欲望という名の電車

『欲望という名の電車』は、1947年にブロードウェーで初演されたテネシー・ウイリアムズによる戯曲。ゲイの必須演劇のひとつと言っても過言ではないだろう。今回、大竹しのぶさんが主演のブランチ役で出演するということで東急文化村のシアター・コクーンに観に行った。
広大な敷地を持つフランス系アメリカ人の名家の出であるブランチが、ニューオーリンズに住む妹の家に突然転がり込んでくるという話。
僕自身は観たことはないのだけど、日本では文学座の杉村春子さん主演が有名で、杉村春子さんはブランチ役を今までに600回演じたという。
没落してゆく名家、それにしがみつこうとする人間の姿。粗野で野蛮な原始的な人間の魅力、そして、『欲望』というとらえどころがなく恐ろしい生き物。ゲイやレイプ、少年愛や狂気を含んだ内容は過激であるとも言われるけど、芝居は静かに人間の本質に迫ってゆく。
フィリップ・ブリーンの卓越した演出にうならされる3時間。舞台美術も衣装も本当に素晴らしい。そしてブランチの宝石のようなセリフの数々・・・。
大竹しのぶさんはちょっとおさえ気味の演技で、北村一輝さんはスタンローの荒っぽい演技がはまっていた。でも今回、ステラという妹役の鈴木杏さんがとてもよかった。それと、ミッチ役の藤岡正明さんも素晴らしい。
映画とは違った演劇という生の空間でしか味わえない不思議な興奮を、久しぶりに堪能した夜だった。
⭐️欲望という名の電車http://www.bunkamura.co.jp/cocoon/lineup/17_desire/

王様と私

渡辺謙がトニー賞にノミネートされたという『王様と私』を観るのが、今回のニューヨークの一つの楽しみだった。
『王様と私』自体は、5年くらい前にロンドンで観ているのだけど、ミュージカルというのは演出家や役者、美術や衣装が違うと、全く別のものになるのだと今回改めて思い知らされた。
リンカーンセンターにある劇場は、舞台に向けて傾斜がついていて、とても一体感のある素晴らしい劇場だ。この劇場で、古くは『カルーセル』、『南太平洋』『WAR HORSE』を観ているのだけど、今回はその『南太平洋』の時と同じ演出家だという。
『王様と私』自体は、WEST MEETS EASTが主軸になっており、そこに、奴隷制度や女性の人権など、しっかりとしたテーマがからんでくる。
はじめ、王様としての渡辺謙が少し威厳がないように思えたのだけど、それはもしかしたら、今回の『王様と私』の演出家の狙いかもしれない。
威厳のあるユルブリンナーで有名な映画の王様とは違って、人懐こくユーモアの感じられる王様に演出されている。
そして後半に行くに従って、王様のキャラクターがぐっと立ち上がってきて、その孤独と温かさを感じられるようになってゆく。
トニー賞を受賞した、ケリー・オハラは堂々とした演技と歌で観客を魅了していたし、第一夫人は見事な歌唱力で助演女優賞を受賞した。
どんなにブルーレイや4Kなどの映像が進化したとしても、決して作ることの出来ないものが、生の芝居にはある。
人間が、ギリシャやローマの時代から何千年も、同じように芝居を観てきたことは、なんでなのだろうと思わずにはいられなかった。
俳優たちの見事な演技に引き込まれ、素晴らしい美術と衣装に魅了され、美しい音楽とともに涙した至福の時間を味わうことができた。
最前席を用意してくれたMに、この場を借りて、心から、ありがとう。

NOWHERE

DIMITRIS PAPAIOANNOUによって、ピナ・バウシュのメモリーに捧げられた舞踏。
簡単に言葉に出来ないものを表現しようとする芸術に触れると、胸がドキドキする。
★NOWHERE (2009)/central scene/for Pina http://vimeo.com/m/100021239

キース・ヘリング

irodoriの壁面を含むMoCAに、キース・ヘリングのポスターが、中村キース・ヘリング美術館http://www.nakamura-haring.comのご厚意で飾られることになった。
キース・ヘリングは、ニューヨークの地下鉄の落書きで一躍時の人になったアーティスト。31歳という若さでエイズで亡くなった。
僕は学生の頃、『ワタリウム』で働いていたのだけど、今でもワタリウムの向かいの小さな家の壁の落書きは、キースが個展の際に来日した時に描いた作品がそのまま残っているのだ。
キースの作品は、ものによってメッセージが強く、人種差別に鋭く切り込んだ作品もあるし、人類の大きな愛をテーマにした作品もある。
真っ白な壁に、キースの作品を飾ると、場の空気が瞬く間に変わり、なんとも言えないエネルギーが発散されているのを感じた。
ゲイへ向けられる差別や偏見、そして自らHIVと戦いながら、エイズへの偏見とも戦ったアーティストの作品は、今の僕たちの世界においてもなお輝きを放っている。

友人の結婚祝い。

シンガポールからまた、友人カップルがやってくる。8月に一緒に旅行をしたLとJの仲良しカップルだ。
実は彼らに、「今度10月に東京に行く時に、日本の陶磁器を買って、カナダに住む友人の結婚祝いとして持っていきたいんだ…探してくれるよね?スーパークイーン?」と言われていた。
僕は、ざっくり日本の陶磁器と言われても難しいなあ…と思いながら、探しておくと答えて、1ヶ月半くらい過ぎただろうか。普通に考えると、三越にでも行って、何か由緒ある焼き物を求めるのだろうけど、それではつまらないと思いながら、ずっと頭の中で考えていた。
早速彼らにいくらくらいの予算か聞いてみた。僕だったら、2〜3万円くらいが妥当かな?と思っていたのだけど、すぐに「USD 2k〜3kくらいかな?」という返事が来た。
「え?22万から33万円???」(世の中にはお金を持っている人がいるものですね…)
『黒田泰三』さんの器は、僕はいくつか持っているのだけど、何もそこに乗っていなくてもあるだけで佇まいがある。実用的に使うというよりも、置いてあるだけで美しさを感じる。
黒田さんの作品は、ニューヨークで個展をやって以来、びっくりするくらい高くなってしまったのだけど、彼らの予算なら黒田さんでも、他の作家の作品でも買えそうだ。
早速ギャラリーに見に行って写真を撮り、彼らに送ると喜んでいた。
「スーパークイーン!
週末には、しゃぶしゃぶを予約しておいておくれ!」
次なるお達しは、しゃぶしゃぶ屋さんの予約だった…。
★黒田泰三さんの器
http://t-gallery.jp/contents/artists/taizo-kuroda-collection

大塚隆史 レトロスペクティブ

『irodori』を含む『MoCA』で始まったタックスノットのマスターであるタックの個展の開催期間が、いよいよ残すところ1週間になった。
前にもここに上げたように、タックは僕の多摩美術大学の先輩であり、昔から娘のように可愛がってもらって来たお母さんのような人。
タックの著作に、『二人で生きる技術』という本があり、人とつきあってゆくことの難しさと歓びを書いているのだけど、この本も何度読んでも読み応えがあり重刷を重ねている。
今回は、6週間という長い会期だったので、前半後半と作品が入れ替わったものもあり、見応えのある展示になっている。
平面から、半立体、立体、舞台、写真、本まで、その活動の幅はとても広いのだけど、ゲイであることを意識し、それを肯定的に捉えていることは、彼の作品にも現れているし、生き方の隅々にまで及んでいる。
随分昔の作品から、最近の絵画に至るまで、細かいレリーフにまでこだわったタックの不思議な作品を前に佇み、何を表現しようとしているのか、ぼんやり考えてみるのも面白いかもしれない。
というのも、どの作品にも、タックの計算された企みが隠されているからだ。
会期中、かなりの割合で、タックが座っているので、気軽に話しかけてみるといいと思う。
自分では気づかなかった作品の考えなど、教えてくれるかもしれない。
★大塚隆史 レトロスペクティブhttps://www.facebook.com/events/1451739858424283/?ref_newsfeed_story_type=regular

大塚隆史 レトロスペクティブ

僕の大学(多摩美)の先輩であり、僕のお母さんであり、タックス・ノットのマスターであるタックさんの個展が、『irodori』の上の『MoCA』で始まり、オープニングパーティーに顔を出した。
今回は、アーティストであるタックの今までの作品を、時代を追って様々に集めた回顧展でもあり、タックの半生を現しているような個展となった。
タックはとても頭のいい人だ。それでいて、自分の表現したいという欲望が湧いた時には、恐れずにまっすぐに表現へと向かってゆく。その時代その時代ごとにタックが関心を持ち、表現しようとしてきたものは違っているし、ひとつひとつの作品にきちんと理由があるのがわかる。
特に圧巻なのは、入り口と2階の壁を飾る立体のオブジェたちだろう。タックの作品を置いただけで、その場所がとたんに不思議なファンタジーの世界に変わっているのだ。
平面のペインティングから、写真とペイントを組み合わせたもの、半立体、立体、繊維を複雑に編み込んだもの、芝居、陰毛を箱に閉じ込めたもの・・・文字ではとても説明することができないので、6週間ある会期中に、ぜひ脚を運んでいただきたい。
★大塚隆史 レトロスペクティブhttps://www.facebook.com/events/1451739858424283/?ref_newsfeed_story_type=regular

舞台『海辺のカフカ』

舞台『海辺のカフカ』は、驚くほど幻想的で素晴らしい出来だった。
ミュージカルやオペラは、海外に行った時によく観ているのだけど、今まで、日本で生ものの舞台を観ることはそんなになかった。芝居は逃げ場がないから、合わなかった時に苦痛の時間を味わうことになる。
蜷川幸雄 演出による『海辺のカフカ』は、卓越した脚本、独創的な美術、繊細な音楽、計算され尽くした照明、強靭な俳優陣によって見事に一体となり、幻想的な作品に仕上がっていた。
僕は村上春樹の『海辺のカフカ』を読んでいないのだけど、不思議な世界へ誘われ、彷徨い、想像をし、考えさせられ、わからなくなり、翻弄された。
この芝居をどんな芝居だったのか、一言で説明することは出来ない。
それこそ、舞台を観る醍醐味ではないだろうか。
★海辺のカフカhttp://www.tbs.co.jp/event/butai-kafka2014/

林克彦 個展

僕は、多摩美術大学を出ているのだけど、一年後輩で、日本画を専攻した克彦の個展がはじまった。
彼の作品は、僕のホームバーであり、新宿3丁目にある『Tack’s Knothttp://www.asahi-net.or.jp/~km5t-ootk/tacsknot.html』で時々展示されていた。
基礎を学んだ者の持つ確かなデッサン力に改めて驚くとともに、和紙に金箔を張り、その上からボールペンで描く手法は、平面の作品に光という要素を取り込み、見る場所や角度によって、見事な立体感を浮かび上がらせている。
今回のテーマはなんなのか、定かではないが、最近の彼の、充実したプライベートが感じられる、幸福感で満ちあふれた作品群が展開されている。
小さなギャラリーは、2階にキッチンも内包しているので、原宿散策のついでにのんびり立ち寄ってもいいかもしれない。
『林克彦 個展 はじまり』
★会期:2013年6月19日(水)〜30日(日)(24日休廊)
★時間:13:00〜20:00(最終日は17:00まで)
★場所 : ギャラリーキッチン
東京都渋谷区神宮前2-19-2
tel: 03-6434-9223 
HP: http://gkit.in/
地図: http://bit.ly/121ke9M

ZANNA

久しぶりに、日本でミュージカルを観た。田中ロウマ主演の、ゲイやレズビアンがテーマになったミュージカル「ZANNA」は、ストレートとゲイの世界があべこべのお話。
男は男同士、女は女同士で恋愛、結婚をすることが当たり前で、異性愛は禁じられているという世界なのだ。
そこでは、アメリカンフットボールよりも、チェスがみんなの人気だったり、飲み物も、アルコールよりもミロが強かったり、何もかもが逆の物差しで計られ存在している。
6日間限定公演ということもあり、美術や照明など安っぽかったり、所々で荒っぽさが残るし、演出も残念ながら稚拙に感じられた。
それでも、歌はきちんと唄えているし、話の着想はとても興味深いと思う。何よりも、こんなゲイネタのミュージカルを日本で公開したこと自体、初めての試みに違いない。
もしも僕たちがマジョリティだったら世界はどんな風に感じるのだろうか・・・そんなこと今まで考えたことも無かったけど、こんなミュージカルを、ストレートの人たちが観て、その中の何人かが、ほんのちょっとだけでもゲイやレズビアンなどのことを想像することがあるとしたら、とてもいい機会になると思う。
それにしても、田中ロウマ、オネエキャラ全開だったなぁ。
★明日23日まで
「ZANNA http://www.tohostage.com/zanna/」