サトウキビ畑のマッチョ。

東京に住んでいた頃は、電車の中や通りを歩いている時、伊勢丹で買い物している時なんかに、ふといい男を見つけて心が動くということが時々あったものだ。

僕たちゲイにとってはそんなことが日々の中のちょっとした愉しみであったりするものだ。

宮古島に来てそれはほとんど完全になくなった。

というか、僕たちの住んでいる地域はサトウキビ畑に囲まれているので、海の散歩をしていても農家のおじいやおばあと挨拶や話をするくらいでおよそタイプの男を目にする機会はなくなった。

それでも近くに自衛隊の宿舎があるので、運が良ければ汗だくでジョギングする自衛隊の男たちを見かける日もある。

先日いつものように朝6時半頃、海を連れてサトウキビ畑の中を散歩していて、ふと道を右に曲がった時のこと、数十メートル先にいきなり若いマッチョの男がタンクトップを着て歩いてくるのが見えた。

僕は朝早かったのと眠かったせいもあり、これは自分の頭の中で起こった妄想なのではないかと思ったほど、サトウキビ畑の中ではおよそ起こり得ないシチュエーションに胸がザワザワした。

僕は男に反応する海のリードを短く持つと男が挨拶をして来た。

「かわいい犬ですね…大きいですねー」

「人が好きですぐに近寄って行っちゃうんです…」

日に焼けた盛り上がった肩といい、太い腕といい、見た目は200%ゲイではないか。顔は宮古島の顔で二重パッチリ、年は30代はじめくらいだろうか。

向こうも一瞬で僕がゲイだとわかったに違いない。

ゲイには生まれながらの立派なゲイダーが備わっているのだ。

僕は、油断をして寝癖をつけたまま、夜寝ていたままのTシャツを着ていた自分を悔しがった。

また会えるかな?サトウキビ畑の中のマッチョ。

それにしても朝っぱらからあんなところで何していたんだろう?

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