熱海、山の家。2

山の中に住むことにしたのは、窓からの景色が美しかったから。

大きな紅葉が悠々と生い茂り、夏に初めて訪れた日に、クヌギの木には、雌雄のクワガタが仲良く並んでいたのも不思議な縁を感じたのだ。

綺麗に刈り取られた雑草。(すぐに生い茂るに違いないけど)

家までのアプローチは、階段が50段くらいある。

でも、実際に住むとなると、きっと虫もすごいだろうし、獣だっているに違いない。

今のマンションでは、せいぜいネズミやハクビシンを気にして生活していればよかったのだけど、これからは、猿やイノシシ、鹿を気にしないといけないみたいだ。先日熱海にいた時に、町中に放送が入り、「伊豆山で黒い熊らしきものが出たので、山には近づかないように」と言っていたが、住む以上、近づかないわけにもいくまい。

伊豆半島には、圧倒的に鹿の数が多く、イノシシ、猿、その他の動物の数が続いて、人間の数なんてほんのわずかなのだそうだ。それを思うと、人間が我が物顔で生活しているのは、動物にとって見たらなんて事のない自分たちの王国に、人間が時折ちらほら現れる程度にしか写っていないのかもしれない。

これから毎日の山の暮らしの中で、季節を思う存分に体験できるだろう。

熱海、山の家。

今月末の引越しを前に、契約も含めてもう一度熱海に行くことにした。

熱海では、海の見える家を何軒も見たのだけど、結局住む家は、山のなかの家にした。この家に決めるまで、僕はとても迷ってしまって、途中、Kが「もう引越しやめようよ」という出すくらい、なかなか踏ん切りがつかない状態の時があった。

それは、ずっと海を眺めながら暮らしたいと思っていたのに、「山の物件でいいのだろうか?」と感じていたから。自分の中で山なのか海なのか、行きつ戻りつしながら考えていたのだけど、このままだと引越しもできなくなりそうに思い、思い切って踏み出すことにした。

引越しって、めちゃくちゃお金もかかるし、体力のいることだ。一度盛り上がっていたやる気がしぼんでしまったら、来年の春だってその気持ちが奮い起せるかどうか、わからないではないか。

この茂みの上に家がある。この山の雑草を入る前に清掃してもらうことに。

今回、最後の確認に不動産屋さんと物件を訪れた時に、今まで見ていなかった和室の窓を開けて、左側を覗くと、なんと遠くに海がほんの少し見えたのだ。

僕は地図からすると、もしこの家が高かったら、海が見えるだろうと踏んでいた。でも、あいにく周りは大きなクヌギや紅葉が多い茂る山の中、それに僕たちの住む家は平家なのだ。完全に海のことも忘れていたところ、秋になって木々の葉っぱが落ち始めたからか、遠く海がちょっこりと顔を出した。

それはまるで、これから引っ越してくる僕たちへの、神様の贈り物のように思えたのだった。

ラプアンカンクリのポケットショール。

長年愛用しているリネンを買っている「ラプアンカンクリ」で、ポケットショールを買った。

大きなヘリンボーン柄と、シックな色合いに虜になってしまったのだ。

送られて来た色違いの2つのショールを開けると、
「これ、どうやって着るの?」とKが呟く。

「肩からかけたり、膝にかけたり、でっかいマフラーみたいにしたり、どうやってもいいじゃん。大きすぎず小さすぎず、便利だよ」

「へー」

早速寒くなって来たので、晩ご飯を食べながら、膝にかけてみた。ショールは暖かく、それでいて軽いので手軽だ。

膝にナプキンのようにかけて、向かい合って座っているKに残りの部分をかけると、嬉しそうに僕のショールの下に足を入れて来た。

二人で一緒に入るショールの下は、とっても暖かかった。

⭐️https://lapuankankurit.jp/discover/always-by-myside-pocketshawl/

WASABI

犬を飼おうとKと決めてから、犬の出ているYoutubeを追いかけて見ている。

その中で、僕たちのお気に入りは、「WASABI」というトイプードル犬の出ているもの。

そのWASABIは実は保護犬なのだけど、とてもやさしい里親家族にもらわれて、一つ一つ経験して少しずつ大きくなっていくYoutubeは、見ているこっちが癒されるのだ。

WASABIは、元々ペットショップに売られていたであろうトイプードルなのだけど、身体が普通のトイプードルに比べて大きいためか売れ残り、4ヶ月で捨てられたのだそうだ。

この話自体、怒りがこみ上げてくるのだけど、この国で犬を捨てる人たちが絶えない状態は、動物の命を守るために、法律で決めなくてはいけない段階にあるのだと思う。

かわいくて癒されると同時に、保護犬のことを改めて考えさせられる素晴らしいYoutube。

⭐️WASABIhttps://www.youtube.com/watch?v=ZRssLgYLcmA&vl=ja

怒るK。

夏からずっと進めてきたCMの企画が、金曜日にほぼ決済がおり、一段落していたのだ。これでやっと、ゆっくりと眠れると。

それなのに、それなのに・・・火曜日夕方に呼び出されて、3本のうち2本がひっくり返ってボツになってしまった。

僕はさすがに、3回もひっくり返されて意気消沈し、怒りやら吐き気やらで、「これからどうしようか・・・」と考えていた。

でもそれを、Kにはあまり知られないように、なんとか自分の中に止めようとしていたのだけど、晩ごはんの時にKはすぐにわかったようで、起こりはじめた。

「ただしくん、もうこの仕事やめてあげて」

「しょうがないよ。こういう仕事なんだから。企画が決まるまでもう一度頑張るよ」

「もうこんな無茶なこと言う会社、ほんとやだ。クリエイティブもやめればいいじゃん。もっとゆっくりした部署にいけば」

「大丈夫だよ。もう一回頑張るよ」

必死になって僕を守ろうとして怒っているKを見ながら、自分がしっかりしなくてはダメだと思ったのだ。

僕が傷つくと、家族も同じように傷つくものだ。

そんな姿を見て、もう一度立ち上がろうと思った夜だった。

Kの面接。

熱海への移住が決まり、Kは早速仕事探しをはじめていたみたいで、三島にある病院に面接に向かった。

病院側は、通常勤務の社員を求めているようだけど、今までいくつかの病院での勤務を経験したKは、再就職を慎重に選ぶようになったようだ。

夜勤があったり、早朝から夜遅くまでの勤務であったり、休みのないブラック病院を避けるようになっていた。

面接から帰ってきたKにどうだったかと手応えを聞くと、「うん。向こうは通常勤務を求めているみたいだった」「それでどう言ったの?」

「朝は、8時殻みたいだけど、熱海から遠いので9時半からならいけると答えたの。夕方は少し遅くなってもいいと」

「そんなこと言って大丈夫なの?病院ってみんな朝早いじゃん」

「でも、8時に行くには、7時すぎには出なきゃいけないし、それが毎日だときついよ」

「そうだね・・・そしたら国立だし難しいかもね」

そんな話をしていたら、程なく内定の通知が届いた。

「よかったね。ブラック病院じゃなければいいけど」

「嫌ならすぐにやめたらいいよ」

どうやら、自分の好きなように条件を出して、受け入れてもらえそうだ。

僕たちの移住計画も、少しずつ進みはじめている。

失くした財布。

9月19日(土)に、Kが渋谷で財布を失くし、探したけど見つからず警察に届け出たことをここに書いた。

その時に、クレジットカードを止めて、銀行を止めて、その後少しして出てくる気配がないので保険証を再発行して、運転免許証も再発行した。

警察によると今の日本では、失くした財布は60パーセントくらいの確率でしか見つからないようだ。どうやら残りの40パーセントに入ってしまったみたい。

そんな話をしながら、「人の財布を見つけて、お金は抜いて、そのまま財布は捨てちゃったのかな?・・・どういう育ち方してるんだろうね・・・」と僕は時々怒っていたのだ。

そして、そんなことさえ忘れていた今日、17日も経って急にバス会社から電話があり、見つかったのだ。

早稲田のバス停まで取りに行くと、傷一つついていない水色の財布が見つかった。

現金2千円も、カード類も、保険証も免許証も全てそのまま入っていて、バス停によると、「今日見つかりました」とのこと。

僕は勝手に、「あああ、もう今の日本は昔の日本と違って失くした財布は見つからないんだ・・・」と思っていたのだけど、そんなことはなく、まだまだこの国では人の善意は、しっかりと残っているということを教えてもらったのだった。

フェアウェル

オークワフィナは「クレイジー・リッチ」でぶっ飛んだ友達役をやって印象に残っていた女優。この映画によってアジア系で初めて、ゴールデングローブ賞の主演女優賞を獲得した。

制作は、このところヒットを飛ばしまくっているスタジオ「A24」。わずか4館の上映から始まり、それが全米トップ10入りするまでに拡大したという話題作。

オークワフィナ演じるビリーは、NYで暮らす中国系移民。親戚や祖母は中国で暮らしており、大好きだった祖母に癌が見つかり、余命わずかだという宣告を祖母本人には知らせずに、家族が祖母にとって幸せな時間を過ごさせてあげようと画策する。

この映画の興味深い点は、全て白昼の元にさらけ出して、本人に余命を伝えることを良しとする欧米の考え方と、本人には知らせずに、気遣いながら楽しい時間を過ごさせてあげようとする、どちらかというと家族の思いを優先するアジア的な考え方を対比させながら、観ている我々に考えさせるところ。

笑いながら、じっくりと考えさせられた素晴らしい作品だった。

⭐️フェアウェルhttp://farewell-movie.com

Kとはじめて、僕の母の家へ。

母と父は僕が高校を出た後に離婚しており、父はずいぶん前に亡くなっていて、母は僕が働き始めてしばらくしてから再婚をした。僕はその後、母の養子になったので、僕は現在の父とは血が繋がっていない。

「同性婚訴訟」に原告として出ることを決めた後に、僕は母にきちんと自分の口からカミングアウトをして、その後、パートナーであるKを母と父に会わせるべく、外食をしたのは、もうかれこれ1年半近く前になる。

それからいつか母のいえにKを連れて行きたいと思っていたのだけど、それがやっと実現したのだ。

Kは僕の母に会いに行くので気をつかっているのか、珍しく襟のついたシャツを着て、朝10時の開店を待って新宿高島屋に行き買い物をして、電車に乗った。

駅には母が車で迎えに来てくれていて、母の家に着くなり次々と料理が運ばれて来た。

母はその元来の単純な性格のためか、Kを疑いもなく僕のパートナーとして受け入れていて、なんの迷いも不安な要素もないのがわかる。

父は、今までLGBTなど聞いたこともなかったような人で、僕がカミングアウトをした時に完全には受け入れていなかった人だ。そして、Kにとても気をつかっているのがわかり、お酒を何度もついで飲ませようとしていた。

帰りがけ、僕が少し心配したのは、僕とKは16歳年の差があるので、そんな男二人と父母が歩いていたら、「周り近所にどう思われるだろうか?」ということだった。

バス停まで二人が見送ってくれたのだけど、僕の心配などよそに、父も母も近所の目を気にする様子もなく、普通に息子カップルを見送る父と母に見えた。

父は、血の繋がらない僕を養子にして、その後急にその息子がゲイだと告げられ、やがて男の恋人を伴って家に現れ、その展開にもしかしたらまだ抵抗があるのかもしれない。

でも、こうして少しずつじっさいにKと会うことで、僕たち家族の距離も少しずつ縮まっていくのがわかる。

大切なことは、こちらの関係性を一気に押し付けることではなく、少しずつ向こうの速度で考えてもらい、時間をかけて変わっていけたらいいなと思えること。

少しずつだけど僕たち家族の関係性も、良くなって来ているのがわかる。

久しぶりのタックスノット。

ずっと長いこと、新宿2丁目には顔を出していなかった。「Bridge」にさえ、やっと先週末に顔を出したくらい。「ぺんぺん草」には、もう長い間行けていない。

そしてもう一つの僕の行きつけのお店「タックスノット」に、やっとのことで顔を出すことができた。

この店のオーナーであるタックさんは、今のところ金曜日の17時から20時までしか、タックスノットには立たないのだ。長年通いつめた常連のお客さんは、この時間めがけて来る人が多く、僕たちが行くとほどなくして満席になった。

僕の近況やら、引越しすることなんかをやっとタックさんにお話することができたのと、久しぶりに会えたことでほっとすることができた。

新宿2丁目のお店に顔を出さなかったのは、Kが病院で務めているため。病院からは、家族以外の人との会食は禁じられているから。

僕がもし会食をして。それが原因で新型コロナウイルスの陽性になったとしたら、間違いなくKにもうつるだろうし、うつったことを気づかずにKが勤務を続けていたら、あっという間に病院での院内感染を招いてしまうかもしれないから。

慎重に慎重を重ねて今までなんとか穏やかな毎日を保って来られたのだ。今はまだなるべく慎重に暮らしていこうと思っている。