともあり、折に触れ僕に結婚をしないのかといつもいつも聞いてくるのだ。

広いベッドを見ても、干してある洗濯物を見ても、一緒に住んでいる人がいるのか?などとも聞かれることはなかった。叔母は最後まで外の写真を撮りながら、時々海を撫でながら、この我が家を気に入ってくれたようだった。

些細なことで小さな喧嘩をして以来、しばらく会うこともなかった叔母が来てくれたことはとてもうれしかった。話の中で、叔母が自分の家の後片付けをしていることを知った。

叔母は確実に自分のおしまいをわかっているのだ。そして今日、たった二人しかいない甥っ子の一人である僕に会いに来たのだった。

美しさは、やさしさ。

今日は東京のスタジオで女優の撮影だった。

僕は仕事の都合上、今まで色々な著名人に会って来たのだけど、撮影であれ打ち合わせであれ、著名人と会うのは緊張するものだ。

実際に会う前に、「この人、面倒くさそうだな…」などと会う前から気が重いこともあるけど、会ってみると、本人はとても気さくでいい人だったことがほとんどだと思う。

今日久しぶりに撮影した女優さんは、顔立ちが整っていて脚が長くてとてもきれいな人だけど、ご本人が気さくで周りを和ませるようなジョークを言うようなやさしい人。

きっと周りが気を遣ったり緊張しているのをわかっているのだろう。

この人の美しさはきっと、こんな何気ない気配りが出来るやさしさが出ているのだと思ったのだ。

10年ごとの人生。

人生の周期は、9年ごとだとか、12年ごとだとか、さまざまな意見があるけれども、52歳の僕がざっと自分の人生を振り返った時に、だいたい10年ごとにそれぞれの課題なりテーマがあったような気がする。

物心ついてから10歳までは、親の愛情とともに、父母のうまくいかない関係性に翻弄された最も辛い時代。

中学生から成人するまでは、自分がゲイであることの受け入れ難さに思い悩んだ時代。

大学の卒業から30歳になる頃、恋愛の失敗を沢山積み重ねて、最後にはじめて年上の恋人が出来た。

30代は、自分が世界で一番幸せだと思える恋愛をして、世界中を旅行した。その後その恋愛は崩壊し、39歳ですべてを失った。

40代は、死に物狂いで恋人を探し求め、やがてKに出会い、そこから人生にゆっくりと軸が出来はじめた。

そして50代。住み慣れた東京を離れ熱海へ。

都会暮らしで享受出来る生活が必要だとずっと思っていたのに。それほど必要ではなかったということがわかった。もしかしたら、この歳になり必要ではなくなったのかもしれない。

時々こんな風に自分の来し方を振り返ることがある。

自分の人生なんて特に何のストーリーもないように思える時に、思い起こしてみる。

人に自慢できるようなものは何もないけど、そこには自分だけが知っている毎日が確かにあったのだ。

家の周りの桜。

東京では、早くも桜が満開を迎えるようだ。

東京で暮らしていた時は、毎年桜が咲くのを心待ちにしていて、千鳥ヶ淵に見に行くのを楽しみにしていた。

熱海に引っ越して来たら、なぜか桜のことをほとんど気にかけていなかったのだけど、熱海には1月から桜が咲き始めて、その後もずっと様々な桜が町のいたるところで咲いていたから。

そしてようやくソメイヨシノの開花宣言が日本全国で始まって、気がつくと熱海の町中のソメイヨシノや山桜なんかも咲き始めて来ていた。

桜の花の時期は、せいぜい10日間くらいだろうか。

毎日毎日変わって行くその姿を、今年も惜しみながらしっかりと見届けるつもり。

アイスの抽選応募。

Kは甘いものが大好きなので、ほぼ毎日晩ごはんの後にデザートを食べる。

僕自身はお酒があれば良いのであまり甘いものには興味がないのだけど、僕が食べないとKも食べないのでKに付き合って食べるようにしている。

デザートの中には、時々アイスの「モナカ」もあって、二人で半分にして食べるのだけど、そのモナカの袋には抽選に応募できるマークがついているようで、時々Kがそのビニールの袋を捨てる前に丁寧にハサミでマークを切り抜いているのを見かけていた。

今日、晩ごはんが終わってアイスのモナカを食べたら、ハガキを持ち出して来て一生懸命住所や差出人の名前を書き出した。

僕が、「何を書いてるの?」と見ると、「応募するの」とのこと。僕の名前でキャンペーンに応募しようとしていたようで、ここに海の絵を書いてくれというのだ。マジックの真っ黒ののらくろのような犬の絵を書いて、応募ハガキに遊び心を加えた。

「何が当たるの?」と聞くと「すき焼き用の牛肉」とのこと。

4枚くらいのハガキに応募事項を書いて、切り抜いていたマークを一生懸命貼っているKを見ながら、かわいいなあと思ったのだ。

第2回海のトレーニング。

ドッグトレーナーが来てくださったのだけど、このところ毎週末雨が降っているので、今日も家の中で海のトレーニングだった。

海は、クレート(犬用のプラスチックの箱)に入っているのが苦手で、すぐに鳴いて出してくれと言い出すのだけど、実はこのクレート、どこか宿に泊まりに行っても、海を旅行で預ける時も、飛行機に乗っても、常にクレートで管理されるので、クレートの中で大人しくしていられるというしつけはマストなのだ。

おやつをクレートの中に入れて扉を閉めて、時々おやつをあげながら褒めてあげる。途中、クンクン鳴き出したら声をかけつつ、ある程度時間が経つのを待ってから扉を開けて外に出してあげる。これを繰り返し、少しずつクレートに入っていられる時間を増やしてく。

それと、「待て」の練習。海はこの「待て」があまりできずに、すぐにこちらに歩み寄って来てしまう。これも、おやつを持って「待て」を声がけしながら、待たせてからあげる訓練を繰り返す。

「待て」の練習

訓練やしつけというよりも、一緒にルールを学んでいる感じと言おうか。一つ新しいことを覚えると、海のその頭の良さに驚き感動してしまう。

トレーナーさんには偶然函南のドッグランで会ったのだけど、とてもやさしいお姉さんなので、海も安心してトレーニングをしている。

東京から、友人カップルが遊びにきた。

水曜日、札幌の判決もあったので、僕とKは仕事を休み、家で過ごしていた。

そこに偶然合うかのように、東京から友人のゲイカップルが犬二匹と一緒に箱根に旅行に来ている帰りに、熱海の我が家に遊びに来た。

友人たちは我が家の階段を見上げて驚いていた…というか、呆れていた。

「この階段上がるの?」

ミニチュア・シュナウザーの二匹はとてもおとなしいのだけど、海が黒くて大きいせいか怖かったようで、少し警戒していた。海は二匹のシュナウザーと遊びたくてしょうがなくて、ずっとそばに行きたがっていた。

友人カップルとKと海やシュナウザーを連れて近所を散歩する。熱海の中でも山の上にある町並みは、まるで世界が終わってしまったのように静かだ。

札幌訴訟の判決が出た日で、あまりゆっくりすることはできなかったのだけど、また今度ゆっくりと熱海を訪れて欲しい。

熱海には、連れていきたい場所がたくさんあるのだ。

沢山のお土産をいただいた。プードルの小瓶に入ったアンティークの香水瓶がとてもかわいい。

山の春。

ここ数日の陽気で一気に春が萌え出ずる勢いで新芽が吹きはじめた。

家の窓からは、遠い山々がうっすら緑が明るくなって行く様子や、庭にある大樹の新芽が芽吹きはじめたのを見ることができる。

紅葉の大きな木が2本左右にあるのだけど、右側の紅葉が葉っぱを広げはじめ、左側の紅葉は芽がほころびはじめた。

葉っぱが見えて来た右側の紅葉

芽吹きはじめた左側の紅葉

僕たちが入居する前に雑草を全て刈り取ってくれた庭の斜面には、知らぬ間に笹が伸びはじめ、スミレがところどころ顔を出して咲いている。もう少ししたら笹を刈り取らないとと思って見ている。


それと、そこらじゅうに、まだ種類がわからない小さな植物の芽が顔を出しはじめて、これからどんな植物が出てくるのか楽しみがでもある。

12月に植えたチューリップが咲きはじめて、斜面の庭も賑やかになって来た。

これから梅雨が始まるまでの間は、園芸家にとって一年のうちで一番心踊る季節なのだ。

家の周りの花。

毎日2回、海の散歩を1時間くらいかけてしている。

散歩の時間は、海にとっては一日の中で一番楽しい時間であり、僕にとってもとてもいい気分転換になっている。

熱海の家の周りの木々は少しずつ芽吹き始めていて、家の紅葉の芽も開きはじめた。

近所には様々な樹木も植わっていて、春を謳歌するように花々が咲きはじめた。

これから山の新緑を思いっきり楽しもう。

黄梅

ハクモクレン

プリムラの横に野生のスミレ
日向水木

海の不調。

週末に下田旅行に行ってきたのだけど、海が疲れてしまったようで、ウンチがあまり出なくなってしまった。

おそらく、家ではない場所で緊張したのか、2時間のドライブで疲れたのか。

日曜日、家に早めに帰ったのにあまり食欲もなく、そのまま寝たら、朝の3時頃にガサガサ起き出していきなりウンチをした。

今まで、寝ている時にウンチをすることは来た時以外ほとんどなかったのだ。

僕とKは心配になって、初めての旅行が結構疲れてしまったんだろうと話しながらまたベッドに潜ったのだけど、朝方また起き出してウンチをした。

朝ごはんはほとんど食べることもなく、しばらく様子を見ることに。

このところ牛のアキレス腱をかじるおもちゃとして与えていたのが、子犬には消化しづらかったのかもしれないと思い至った。

それからアキレスはあげずに、様子を見ていたところ、少しずつ食欲も出て来たようなので、KにLINEを入れて報告した。

犬が体を壊すと、言葉が喋れないからとてもかわいそうになる。

痛いのか、どこがどんな風に感じるのか、言葉で知ることができたらいいのにと思う。

海は僕たちの子どもなのだ。